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月姫リメイク(1)原理血戒と大規定・上
筆者-Townmemory 初稿-2023年5月28日
『月姫』リメイク版のお話です。
作中の謎っぽいものについて、「私はこう読んだけれども」くらいの話をしていきます。
ネタバレ等に関する配慮はありません。すみません。
まずは前後編に分けて、「この物語はこういうことに根差しているんじゃないかな」といった内容を述べます。
そのあと3回目以降で細かい謎をつつく予定です。
今回は、前後編の前編。
2回かけて、
「原理血戒を掘っていったら、主の大規定につながった」
といった話をします。
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●原理と原理血戒の違い
設定を追っかけている人には退屈かもしれませんが、原理と原理血戒は似て非なるもの、みたいなところから始めます。
(このへんはたぶん、設定を追っかけている人には「ああ基本だね」くらいの話だと思います)
「原理血戒(イデアブラッド)」というタームが出てきます。
死徒二十七祖がひとつずつ持っているもので、これを持っている吸血鬼(だけ)が「祖」と呼ばれる。
原理血戒は奪うことが可能で、祖を倒してこれを奪えば祖になれる。
で、祖クラスの吸血鬼は、信じられないような超常能力(TYPE-MOON的な用語では「超抜能力」など)を持っている。
原理血戒を持っているとすごい能力が使える、みたいに読める表現が頻出するので、「原理血戒とは手に入れたり奪ったりできる特殊能力そのものだ」という解釈をしたくなります。
たとえば吸血鬼ヴローヴは、この100年で祖を殺して原理血戒を奪い、新しい祖になった男です。
かれは周囲を絶対零度の凍土に変えるという能力を持っている。
「周囲を凍土に変える能力を宿した原理血戒を手に入れたので、そういう能力が使える」
というふうに、受け取れてしまいます。
なにしろそう受け取れるような感じに書いてありますからね。
ですが、月姫リメイクには、血戒がつかない「原理」というタームも頻出します。例えば、シエルルートで志貴が、ヴローヴの胸の穴を覗き見たシーン。
志貴はヴローヴの「原理」を見た。
そこにはヴローヴ本人の過去の記憶が入ってた。
ヴローヴは絶海の凍土に流刑された男で、凍死するはずだったところを、二十七祖ゼリア・アッフェンバウムに認められて吸血鬼になりました。吸血鬼になって、その後、アッフェンバウムを殺して原理血戒を奪い、祖になったのです。
ヴローヴは「血を吸わないと凍え死ぬ」という強迫観念を抱えた吸血鬼で、なんでもかんでも凍結させる「超抜能力」を持っている。
これを、
「氷結地獄に苦しんだ男が、たまたま、周囲を氷結させる能力が書き込まれた原理血戒を入手する」
ストーリーだと考えるのか。
それよりは、
「氷結地獄に苦しんだ男は、その結果、氷結地獄が彼自身の『原理』として刻み込まれた」
「原理血戒を入手したことで、自分の原理を外部に向かって放出することができるようになった」
としたほうが、ストーリーとしてスマートかな、というのが私の感触です。
(「放出」というのは、ちょっとニュアンスが違うと考えているのですが、ここではひとまずこういう表現にしておきます。後述します)
つまり、「原理」と「原理血戒」は異なるものである。
「原理」は、すべての吸血鬼、のみならず、人間がだれしも持ちうるものである。
「原理」は、その人物のトラウマや、過剰な執着、妄執を材料にしてできているものである。
(『空の境界』で語られる「起源」にすごく近い)
「原理」は、トラウマや妄執が行き着いた結果きざみこまれてしまった、
「いまある世界は間違っている。世界とは、本当はこのようなものであるはずだ」
という断固とした偏見である。
その断固とした偏見を、自分の周囲の世界にむりやり押し付ける能力を与えるものが「原理血戒」。
……というくらいじゃないのかなぁ、というのが、私の読み方です。
●ヴローヴの能力をシエルは使用できない
原理血戒そのものに超常能力がくっついているのなら、アッフェンバウムが持っていた氷結能力をヴローヴが受け継いだことになるので、それをまた受け継いだシエルが氷結系の魔術を使えてもいいはずです。
ところが、「ヴローヴの原理はまだ育っていないので魔力の増槽にしかならない」といった説明がなされる。
なので、アッフェンバウムの能力とヴローヴの能力は別だと思います。
アッフェンバウムはアッフェンバウム独自の「原理」を持っていた。原理血戒を使って、その原理を、自分の外側に現出させることができた。彼女の原理はたぶん氷結ではなかった。
アッフェンバウムの原理血戒をヴローヴが奪った。ヴローヴの原理は氷結(絶対凍土)なので、氷結系の技が使えた。原理血戒は持ち主の原理を外部に表出するというものなので、ヴローヴが操れるのは自分の原理だけ。アッフェンバウムの能力は使えない。
(このへん異議がある人も多いでしょうが、なぜそうなのかはロアの研究内容を検討するときにあたらめて論じます)
ようするにヴローヴが原理血戒を奪った結果、原理血戒は新品になっちまった。
ヴローヴがもしあと千年くらい原理血戒を持ち続ければ、原理血戒がヴローヴの原理に染まるので、シエルは氷結系の魔術を入手できたかもしれないが、残念ながらヴローヴは新参なのでそうはならなかった。
私はそのくらいの理解です。
もしアッフェンバウムを殺したのがシエルだったのなら、シエルはアッフェンバウムの能力由来の魔術を入手できただろうけど、ヴローヴ経由で一回チャラになっちゃってるくらいの受け取り方ですね。
もし氷結能力が、アッフェンバウム由来でもなくヴローヴ由来のものでもなく、原理血戒それ自体のものであったとしたら、ヴローヴから奪った原理血戒から氷結系魔術を取り出せた方が自然じゃないかなあ、といったことです。
ここまでが大枠。ここからちょっと詰めていきます。
●原理血戒がなくても固有能力は持てる
マーリオゥにも原理に関するセリフがあります。
マーリオゥも、
「そいつがもともと持ってたものが原理になり、固有能力になる」
と言っている。
なので、ヴローヴが氷結地獄の能力をもってるのは、ヴローヴが氷結地獄を味わったからであり、それが原理として刻み込まれてるから、ということでいいと思います。
ところでマーリオゥは、二十七祖の固有能力ではなく、「死徒の固有能力は」といっている。
ここでの「死徒」を二十七祖のことだとしてしまうと、祖でない死徒は固有能力を持ちえない、という方向になってしまいそうだ。
それはおかしい。
マーリオゥは「死徒の固有能力はヤツらが人間だった頃に手に入れたモノを、そのまま何百年と成長させた異能」と言っている。数百年生きることができれば、6階梯だろうと7階梯だろうと固有能力を持ちうる、と考えるほうが自然だと思えます。
例えば死徒ノエルは、原理血戒を持っていませんが、(まぁ、ロズィーアンの能力の複製は持っていますが)特殊な能力を持っていて使っています。
ひとつは大量の槍を生成して射出する能力。
もうひとつは槍で柵をつくって、中にいるものを出られなくする能力。
槍投げのほうはシエルの黒鍵技に酷似していますので、「代行者としての能力でシエルに絶対にかなわなかった」というルサンチマンが材料になっている(と思われる)。
柵をつくるほうは、フランス事変で街に閉じ込められて吸血鬼にいじめぬかれたトラウマと、「修道院で一生閉じ込められるか代行者になって一生戦うかどっちか選べ」という運命を強要されたトラウマが材料になっている。
(修道院が柵で、代行者が槍、というアングルでもいい)
ノエルの槍技は、ノエルの原理の発露だとみることができます。
(余談ですが、いくつもイデアレプリカを打たれたなかで、ロズィーアンの能力だけが使えたのも、その能力が「閉じ込め」系だからだと思います)
ノエルは原理血戒を持っていないが、彼女の原理をもとにした固有能力は持っている。
ああそうだ、こういう記述もありました。
※「6階梯」の6は実際にはローマ数字
ようするに、ヒトはおおむね原理を持っているのであり、何らかの理由で数百年生きる(もしくは数百年分の経験値を今すぐ取得する)ことができれば、その原理を固有能力化できるのである。
数百年生きたら原理が能力になる。
だとしたら、原理血戒には何の意味があるのか。あってもなくても能力作れるんじゃん? じゃあなくてもいいんじゃん?
原理血戒と固有能力は何が違うのか。
いますぐ原理を能力化できるとか? 通常より強い能力になるとか?
という疑問への答えは……。
●世界を書き換える
数百年の結果としての原理の能力化と、原理血戒による能力化の違いは、以下のようなことだと思います。
引用、前半2行が「原理」についての記述。後半2行が「原理血戒」についての記述だというのが、私の読み方です。
「惑星の物理法則を塗り替える」……。
ヴローヴが炎攻撃をやめて、初めて氷結系の攻撃を始めたとき、「世界を書き換えたようだ」といった意味にとれる表現がされています。
これは、「ような」ではなくたぶん事実なのだろうと思います。
固有の超常能力と原理血戒の違いは何か。それは、世界のありかた(物理法則)を書き換えないか、書き換えるかだ。
死徒の固有能力は、常人ではとても不可能な現象を発生させるというだけである。
それに対して、原理血戒は、この世界のルールや、あり方そのものを、自分自身の圧倒的に偏った世界観(原理)で「書き換える」。
原理血戒に由来する能力は、世界を書き換えた結果として発生する現象である。
ノエルは二十七祖についてこう言っている。
現実を侵食する。人間の物理法則を混ぜ返す。
おそらくヴローヴは、
「正しい世界とは、無限に広がる永久凍土である」
という圧倒的に偏った世界観を持っていそうです。
「そうでない世界など、まったくのまやかしである」
すごく渋谷駅前っぽい総耶市繁華街に怪獣のように現れたヴローヴは、「この街は醜いしここの人間は汚物のようでとても食欲がわかない」みたいなことをおっしゃる。「これを肥沃の土地と言えるのか」と。ぺんぺん草も生えない極寒地獄から来た男がそういうんですよ。
おそらくヴローヴにとっての正しい世界のありかたとは、草も生えない永久に凍りついた土地であり、正しい人間のありかたとは、食料も手に入らず眠ったら即座に凍死するような環境で、ギリギリ生と死のはざまをつなわたりしている生き方である。
そうあるべきだ、という圧倒的な偏見をヴローヴは持っている。
そのような人間こそ、血をすするに値する素晴らしい生命であり、たいした苦痛もなくぬくぬく生存してる現代日本の総耶市の生き物などは豚にも劣るけがれたものである。
だからヴローヴは、「現実を侵食し」「物理法則を混ぜ返し」「塗り替える」。原理血戒を回転させて、自分を中心とした周囲の世界を永久凍土に書き換えようとする。
そのように、「圧倒的に偏った世界観に基づいてこの世界を書き換えうる力」が原理血戒なのである、というのが、私の読み方です。
圧倒的に偏った世界観が「原理」。
それを周囲の現実世界に押し付ける力が「原理血戒」。
……余談だけど、「気を抜いたら凍死するのが正しい世界で、そこでギリギリ生死のはざまにいるのが正しい人間」という世界観は、型月恒例の偏りきった世界観「山育ち」に類似している、たぶん同じ発想、ということを指摘しておきたい。
ホテルでの志貴とアルクの会話でも、「人間ってば、時間がたてばたつほどひよっひよのひ弱になっていったじゃん」「でもそのぶん都市で防御してるんだから……」みたいな会話があり、やっぱり奈須きのこさんの特異な世界観のコア近くにあるのがこの発想だと思います。
さて、「原理血戒の真の力は世界のありかたを(ようはテクスチャーを)書き換えることである」というテーゼを仮にOKだとしましょう。
そういうぶっそうなものを持っている吸血鬼が、この地球上に最大値で二十七名いたということになります。
死徒二十七祖という制度が存在する目的は、つまるところそれではないでしょうか。二十七名の偏った人物たちによって、世界のありかたを革命する。
●誰が原理血戒をばらまいたのか
大目的は、「この地球から、現行のテクスチャーをまるごとひっぺがす」。
(シエルルートエクストラで、みごとテクスチャーがめくれかけていましたよね。あれを人為的にやろうとしている。これが月姫リメイクのメインギミックなのではないか)
その手段として、「圧倒的に偏った世界観を持つものを二十七名(いや、二十六名)選出して、世界を書き換える能力=原理血戒を与える」。
そのうちの誰かが突出して強大になり、この世のありかた=テクスチャーを、テーブルクロス芸よろしくひっぺがすことができるならそれでよし。
突出しないのなら、「だれの世界観がいちばん偏っているのか(強いのか)決めようや」で、「地球に誰の原理を貼るのか闘争」でもして決めればよし。
(「二十七祖は国盗り合戦をしてる」のほんとの意義はこれじゃないかな)
もしくは、二十六人のうち、何人かが協力して大目的をなしとげるんでもオーケー。
……この最後のやつが、近い将来トラフィムがやろうとする「アルズベリの儀式」や、今作月姫リメイクで語られた「1989年フランス事変」だと思うのです。
(フランス事変については、別の投稿で何度も語る予定です)
さて、ここまでのこともOKだとします。
すると、「この世のテクスチャーをひっぺがす」ことを目的に、原理血戒をばらまいたハタ迷惑な奴が存在することになります。
それが誰かと問うならば、このTYPE-MOON世界には、「地球を真世界に戻す」という謎めいた動機を持つとされる、朱い月のブリュンスタッドという人物がいるわけです。
●またまた朱い月登場
説明不要だと思いますが朱い月のブリュンスタッドは月の王様。月の意思が人のかたちをとったもの。地球におけるアルクェイドが、月における朱い月、みたいな存在(くらいに言ってもよさそうだと私は思うんだけどどうだろう)。
たぶんアルクェイドにできることは、朱い月にも全部できそう。
(ただし光体になれるのは月面上だけでしょう多分)
この人は地球をまるごとわがものにしようと思っており、どうやら現状の物理法則をぐちゃぐちゃにして、地球を自分好みの環境に改造しようと企んでいるっぽいのです。
朱い月さんは西暦300年ごろにゼルレッチと戦い(と型月稿本に書いてある)、そのときに体を失った(ほら光体になれない)。
体を失ってもいちおう存在はしており、地球上に、自分にふさわしいクオリティをそなえた人体が発生するのを待っている。
そういう人体が発生したら、体を奪って自分のものにし、復活しようと思ってる(らしい)。
アルクェイドはまさにその「朱い月が認めるクオリティの人体」なので、なんかちょっとしたきっかけで……たとえばアルクェイドの人格が消滅したりとか……で、アルクェイドが急に朱い月になってもおかしくない。
(なおこの関係は志貴/四季とロアの関係にすごく近く、まちがいなく意図的な構造)
一口にいえば、朱い月は、地球から現行のテクスチャーをひっぺがしたいし、ついでにアルクェイドに乗り移って復活したい。
そして1989年、フランスで、「テクスチャーをひっぺがす能力を持った(っぽい)祖が五人とアルクェイドが一度に揃う」というすごい事件が起こったわけですけどこれは後で(何度か)語ります。
●二十七祖に与えられたクエスト
朱い月は、地球のテクスチャーをぶんめくりたいという欲望をもって、地球にやってきた。
(注:「ぶんめくりたい」は私の造語です)
でも地球には、地球や人類に害をなすものを消滅させる「抑止力」というシステムがあって、それのせいで自分が殺されることはわかってた。
なので、殺されても復活できるように、自分の体のスペアを作っておくことにした。
具体的には、地球上に「星の触覚」と言えるような生き物……地球の意思を受けて活動するエージェントみたいな存在が発生するようにしむけた。
この生き物「真祖」は、朱い月をモデルに生成され、組成が朱い月とほぼ同じなので、自分が死んでも出来のいい真祖に乗り移っていくらでも復活してやるぜー、と朱い月は思ってた。
そして、真祖は、シエルルートエクストラで示されたとおり、地球上のテクスチャーをテーブルマジックみたいにどっかにしまっちゃう能力を持っている。
つまるところ、朱い月は、真祖の体で復活したとき、テクスチャーをぶんめくってどっかにしまっちゃう能力を獲得することになる。
なんと、「テクスチャー坊主めくりしたい」と「抑止力に負けない体を持ちたい」が一度に達成される。
ところが真祖という生き物は思いのほか出来がわるくて、朱い月が乗り移って復活するなんて「とてもとても」というクオリティにしかならなかった……と言われています。
そこで、しかたなく始めた次善のプロジェクトが「原理血戒バラマキ計画」=「死徒二十七祖制度」じゃないか、というのが、私のフワッとした想像です。
どうも計画通りには真祖の体を奪えそうにない。
そうなるとテクスチャーもひっぺがせない。
だったら、まあ望み薄だけど、「現行の世界をひっぺがしたい」という動機を持ってそうな見所のある奴に、ひっぺがす能力を与えてみよう。
大勢でよってたかってカーペットの端っこをカリカリカリカリめくっているうちに、まあなんか起こるのでは……。
で、もしその中の一人がめちゃくちゃ強力になり、現行のテクスチャーをほとんどまるごと自分の原理で書き換えることに成功したとする。
朱い月は、喜んでそいつをバクッと丸呑みする。すると朱い月は、そいつの原理を自分の原理でまるごと上書きすることで、望み通りの世界をつくることができる。
この世に原理血戒がばらまかれている理由は、そんなところじゃないか。
つまるところ原理血戒とは、二十七人の死徒(正確には二十六人)に託された、
「この世界をおまえの原理(圧倒的に偏った世界観)で書き換えてみせろ」
というクエストなのだと思います。
ただ上記の想定にはひとつ問題がある。朱い月は、肉体を取り戻さないと、書き換えに成功した祖をバクッと丸呑みすることができない。
●命のねずみ講で作り出されるもの
あ、ちなみに、今語っているのは、「アルクェイドが発生する以前」の話です。
現在はアルクェイドが存在するので、「アルクェイドに朱い月がのりうつる」というのがいちばん有望なプランです。
アルクェイドがこの世に発生したのは800年前。祖はそれこそ西暦以前から存在しているので、これは「800年以上昔のプラン」だと思って下さい。
朱い月は体を取り戻したい。
そのための方法が必要だ。
その方法は、以前の投稿で示したこの方法で、基本いいと思います。
TYPE-MOONの「魔法」(5):第六法という人類滅亡プログラム
上記の記事を読んでもらうのがいちばんいいのですが、いちおうここで簡単に説明します。
屍鬼が人の命を吸う。屍鬼が集めた命を吸血鬼が吸い上げる。その吸い上げた命を上位の祖がまた召し上げる。
そういう「命のねずみ講」が行われるので、死徒社会はマクロ的にみると、
「人類の命、総吸い上げシステム」
だということができる。
最終的に、全人類の命は、何人かの祖のところにまとめて束ねられることになる。
何人かの祖のところにまとまった全人類の命を、最終的にひとつの塊にまとめる。
その塊を人の形に成型する。
そんなふうに作った人体は、朱い月が降臨するのにふさわしいものであるはずだ。
月姫リメイクには、「死徒社会の仕組みというのは、命(血)のねずみ講だ」という、まさにそのものずばりの説明が出てきます。
(ホテルでのアルクと志貴の会話)
後編に続きます。
続き(後編)はこちら。
月姫リメイク(2)原理血戒と大規定・下
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月姫リメイク(1)原理血戒と大規定・上
筆者-Townmemory 初稿-2023年5月28日
『月姫』リメイク版のお話です。
作中の謎っぽいものについて、「私はこう読んだけれども」くらいの話をしていきます。
ネタバレ等に関する配慮はありません。すみません。
まずは前後編に分けて、「この物語はこういうことに根差しているんじゃないかな」といった内容を述べます。
そのあと3回目以降で細かい謎をつつく予定です。
今回は、前後編の前編。
2回かけて、
「原理血戒を掘っていったら、主の大規定につながった」
といった話をします。
クリックすると筆者が喜びます
●原理と原理血戒の違い
設定を追っかけている人には退屈かもしれませんが、原理と原理血戒は似て非なるもの、みたいなところから始めます。
(このへんはたぶん、設定を追っかけている人には「ああ基本だね」くらいの話だと思います)
「原理血戒(イデアブラッド)」というタームが出てきます。
死徒二十七祖がひとつずつ持っているもので、これを持っている吸血鬼(だけ)が「祖」と呼ばれる。
原理血戒は奪うことが可能で、祖を倒してこれを奪えば祖になれる。
で、祖クラスの吸血鬼は、信じられないような超常能力(TYPE-MOON的な用語では「超抜能力」など)を持っている。
原理血戒を持っているとすごい能力が使える、みたいに読める表現が頻出するので、「原理血戒とは手に入れたり奪ったりできる特殊能力そのものだ」という解釈をしたくなります。
たとえば吸血鬼ヴローヴは、この100年で祖を殺して原理血戒を奪い、新しい祖になった男です。
かれは周囲を絶対零度の凍土に変えるという能力を持っている。
「周囲を凍土に変える能力を宿した原理血戒を手に入れたので、そういう能力が使える」
というふうに、受け取れてしまいます。
なにしろそう受け取れるような感じに書いてありますからね。
ですが、月姫リメイクには、血戒がつかない「原理」というタームも頻出します。例えば、シエルルートで志貴が、ヴローヴの胸の穴を覗き見たシーン。
原理(ひかり)を知覚(み)た。『月姫 -A piece of blue glass moon-』5/絶海凍土 Note.凍土のワルツ
(略)
即ち、ひとりの騎士の結末だった。
男は冤罪で国を追われた。政略で故郷を失った。
流刑の地はこの世の果てだった。
人の住めぬ極寒の海だった。
絶海に置き去りにされ生き続けるしかなかった。
寒さしかなかった。
痛みしかなかった。
(略)
それがこの男だ。
ヴローヴと銘(な)を受けた吸血鬼だ。
その本質は寒さと裏切り、漂流と悔恨。
志貴はヴローヴの「原理」を見た。
そこにはヴローヴ本人の過去の記憶が入ってた。
ヴローヴは絶海の凍土に流刑された男で、凍死するはずだったところを、二十七祖ゼリア・アッフェンバウムに認められて吸血鬼になりました。吸血鬼になって、その後、アッフェンバウムを殺して原理血戒を奪い、祖になったのです。
ヴローヴは「血を吸わないと凍え死ぬ」という強迫観念を抱えた吸血鬼で、なんでもかんでも凍結させる「超抜能力」を持っている。
これを、
「氷結地獄に苦しんだ男が、たまたま、周囲を氷結させる能力が書き込まれた原理血戒を入手する」
ストーリーだと考えるのか。
それよりは、
「氷結地獄に苦しんだ男は、その結果、氷結地獄が彼自身の『原理』として刻み込まれた」
「原理血戒を入手したことで、自分の原理を外部に向かって放出することができるようになった」
としたほうが、ストーリーとしてスマートかな、というのが私の感触です。
(「放出」というのは、ちょっとニュアンスが違うと考えているのですが、ここではひとまずこういう表現にしておきます。後述します)
つまり、「原理」と「原理血戒」は異なるものである。
「原理」は、すべての吸血鬼、のみならず、人間がだれしも持ちうるものである。
「原理」は、その人物のトラウマや、過剰な執着、妄執を材料にしてできているものである。
(『空の境界』で語られる「起源」にすごく近い)
「原理」は、トラウマや妄執が行き着いた結果きざみこまれてしまった、
「いまある世界は間違っている。世界とは、本当はこのようなものであるはずだ」
という断固とした偏見である。
その断固とした偏見を、自分の周囲の世界にむりやり押し付ける能力を与えるものが「原理血戒」。
……というくらいじゃないのかなぁ、というのが、私の読み方です。
●ヴローヴの能力をシエルは使用できない
原理血戒そのものに超常能力がくっついているのなら、アッフェンバウムが持っていた氷結能力をヴローヴが受け継いだことになるので、それをまた受け継いだシエルが氷結系の魔術を使えてもいいはずです。
ところが、「ヴローヴの原理はまだ育っていないので魔力の増槽にしかならない」といった説明がなされる。
なので、アッフェンバウムの能力とヴローヴの能力は別だと思います。
アッフェンバウムはアッフェンバウム独自の「原理」を持っていた。原理血戒を使って、その原理を、自分の外側に現出させることができた。彼女の原理はたぶん氷結ではなかった。
アッフェンバウムの原理血戒をヴローヴが奪った。ヴローヴの原理は氷結(絶対凍土)なので、氷結系の技が使えた。原理血戒は持ち主の原理を外部に表出するというものなので、ヴローヴが操れるのは自分の原理だけ。アッフェンバウムの能力は使えない。
(このへん異議がある人も多いでしょうが、なぜそうなのかはロアの研究内容を検討するときにあたらめて論じます)
ようするにヴローヴが原理血戒を奪った結果、原理血戒は新品になっちまった。
ヴローヴがもしあと千年くらい原理血戒を持ち続ければ、原理血戒がヴローヴの原理に染まるので、シエルは氷結系の魔術を入手できたかもしれないが、残念ながらヴローヴは新参なのでそうはならなかった。
私はそのくらいの理解です。
もしアッフェンバウムを殺したのがシエルだったのなら、シエルはアッフェンバウムの能力由来の魔術を入手できただろうけど、ヴローヴ経由で一回チャラになっちゃってるくらいの受け取り方ですね。
もし氷結能力が、アッフェンバウム由来でもなくヴローヴ由来のものでもなく、原理血戒それ自体のものであったとしたら、ヴローヴから奪った原理血戒から氷結系魔術を取り出せた方が自然じゃないかなあ、といったことです。
ここまでが大枠。ここからちょっと詰めていきます。
●原理血戒がなくても固有能力は持てる
マーリオゥにも原理に関するセリフがあります。
死徒の固有能力はヤツらが人間だった頃に手に入れたモノを、そのまま何百年と成長させた異能(スキル)にすぎない。『月姫 -A piece of blue glass moon-』10/朱の紅月I Note.情けは人のためならず
ヤツらは自身が学んだものを吸血鬼になっても学び続け、結果としてそれが原理になっただけだ」
(略)
「この原理のため、死徒たちはそれぞれまったく別の目的で活動する。学んでいた真理(もの)が一人一人違うからな。
マーリオゥも、
「そいつがもともと持ってたものが原理になり、固有能力になる」
と言っている。
なので、ヴローヴが氷結地獄の能力をもってるのは、ヴローヴが氷結地獄を味わったからであり、それが原理として刻み込まれてるから、ということでいいと思います。
ところでマーリオゥは、二十七祖の固有能力ではなく、「死徒の固有能力は」といっている。
ここでの「死徒」を二十七祖のことだとしてしまうと、祖でない死徒は固有能力を持ちえない、という方向になってしまいそうだ。
それはおかしい。
マーリオゥは「死徒の固有能力はヤツらが人間だった頃に手に入れたモノを、そのまま何百年と成長させた異能」と言っている。数百年生きることができれば、6階梯だろうと7階梯だろうと固有能力を持ちうる、と考えるほうが自然だと思えます。
例えば死徒ノエルは、原理血戒を持っていませんが、(まぁ、ロズィーアンの能力の複製は持っていますが)特殊な能力を持っていて使っています。
ひとつは大量の槍を生成して射出する能力。
もうひとつは槍で柵をつくって、中にいるものを出られなくする能力。
槍投げのほうはシエルの黒鍵技に酷似していますので、「代行者としての能力でシエルに絶対にかなわなかった」というルサンチマンが材料になっている(と思われる)。
柵をつくるほうは、フランス事変で街に閉じ込められて吸血鬼にいじめぬかれたトラウマと、「修道院で一生閉じ込められるか代行者になって一生戦うかどっちか選べ」という運命を強要されたトラウマが材料になっている。
(修道院が柵で、代行者が槍、というアングルでもいい)
ノエルの槍技は、ノエルの原理の発露だとみることができます。
(余談ですが、いくつもイデアレプリカを打たれたなかで、ロズィーアンの能力だけが使えたのも、その能力が「閉じ込め」系だからだと思います)
ノエルは原理血戒を持っていないが、彼女の原理をもとにした固有能力は持っている。
ああそうだ、こういう記述もありました。
死徒も6階梯となれば固有の超抜能力を持つ。あの吸血鬼の異能は音にまつわるものらしい。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 13/蜃気楼 Note.シエル先輩を連れて逃げる
※「6階梯」の6は実際にはローマ数字
ようするに、ヒトはおおむね原理を持っているのであり、何らかの理由で数百年生きる(もしくは数百年分の経験値を今すぐ取得する)ことができれば、その原理を固有能力化できるのである。
数百年生きたら原理が能力になる。
だとしたら、原理血戒には何の意味があるのか。あってもなくても能力作れるんじゃん? じゃあなくてもいいんじゃん?
原理血戒と固有能力は何が違うのか。
いますぐ原理を能力化できるとか? 通常より強い能力になるとか?
という疑問への答えは……。
●世界を書き換える
数百年の結果としての原理の能力化と、原理血戒による能力化の違いは、以下のようなことだと思います。
「魂に刻まれてしまった大本の戒め。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 7/直死の眼I Note.……二十七祖ってなんだ?
それぞれ戴いた真理、渇きの根底となる世界観。
その血を巡らせるだけで惑星の物理法則を塗り替える特異点。
原理血戒―――イデアブラッド」
引用、前半2行が「原理」についての記述。後半2行が「原理血戒」についての記述だというのが、私の読み方です。
「惑星の物理法則を塗り替える」……。
ヴローヴが炎攻撃をやめて、初めて氷結系の攻撃を始めたとき、「世界を書き換えたようだ」といった意味にとれる表現がされています。
それは「気温が下がった」というより、「世界が変わった」ような、前兆のない変化だった。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 5/火炎血河II Note.灼熱の妄想
これは、「ような」ではなくたぶん事実なのだろうと思います。
固有の超常能力と原理血戒の違いは何か。それは、世界のありかた(物理法則)を書き換えないか、書き換えるかだ。
死徒の固有能力は、常人ではとても不可能な現象を発生させるというだけである。
それに対して、原理血戒は、この世界のルールや、あり方そのものを、自分自身の圧倒的に偏った世界観(原理)で「書き換える」。
原理血戒に由来する能力は、世界を書き換えた結果として発生する現象である。
ノエルは二十七祖についてこう言っている。
アイツらはもう生き物ですらない。概念を武器にする魔物。現実を侵食する呪い。一万年かけて安定した人間の物理法則を混ぜ乱す、この世の故障(バグ)みたいなヤツら」『月姫 -A piece of blue glass moon-』 5/絶海凍土 Note.ノエル先生の個人授業
現実を侵食する。人間の物理法則を混ぜ返す。
おそらくヴローヴは、
「正しい世界とは、無限に広がる永久凍土である」
という圧倒的に偏った世界観を持っていそうです。
「そうでない世界など、まったくのまやかしである」
すごく渋谷駅前っぽい総耶市繁華街に怪獣のように現れたヴローヴは、「この街は醜いしここの人間は汚物のようでとても食欲がわかない」みたいなことをおっしゃる。「これを肥沃の土地と言えるのか」と。ぺんぺん草も生えない極寒地獄から来た男がそういうんですよ。
「“だが、この豚たちの血には、そそられない”」『月姫 -A piece of blue glass moon-』 5/火炎血河II Note.地獄より
(略)
「“この輝きも、繁栄も、おれには無意味だ”」
(略
肥え太った街には、無様な終わりが相応しい。
おそらくヴローヴにとっての正しい世界のありかたとは、草も生えない永久に凍りついた土地であり、正しい人間のありかたとは、食料も手に入らず眠ったら即座に凍死するような環境で、ギリギリ生と死のはざまをつなわたりしている生き方である。
そうあるべきだ、という圧倒的な偏見をヴローヴは持っている。
そのような人間こそ、血をすするに値する素晴らしい生命であり、たいした苦痛もなくぬくぬく生存してる現代日本の総耶市の生き物などは豚にも劣るけがれたものである。
だからヴローヴは、「現実を侵食し」「物理法則を混ぜ返し」「塗り替える」。原理血戒を回転させて、自分を中心とした周囲の世界を永久凍土に書き換えようとする。
そのように、「圧倒的に偏った世界観に基づいてこの世界を書き換えうる力」が原理血戒なのである、というのが、私の読み方です。
圧倒的に偏った世界観が「原理」。
それを周囲の現実世界に押し付ける力が「原理血戒」。
……余談だけど、「気を抜いたら凍死するのが正しい世界で、そこでギリギリ生死のはざまにいるのが正しい人間」という世界観は、型月恒例の偏りきった世界観「山育ち」に類似している、たぶん同じ発想、ということを指摘しておきたい。
ホテルでの志貴とアルクの会話でも、「人間ってば、時間がたてばたつほどひよっひよのひ弱になっていったじゃん」「でもそのぶん都市で防御してるんだから……」みたいな会話があり、やっぱり奈須きのこさんの特異な世界観のコア近くにあるのがこの発想だと思います。
さて、「原理血戒の真の力は世界のありかたを(ようはテクスチャーを)書き換えることである」というテーゼを仮にOKだとしましょう。
そういうぶっそうなものを持っている吸血鬼が、この地球上に最大値で二十七名いたということになります。
死徒二十七祖という制度が存在する目的は、つまるところそれではないでしょうか。二十七名の偏った人物たちによって、世界のありかたを革命する。
●誰が原理血戒をばらまいたのか
大目的は、「この地球から、現行のテクスチャーをまるごとひっぺがす」。
(シエルルートエクストラで、みごとテクスチャーがめくれかけていましたよね。あれを人為的にやろうとしている。これが月姫リメイクのメインギミックなのではないか)
その手段として、「圧倒的に偏った世界観を持つものを二十七名(いや、二十六名)選出して、世界を書き換える能力=原理血戒を与える」。
そのうちの誰かが突出して強大になり、この世のありかた=テクスチャーを、テーブルクロス芸よろしくひっぺがすことができるならそれでよし。
突出しないのなら、「だれの世界観がいちばん偏っているのか(強いのか)決めようや」で、「地球に誰の原理を貼るのか闘争」でもして決めればよし。
(「二十七祖は国盗り合戦をしてる」のほんとの意義はこれじゃないかな)
もしくは、二十六人のうち、何人かが協力して大目的をなしとげるんでもオーケー。
……この最後のやつが、近い将来トラフィムがやろうとする「アルズベリの儀式」や、今作月姫リメイクで語られた「1989年フランス事変」だと思うのです。
(フランス事変については、別の投稿で何度も語る予定です)
さて、ここまでのこともOKだとします。
すると、「この世のテクスチャーをひっぺがす」ことを目的に、原理血戒をばらまいたハタ迷惑な奴が存在することになります。
それが誰かと問うならば、このTYPE-MOON世界には、「地球を真世界に戻す」という謎めいた動機を持つとされる、朱い月のブリュンスタッドという人物がいるわけです。
●またまた朱い月登場
説明不要だと思いますが朱い月のブリュンスタッドは月の王様。月の意思が人のかたちをとったもの。地球におけるアルクェイドが、月における朱い月、みたいな存在(くらいに言ってもよさそうだと私は思うんだけどどうだろう)。
たぶんアルクェイドにできることは、朱い月にも全部できそう。
(ただし光体になれるのは月面上だけでしょう多分)
この人は地球をまるごとわがものにしようと思っており、どうやら現状の物理法則をぐちゃぐちゃにして、地球を自分好みの環境に改造しようと企んでいるっぽいのです。
朱い月さんは西暦300年ごろにゼルレッチと戦い(と型月稿本に書いてある)、そのときに体を失った(ほら光体になれない)。
体を失ってもいちおう存在はしており、地球上に、自分にふさわしいクオリティをそなえた人体が発生するのを待っている。
そういう人体が発生したら、体を奪って自分のものにし、復活しようと思ってる(らしい)。
アルクェイドはまさにその「朱い月が認めるクオリティの人体」なので、なんかちょっとしたきっかけで……たとえばアルクェイドの人格が消滅したりとか……で、アルクェイドが急に朱い月になってもおかしくない。
(なおこの関係は志貴/四季とロアの関係にすごく近く、まちがいなく意図的な構造)
一口にいえば、朱い月は、地球から現行のテクスチャーをひっぺがしたいし、ついでにアルクェイドに乗り移って復活したい。
そして1989年、フランスで、「テクスチャーをひっぺがす能力を持った(っぽい)祖が五人とアルクェイドが一度に揃う」というすごい事件が起こったわけですけどこれは後で(何度か)語ります。
●二十七祖に与えられたクエスト
朱い月は、地球のテクスチャーをぶんめくりたいという欲望をもって、地球にやってきた。
(注:「ぶんめくりたい」は私の造語です)
でも地球には、地球や人類に害をなすものを消滅させる「抑止力」というシステムがあって、それのせいで自分が殺されることはわかってた。
なので、殺されても復活できるように、自分の体のスペアを作っておくことにした。
具体的には、地球上に「星の触覚」と言えるような生き物……地球の意思を受けて活動するエージェントみたいな存在が発生するようにしむけた。
この生き物「真祖」は、朱い月をモデルに生成され、組成が朱い月とほぼ同じなので、自分が死んでも出来のいい真祖に乗り移っていくらでも復活してやるぜー、と朱い月は思ってた。
そして、真祖は、シエルルートエクストラで示されたとおり、地球上のテクスチャーをテーブルマジックみたいにどっかにしまっちゃう能力を持っている。
つまるところ、朱い月は、真祖の体で復活したとき、テクスチャーをぶんめくってどっかにしまっちゃう能力を獲得することになる。
なんと、「テクスチャー坊主めくりしたい」と「抑止力に負けない体を持ちたい」が一度に達成される。
ところが真祖という生き物は思いのほか出来がわるくて、朱い月が乗り移って復活するなんて「とてもとても」というクオリティにしかならなかった……と言われています。
そこで、しかたなく始めた次善のプロジェクトが「原理血戒バラマキ計画」=「死徒二十七祖制度」じゃないか、というのが、私のフワッとした想像です。
どうも計画通りには真祖の体を奪えそうにない。
そうなるとテクスチャーもひっぺがせない。
だったら、まあ望み薄だけど、「現行の世界をひっぺがしたい」という動機を持ってそうな見所のある奴に、ひっぺがす能力を与えてみよう。
大勢でよってたかってカーペットの端っこをカリカリカリカリめくっているうちに、まあなんか起こるのでは……。
で、もしその中の一人がめちゃくちゃ強力になり、現行のテクスチャーをほとんどまるごと自分の原理で書き換えることに成功したとする。
朱い月は、喜んでそいつをバクッと丸呑みする。すると朱い月は、そいつの原理を自分の原理でまるごと上書きすることで、望み通りの世界をつくることができる。
この世に原理血戒がばらまかれている理由は、そんなところじゃないか。
つまるところ原理血戒とは、二十七人の死徒(正確には二十六人)に託された、
「この世界をおまえの原理(圧倒的に偏った世界観)で書き換えてみせろ」
というクエストなのだと思います。
ただ上記の想定にはひとつ問題がある。朱い月は、肉体を取り戻さないと、書き換えに成功した祖をバクッと丸呑みすることができない。
●命のねずみ講で作り出されるもの
あ、ちなみに、今語っているのは、「アルクェイドが発生する以前」の話です。
現在はアルクェイドが存在するので、「アルクェイドに朱い月がのりうつる」というのがいちばん有望なプランです。
アルクェイドがこの世に発生したのは800年前。祖はそれこそ西暦以前から存在しているので、これは「800年以上昔のプラン」だと思って下さい。
朱い月は体を取り戻したい。
そのための方法が必要だ。
その方法は、以前の投稿で示したこの方法で、基本いいと思います。
TYPE-MOONの「魔法」(5):第六法という人類滅亡プログラム
上記の記事を読んでもらうのがいちばんいいのですが、いちおうここで簡単に説明します。
屍鬼が人の命を吸う。屍鬼が集めた命を吸血鬼が吸い上げる。その吸い上げた命を上位の祖がまた召し上げる。
そういう「命のねずみ講」が行われるので、死徒社会はマクロ的にみると、
「人類の命、総吸い上げシステム」
だということができる。
最終的に、全人類の命は、何人かの祖のところにまとめて束ねられることになる。
何人かの祖のところにまとまった全人類の命を、最終的にひとつの塊にまとめる。
その塊を人の形に成型する。
そんなふうに作った人体は、朱い月が降臨するのにふさわしいものであるはずだ。
月姫リメイクには、「死徒社会の仕組みというのは、命(血)のねずみ講だ」という、まさにそのものずばりの説明が出てきます。
(ホテルでのアルクと志貴の会話)
後編に続きます。
続き(後編)はこちら。
月姫リメイク(2)原理血戒と大規定・下
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