乾麺の饂飩が山ほど手に入った。まさに、捨てる神あれば拾う神ありである。
ここで一つ、私の情報をカミングアウトすれば、私は、男で、既婚者です。
その配偶者の実家から大量の乾麺をいただき、それをさっそく今日の昼に食うわけです。
まあ仕事もせずにおまんまにありつけるわけだから、この世も捨てたものではない。大いに甘えて過ごすも、時にはよろしかろ。
しかしもし、今この状態で独身だったとしたら、私はどうなっていたか、そう思って冷蔵庫の中をのぞくと、マヨネーズ、ケチャップ、卵二個、わさび、からし、ポン酢、しょうゆ、めんつゆ、など、およそ腹の足しになるものはなし。唯一の卵も二個では、茹でても焼いても本意なし。
ありがたき幸せ。たぎる寸胴の湯気よ、お前は何と慈悲深いのであろう。貧乏暇なしと言うが、あれは嘘だ。と思った次の瞬間、貧乏とは労働者の下の方を指す、ワーキングクラスの事を言う。だから私はそれにも及ばない、フリーライフファンタジスタなわけだから、貧乏のカテゴリーにも入らない。足が遅い、と言われるにはまず走らねばならず、じっとしている奴にだれも足が遅いとは言わないように、私はこの不毛な時間をいったい、ナニモノとして過ごせばいいのか。
フリーライフファンタジスタ。これしかないのか。
接骨院はいつもの通り、マッサージと電気と超音波。この超音波の機械が、我々世代にはたまらない、あの、昔から潜水艦と言えばこの音、と言う、
プーン、プーンという音が鳴ってるんです。だから私は目を閉じて、(右舷前方、一四○○の方向に、バルチック艦隊の船団を補足いたしました。魚雷装填、発射準備!)などと、妄想しながら過ごすのです。楽しい接骨院。願わくば早く全壊してほしい、わが両膝。
本日の埼玉県は雨。かなりサブいです。
これもピカピカのガルペ、イン 加斗パーキングエリア 誰もいません。
----------------------------運命の道を歩いてみよう-中編 『水口』(その1)-------------------------
2
かつて希望が一つ生まれた。と同時に罪が一つ生まれた。
「何書いてんすか? 仕事中っすよ」突然耳元で言われ、内海は慌てて振り向く。
「なんすか? 今の。小説っすか? 小説家目指すんすか?」と水口はじっとりと太った体を寄せて、それ以上にじっとりと充血した目で内海を見つめて言った。
「何すか? 何すか? その慌て様。俺別に、何も勘ぐってないですよ」笑うと小鼻の横に深いしわが出来、そこにいつも汗か皮脂のツヤが挟まっている。内海は何も言わずパソコンを閉じた。実際、なにをしていたわけでもない。
「あのことは、絶対秘密っすよ。お願いしますよ」そして水口は必ずそう言うのだった。
ここ数年はこうして、午前中は社内で何もせず過ごし、午後は取引先を回る。取引先と言っても古くから取引のある、それも公の息の掛かった会社がほとんどで、新しい仕事はそこを通じて年単位で直接社の方に依頼が来る。だから内海達営業は、実際には一日中何もしていないのと同じだった。仕事は長期レンタルの会議机や椅子、パーティション、OA機器や、社用車などの、定期点検や消耗品の交換などが主だった。
水口はリース系企業からの中途採用で三年前に入社してきた。まだ三十歳代前半だろう。かつては大手だったこの会社にはそれなりに期待して入ったというのだが、前の会社以上に荒廃ぶりが酷いと言う。相変わらず若い社員は会社の金蔵を食い荒らしては、空伝票を切りまくっている。バブル時代の貯えで辛うじて生きてる感じだと水口はいう。そのバブル時代に身を粉にして働いた社員が目の前にいることなど、ハナから興味もないらしい。
あのこと、と水口が言うそれは、焼き鳥居酒屋『金ちゃん』があったビルの後に出来た新しいビルでのある出来事がきっかけだった。そのビルには、『ほーりーあんどぶらいと』というまんが喫茶があり、水口はそこの常連だった。内海はそのまんが喫茶のワンフロア上にある登山用品店をしばしば訪れていた。最近足腰に衰えが気になっていた事と、五島も登山に興味があるというので、二人で始めたのだった。
ここで一つ、私の情報をカミングアウトすれば、私は、男で、既婚者です。
その配偶者の実家から大量の乾麺をいただき、それをさっそく今日の昼に食うわけです。
まあ仕事もせずにおまんまにありつけるわけだから、この世も捨てたものではない。大いに甘えて過ごすも、時にはよろしかろ。
しかしもし、今この状態で独身だったとしたら、私はどうなっていたか、そう思って冷蔵庫の中をのぞくと、マヨネーズ、ケチャップ、卵二個、わさび、からし、ポン酢、しょうゆ、めんつゆ、など、およそ腹の足しになるものはなし。唯一の卵も二個では、茹でても焼いても本意なし。
ありがたき幸せ。たぎる寸胴の湯気よ、お前は何と慈悲深いのであろう。貧乏暇なしと言うが、あれは嘘だ。と思った次の瞬間、貧乏とは労働者の下の方を指す、ワーキングクラスの事を言う。だから私はそれにも及ばない、フリーライフファンタジスタなわけだから、貧乏のカテゴリーにも入らない。足が遅い、と言われるにはまず走らねばならず、じっとしている奴にだれも足が遅いとは言わないように、私はこの不毛な時間をいったい、ナニモノとして過ごせばいいのか。
フリーライフファンタジスタ。これしかないのか。
接骨院はいつもの通り、マッサージと電気と超音波。この超音波の機械が、我々世代にはたまらない、あの、昔から潜水艦と言えばこの音、と言う、
プーン、プーンという音が鳴ってるんです。だから私は目を閉じて、(右舷前方、一四○○の方向に、バルチック艦隊の船団を補足いたしました。魚雷装填、発射準備!)などと、妄想しながら過ごすのです。楽しい接骨院。願わくば早く全壊してほしい、わが両膝。
本日の埼玉県は雨。かなりサブいです。
これもピカピカのガルペ、イン 加斗パーキングエリア 誰もいません。
----------------------------運命の道を歩いてみよう-中編 『水口』(その1)-------------------------
2
かつて希望が一つ生まれた。と同時に罪が一つ生まれた。
「何書いてんすか? 仕事中っすよ」突然耳元で言われ、内海は慌てて振り向く。
「なんすか? 今の。小説っすか? 小説家目指すんすか?」と水口はじっとりと太った体を寄せて、それ以上にじっとりと充血した目で内海を見つめて言った。
「何すか? 何すか? その慌て様。俺別に、何も勘ぐってないですよ」笑うと小鼻の横に深いしわが出来、そこにいつも汗か皮脂のツヤが挟まっている。内海は何も言わずパソコンを閉じた。実際、なにをしていたわけでもない。
「あのことは、絶対秘密っすよ。お願いしますよ」そして水口は必ずそう言うのだった。
ここ数年はこうして、午前中は社内で何もせず過ごし、午後は取引先を回る。取引先と言っても古くから取引のある、それも公の息の掛かった会社がほとんどで、新しい仕事はそこを通じて年単位で直接社の方に依頼が来る。だから内海達営業は、実際には一日中何もしていないのと同じだった。仕事は長期レンタルの会議机や椅子、パーティション、OA機器や、社用車などの、定期点検や消耗品の交換などが主だった。
水口はリース系企業からの中途採用で三年前に入社してきた。まだ三十歳代前半だろう。かつては大手だったこの会社にはそれなりに期待して入ったというのだが、前の会社以上に荒廃ぶりが酷いと言う。相変わらず若い社員は会社の金蔵を食い荒らしては、空伝票を切りまくっている。バブル時代の貯えで辛うじて生きてる感じだと水口はいう。そのバブル時代に身を粉にして働いた社員が目の前にいることなど、ハナから興味もないらしい。
あのこと、と水口が言うそれは、焼き鳥居酒屋『金ちゃん』があったビルの後に出来た新しいビルでのある出来事がきっかけだった。そのビルには、『ほーりーあんどぶらいと』というまんが喫茶があり、水口はそこの常連だった。内海はそのまんが喫茶のワンフロア上にある登山用品店をしばしば訪れていた。最近足腰に衰えが気になっていた事と、五島も登山に興味があるというので、二人で始めたのだった。
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