新業態「DON DON DONKI」の秘密ドンキホーテホールディングは2018年6月期決算にて、29期連続増収・営業増益を達成。2019年6月期には前倒しで翌期の売上げ目標であった1兆円に手が届く勢いです。
同社は日本の少子・高齢化におけるマーケットの縮小を見据え、成長著しいアセアン市場6億の消費者を獲得すべく生み出したのが、新業態の「DON DON DONKI」。この店舗は今、シンガポールでお値打ち価格で日本ブランドが購入できるお店として支持されています。
先日、シンガポールでこの新業態1号店を訪れましたが、そこから見えてきたのは、同社の「日本とアセアンの間でシナジーを生み出すための秘策」でした。
『同社独自の売場演出を通して、新業態のコンセプトやジャパンブランド・スペシャリティーストアの存在を明確化、訪日旅行者を核とする顧客リピートを喚起させる』。ここではそのDON DON DONKIの戦略を明らかにします。
並んでも買いたい焼き芋がブランドをつくる!
DON DON DONKIがあるのは、シンガポールの目抜き通りオーチャードに面する高感度なファッション商業施設「オーチャードセントラル」。この地下2階に地下鉄にアクセスしたコンコースがあるのですが、訪店時、そこでは販売開始前なのに自家製の焼き芋を買おうとするお客の行列ができていました。
ドンキ指定農園で栽培したサツマ芋(茨城県産)を使った自家製の焼き芋。それをDON DON DONKIでは、1つ2ドル80セント(シンガポールドル80円換算で230円ぐらい)で販売していますが、これは日系百貨店などの半分の価格です。
並んでいる20代の若者に焼き芋を買いに来た理由を聞くと「インスタとかFBでDON DON DONKI旨い!という投稿を見て来ました! 日本の焼き芋は甘くておいしいと噂になっているので楽しみです!」と答えてくれたのでした。
同社がアセアン進出1号店の出店場所を世界の旅行者が中継地として集まるシンガポールの中心・オーチャード通りにしたのは、そこで行列ができる店になることで、アセアンではまだ無名のドン・キホーテの名を轟かせるためでしょう。
そして、それを通じてこの新業態が提供する日本の商品が「正真正銘の日本産の本物である」という信頼を勝ち取ろうとしているのです。
よく考えられているライフスタイル提案の客動線
DON DON DONKIの客動線は秀逸で、以下のようにつくられています。
1)地下鉄サマセット駅を使う乗客がコンコースに入ると焼き芋を待つ長い行列が自然に見える。
(2)そこを通り過ぎると“焼き芋BAKED SWEET POTATO衝撃のうまさ!”と書かれた看板とともに、1人2つまで購入可のPOPを掲げたドンキのキャラクター「ドンペン」が目に飛び込んでくる。
(3)その奥には日本語で惣菜、弁当、丼とカラフルなドンキカラーともいえる柿色地に書かれた目立つPOPが目を引き付ける。
(4)このイラストタッチのカツ丼と注釈のMUST TRY(絶対食べて!)の文字で、そのおいしさを連想させることで、通りすがりの人も売場に引き込み、カラフルなPOPが迷路仕立ての店内を一方通行で導いていく。
(5)そこで出会うのは、お値打ち感を意味する「驚き」「価格の限界」「情熱価格」に続き、「日本品質」「日本の旬」「日本企画」「日本の便利」「日本の女子会」「コンセプト オブ ジャパン」「懐かしの駄菓子」という日本をイメージさせるPOPの数々。
DON DON DONKIは、これらPOPを通じて売場の随所で日本の食文化でPRしているのです。
・日本人はお米好き、だからこのお米を選びました/・私たちの鉄板焼き、おむそば、広島焼き、お好み焼き(種類や材料、料理法の説明)/・生姜焼きとは?(ショウガを使う理由や家庭でよく食べる人気メニューであることを解説)
(6)そして、店内を回りながら、POPを通して日本の食を疑似体験しているシンガポールの消費者に対して、同店はお薦めのキッチン用品を提案するのです。
DON DON DONKIは、日本の食材を販売すると同時に食文化の背景を来店客に伝えることで、店内の非食品も買いたくなる仕組みを構築。顧客が日本ブランドで全てをそろえたくなる雰囲気を売場演出でつくりあげようとしているのです。
新業態で今後のビジネスモデルを再構築?