読者の多くは「80対20の法則」という法則をご存じだろう。「全所得の8割は、人口の2割の富裕層が持つ」「売り上げの8割は、全顧客の2割に依存している」など、成果や結果の8割はその要素や要因の2割に基づくという一般法則だ。この法則はさまざまな現象や場合を説明する際に用いられる。
アイナスの塩見智和氏によると、ソフトウェア開発プロジェクトにもこの法則が当てはまるという。同氏は「一般にソフトウェア開発プロジェクトの8割が赤字プロジェクトといわれ、残りの2割の成功プロジェクトで利益を出している」と分析する。また、「赤字プロジェクトに陥る原因は、プロジェクト計画での見積もり精度が低いままプロジェクトを開始することにある」と説明する。その結果、プロジェクト開始後に仕様変更が続出するなどタイムロスが発生し、収支管理がうまくいかなくなるというのだ。
こうした課題を解決するためには、従来のような手作業によるプロジェクト管理(以下、PM)ではなく、さまざまなプロジェクト情報を定量化するツールを活用することが重要だ。しかし、そのツールにも問題があると塩見氏は指摘する。
現在普及しているPMツールは、国際的なプロジェクト管理の知識体系である「PMBOK」を適用しているものが多い。塩見氏は「日本のソフトウェア開発環境は複数の企業が関与する重層構造になっており、また、もともと現場主導でファジーなプロジェクト管理を行ってきたので、PMBOKの手法は簡単にはなじまない」と語る。その上で「日本のソフトウェア開発の文化をうまく取り入れ、プロジェクトマネジャーや現場が抱える悩みを解消できるプロジェクト管理ツールを提供することが必要だ」と考えて開発したのが、同社のプロジェクト管理ツール「PM-BOX」であるという。今回は、アイナスのPM-BOXを紹介する。
●金銭と同様に“時間”も伝票で管理する
PM-BOXは2005年5月、ソフトウェア開発プロジェクトにおける工程集計・分析システムとして開発された。その後、2008年11月に工事進行基準に対応したプロジェクト管理システムとして機能拡充を行い、複数プロジェクトの収益総額や原価総額、進ちょく度をリアルタイムに管理する機能を搭載した。
PM-BOXでは「時間伝票」という概念が使われている。塩見氏は「『時は金なり』という言葉があるが、時間についても、金銭の動きと同様に伝票として記録していくことで、企業の実態を正しく把握することができる」と説明する。
PM-BOXは、会計処理において金銭の取引が発生したときに出金伝票や入金伝票を作成するように、プロジェクトメンバーの実際の作業時間を伝票に記録し、それを管理単位とする点が特徴である。プロジェクトの時間と金銭の両面の信頼性を担保し、精度の高い見積もり作成および収支管理を実現するというものだ。さらに、メンバー1人ひとりが時間伝票を付けることで、現場からのボトムアップによるプロジェクト管理も実現できるという。
●日報作成機能で現場メンバーの“見せる化”を推進
ここからは、PM-BOXが提供する機能を具体的に見ていこう。
時間伝票の軸となる機能が「日報作成機能」だ。現場メンバーにWebベースの日報入力画面が提供され、現場メンバー本人が日次で作業の進ちょく状況をリアルタイムに入力していく。日報入力画面では、作業時間や作業内容を15分単位で入力できるほか、進ちょく状況や勤怠情報の登録、上司やほかのメンバーに伝えたいことを入力できる機能も用意されている。
日報入力画面で登録された情報は、プロジェクトマネジャーが登録した各プロジェクトのWBS情報や原価情報などとリアルタイムに連動する。プロジェクトマネジャーは、WBS編集画面から現場メンバーの日報登録情報をチェックして承認を行う。承認された時点で日報データはロックされるため、後から勝手にデータを変更することはできず、信頼性の高いデータを蓄積することが可能となる。
また、PM-BOXではプロジェクト全体の状況を、現場メンバーからプロジェクトマネジャー、経営層まで共有することができる。さらに、外注に業務委託しているSIerなどでは日報作成機能を協力会社にも提供でき、複数の企業間におけるプロジェクト進ちょくの一元管理が可能になる。
無理な“見える化”は禁物
プロジェクト管理ツールの問題点として、現場で活用されないことも指摘される。この点について、塩見氏は「上層部が無理に“見える化”させようとするのが原因だ」と指摘する。PM-BOXの日報作成機能は、現場メンバーの“見せる化”を推進することが目的であるとし、「自分が入力した作業情報が確実にプロジェクトの成果に反映され、評価にも直結するようになれば、現場メンバーのモチベーションも高まり、作業効率の向上にもつながる」と説明する。
●工程・進ちょく・原価データを一元管理し、自動で集計・分析
日報作成機能に加え、PM-BOXのもう1つの特徴的な機能が「集計・分析/レポート」機能だ。各種データを一元管理して集計し、ガントチャートやEVMグラフ、売り上げ・原価・収益表、実行予算実績表、勤怠表、プロジェクト報告書などを自動的に作成することが可能だ。これにより、プロジェクトマネジャーの報告業務の作業負荷を軽減することもできる。
EVMグラフでは、PV(出来高計算値)、AC(コスト実績値)、EV(出来高実績値)の値をベースに、複数プロジェクトのリアルタイム条件把握・未来予測を行うことが可能で、プロジェクトの状況を「順調」「注意」「危険」の3段階で色分け表示する。また、EVM売上高と原価比例売上高の2種類を同時に表示することもできる。
さらに、集計・分析/レポート機能には「プロジェクトバッファ」と「作業進捗遅れ理由・WBS変更理由統計」といった、プロジェクトの進ちょく分析を支援する機能が用意されている。
プロジェクトバッファでは、WBSの完了予定日とプロジェクトの完了予定日の間を予備バッファ期間として用意。プロジェクトマネジャーは、この予備バッファを管理することでプロジェクトの遅れ状況、作業者の遅れ状況を把握し、プロジェクト納期に合わせた進ちょく管理が可能となる。
作業進捗遅れ理由・WBS変更理由統計では、日報から入力されたWBSの変更理由や進ちょくの遅れ理由を集計してグラフで表示する。これによって、いつどんな理由でWBSを変更したのか、またどんな理由で誰のタスクが遅れているのかを可視化することができる。
●基本機能に絞り込み、導入しやすいツールに
PM-BOXは本体価格が105万円、1ユーザーライセンス当たり1万500円(いずれも税込み)。塩見氏は「プロジェクト管理に必要最小限の基本機能に絞ることで、本体価格を抑え、導入しやすいツールとした」と語る。また、機能拡張を希望するユーザーには、別途、オプション機能や個別カスタマイズで対応するほか、導入・運用を支援するコンサルティングサービスも用意している。
同社は今後オフショア開発の拡大を目指し、アジア市場の開拓を視野にPM-BOXの英語版の提供を開始する予定。さらに、クラウドサービスでの提供についても検討を進めているという。
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アイナスの塩見智和氏によると、ソフトウェア開発プロジェクトにもこの法則が当てはまるという。同氏は「一般にソフトウェア開発プロジェクトの8割が赤字プロジェクトといわれ、残りの2割の成功プロジェクトで利益を出している」と分析する。また、「赤字プロジェクトに陥る原因は、プロジェクト計画での見積もり精度が低いままプロジェクトを開始することにある」と説明する。その結果、プロジェクト開始後に仕様変更が続出するなどタイムロスが発生し、収支管理がうまくいかなくなるというのだ。
こうした課題を解決するためには、従来のような手作業によるプロジェクト管理(以下、PM)ではなく、さまざまなプロジェクト情報を定量化するツールを活用することが重要だ。しかし、そのツールにも問題があると塩見氏は指摘する。
現在普及しているPMツールは、国際的なプロジェクト管理の知識体系である「PMBOK」を適用しているものが多い。塩見氏は「日本のソフトウェア開発環境は複数の企業が関与する重層構造になっており、また、もともと現場主導でファジーなプロジェクト管理を行ってきたので、PMBOKの手法は簡単にはなじまない」と語る。その上で「日本のソフトウェア開発の文化をうまく取り入れ、プロジェクトマネジャーや現場が抱える悩みを解消できるプロジェクト管理ツールを提供することが必要だ」と考えて開発したのが、同社のプロジェクト管理ツール「PM-BOX」であるという。今回は、アイナスのPM-BOXを紹介する。
●金銭と同様に“時間”も伝票で管理する
PM-BOXは2005年5月、ソフトウェア開発プロジェクトにおける工程集計・分析システムとして開発された。その後、2008年11月に工事進行基準に対応したプロジェクト管理システムとして機能拡充を行い、複数プロジェクトの収益総額や原価総額、進ちょく度をリアルタイムに管理する機能を搭載した。
PM-BOXでは「時間伝票」という概念が使われている。塩見氏は「『時は金なり』という言葉があるが、時間についても、金銭の動きと同様に伝票として記録していくことで、企業の実態を正しく把握することができる」と説明する。
PM-BOXは、会計処理において金銭の取引が発生したときに出金伝票や入金伝票を作成するように、プロジェクトメンバーの実際の作業時間を伝票に記録し、それを管理単位とする点が特徴である。プロジェクトの時間と金銭の両面の信頼性を担保し、精度の高い見積もり作成および収支管理を実現するというものだ。さらに、メンバー1人ひとりが時間伝票を付けることで、現場からのボトムアップによるプロジェクト管理も実現できるという。
●日報作成機能で現場メンバーの“見せる化”を推進
ここからは、PM-BOXが提供する機能を具体的に見ていこう。
時間伝票の軸となる機能が「日報作成機能」だ。現場メンバーにWebベースの日報入力画面が提供され、現場メンバー本人が日次で作業の進ちょく状況をリアルタイムに入力していく。日報入力画面では、作業時間や作業内容を15分単位で入力できるほか、進ちょく状況や勤怠情報の登録、上司やほかのメンバーに伝えたいことを入力できる機能も用意されている。
日報入力画面で登録された情報は、プロジェクトマネジャーが登録した各プロジェクトのWBS情報や原価情報などとリアルタイムに連動する。プロジェクトマネジャーは、WBS編集画面から現場メンバーの日報登録情報をチェックして承認を行う。承認された時点で日報データはロックされるため、後から勝手にデータを変更することはできず、信頼性の高いデータを蓄積することが可能となる。
また、PM-BOXではプロジェクト全体の状況を、現場メンバーからプロジェクトマネジャー、経営層まで共有することができる。さらに、外注に業務委託しているSIerなどでは日報作成機能を協力会社にも提供でき、複数の企業間におけるプロジェクト進ちょくの一元管理が可能になる。
無理な“見える化”は禁物
プロジェクト管理ツールの問題点として、現場で活用されないことも指摘される。この点について、塩見氏は「上層部が無理に“見える化”させようとするのが原因だ」と指摘する。PM-BOXの日報作成機能は、現場メンバーの“見せる化”を推進することが目的であるとし、「自分が入力した作業情報が確実にプロジェクトの成果に反映され、評価にも直結するようになれば、現場メンバーのモチベーションも高まり、作業効率の向上にもつながる」と説明する。
●工程・進ちょく・原価データを一元管理し、自動で集計・分析
日報作成機能に加え、PM-BOXのもう1つの特徴的な機能が「集計・分析/レポート」機能だ。各種データを一元管理して集計し、ガントチャートやEVMグラフ、売り上げ・原価・収益表、実行予算実績表、勤怠表、プロジェクト報告書などを自動的に作成することが可能だ。これにより、プロジェクトマネジャーの報告業務の作業負荷を軽減することもできる。
EVMグラフでは、PV(出来高計算値)、AC(コスト実績値)、EV(出来高実績値)の値をベースに、複数プロジェクトのリアルタイム条件把握・未来予測を行うことが可能で、プロジェクトの状況を「順調」「注意」「危険」の3段階で色分け表示する。また、EVM売上高と原価比例売上高の2種類を同時に表示することもできる。
さらに、集計・分析/レポート機能には「プロジェクトバッファ」と「作業進捗遅れ理由・WBS変更理由統計」といった、プロジェクトの進ちょく分析を支援する機能が用意されている。
プロジェクトバッファでは、WBSの完了予定日とプロジェクトの完了予定日の間を予備バッファ期間として用意。プロジェクトマネジャーは、この予備バッファを管理することでプロジェクトの遅れ状況、作業者の遅れ状況を把握し、プロジェクト納期に合わせた進ちょく管理が可能となる。
作業進捗遅れ理由・WBS変更理由統計では、日報から入力されたWBSの変更理由や進ちょくの遅れ理由を集計してグラフで表示する。これによって、いつどんな理由でWBSを変更したのか、またどんな理由で誰のタスクが遅れているのかを可視化することができる。
●基本機能に絞り込み、導入しやすいツールに
PM-BOXは本体価格が105万円、1ユーザーライセンス当たり1万500円(いずれも税込み)。塩見氏は「プロジェクト管理に必要最小限の基本機能に絞ることで、本体価格を抑え、導入しやすいツールとした」と語る。また、機能拡張を希望するユーザーには、別途、オプション機能や個別カスタマイズで対応するほか、導入・運用を支援するコンサルティングサービスも用意している。
同社は今後オフショア開発の拡大を目指し、アジア市場の開拓を視野にPM-BOXの英語版の提供を開始する予定。さらに、クラウドサービスでの提供についても検討を進めているという。
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