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月姫リメイク(7)すべてが阿良句博士のしわざ・ロアの転生回数再び
筆者-Townmemory 初稿-2023年7月8日
わたくし、阿良句博士が好きすぎてどうにかなりそうでしてよ。このページでは、阿良句博士を集中的に取り上げます。「なにもかも全部、阿良句博士のせいにする」という荒業をお見せいたします。
できれば順番にお読みいただくことを推奨します。
月姫リメイク(1)原理血戒と大規定・上
月姫リメイク(2)原理血戒と大規定・下
月姫リメイク(3)ロアの転生回数とヴローヴに与えた術式
月姫リメイク(4)ロアのイデア論・イデアブラッドって何よ
月姫リメイク(5)マーリオゥ/ラウレンティス同一人物問題・逆行運河したいロア
月姫リメイク(6)天体の卵の正体・古い宇宙・続マリ/ラウ問題
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●やらなくていいことをする女
わたくし阿良句博士が大好きなので、フランス事変についても、「あの中の誰が阿良句博士なのか」というところに興味が集約されています。
阿良句博士はどうみても死徒ないしは死徒関係者。ひょっとしたら二十七祖。
奈須きのこさんは月姫リメイクの準備段階でこういうメモを残している。遠野邸の食客といえば阿良句博士だ。……という連想はすでにメジャーになってますよね。
(なんで日光が平気なの? という疑問については、アルクの吸血鬼講座に出てきた「カゲムシャ」くらいの想定でことたりる)
阿良句博士が二十七祖の一人なら、フランス事変に居合わせていた可能性がある。あそこにずらっと居並んでいた死徒のうち、誰が彼女なのか知りたくてたまらない。
ところでロアは、阿良句博士が志貴に打った怪しい注射のことを指して、「あの女はやらなくていいことしかしない」と言っています。どうやら以前にも、やらなくていいことをやってロアを困らせたことがあるようです。
そして、エレイシア時代のロアの回想で語られたところによれば、「呼ばれもしないのに来た6人目」のせいで儀式が失敗したそうです。
この「呼ばれもしないのに現れた六人目」が阿良句博士で、「天秤をひっくり返した」が「やらなくてもいいこと」じゃないかと思うのです。
●フランス事変で勢ぞろいした死徒
六人目が「呼ばれもしないのに現れた」のですから、ロアによって正規に招待された祖は5名ということになります。それに加えてエキストラが1名。
フランス事変の回想シーンには、祖らしき人物のシルエットが勢ぞろいするシーンが描かれます。
『月姫 -A piece of blue glass moon-』 13/蜃気楼 Note.フランス事変
手下を大勢引き連れてる奴もいるので、人数を確定しにくいものの、おおむね6体の祖がいるように見えます。
手前に5体。
左から、槍持ち、女、長髪、帽子とステッキの紳士(と女たち)、クモ。
背後に1体。
メカっぽい足がたくさん生えた巨大な女性っぽいやつ。
背後の巨大メカっぽいのは、暫定的に「多足戦車」というコードネームで呼ぶことにします。
並びを簡単に示すとこうなります。
多足戦車
槍持ち 女 長髪 紳士 クモ
フランス事変の回想では、どの祖が何をやったのかが、ある程度まで特定できるようになっています。
引用部の最後の行が表示されたあと、画面には、「槍持ち」「紳士」「長髪」のシルエットが順繰りに表示されます。
なので、
「凍りついた街並み」が「槍持ち」、
「地面に空いたいくつもの穴」が「紳士」、
「逃げることを諦めた人を襲う鳩」が「長髪」、
の能力ということになりそうです。
人間を昆虫に変えてた祖のくだりでは、「クモ」が表示されてて「なぜワタシの愛が分からない!?」みたいなことを言っています。なので、人間を改造するのは「クモ」の能力ということになります。
槍を持ち、周囲を氷結させるといえばこれはヴローヴですから、「槍持ち」はヴローヴでいいでしょう。
人間に薔薇を咲かせて血を吸うという能力は、薔薇姫というあだなを持つリタ・ロズィーアンを強く連想させます。祖の大集合シーンに明らかに女性のシルエット(「女」)があるので、「女」をリタ・ロズィーアンであるとしておきます。
ここまでの条件をまとめます。
・槍持ち :街が凍る :ヴローヴ
・女 :吸血花 :リタ・ロズィーアン
・長髪 :人を襲う鳩:???
・紳士 :地面に穴 :???
・クモ :人間を虫化:???
・多足戦車:?????:???
名称不確定の祖が4名いて、そのうちの一人が阿良句博士かもしれない。そうであってくれ。
●よくいわれる説まとめ
巷間いわれている説では、「人を襲う鳩をあやつる長髪の人物」は、「白翼公」のあだなを持つトラフィム・オーテンロッゼではないかとされています。これは私も、今のところそうだと思います。
また、フランス事変の冒頭に、「街を城壁で囲む。大勢の人間を城壁で押しつぶす」という虐殺シーンがありました。
多足戦車がこの能力者で、その名前は「城、即ち王国」という異名を持つクロムクレイ・ペタストラクチャではないかともいわれています。
クモについては、これが阿良句博士じゃないかというのは、多くの人が指摘するところです。ノエルを改造してますしね。
(ほかにも、女=スミレ説や、紳士=リタパパ説など見ましたが、ここでは取り上げません)
巷間いわれている説をまとめると、槍=ヴローヴ、女=リタ、長髪=トラフィム、紳士=???、クモ=阿良句博士、多足戦車=クロムクレイとなります。
いちばんバランスがいい説はこれかなあと思ってはいますけれど……。
バランスがいいというのは、つまり、これが「奈須きのこさんが出す真相と一致してたら100万円もらえるクイズ」だったら私もこの方向の答えを出します、くらいの意味ですけれど。
もうちょっとだけ、意表をつかれた真相があったらいいなという個人的な欲望がめばえました。
なので少しアイデアをずらしてみます。こんなのはどうでしょう。
阿良句博士=多足戦車説。
●与太話
この段は余談ね。
ようは、私、阿良句博士が大好きだから、なるべく大きなビックリを抱え込んでてほしいという個人的な欲望があるわけです。
重ねて申しますけれど、この先は私の趣味の話ですので、妥当性とかをとろけるチーズみたいにびよんびよんに伸ばしてどっかに放り投げてるものと思って下さい。
阿良句博士は志貴から「クモみたいだ」という感想を持たれていますし、月姫リメイクには、誰が作ったかわからない謎のクモ型怪人が2体でてくるし、博士がノエルを吸血鬼に改造するシーンで、クモのシルエットが意味ありげに表示されます。
だから阿良句博士は、人体を虫っぽく改造する趣味を持ったクモタイプの祖である、というのはすごく妥当だ。びっくりするほど普通だ。
(重ねて重ねて言い訳しておきますが、これは奈須きのこさんに難癖をつけているのではなくて、私の身勝手、かつ個人的な原理に基づくしょうもない願望をのべているのです)
フランス事変には、能力がハッキリと確定していない祖が二人います。一人は「女」(吸血花のシーンに女のシルエットは描写されていない)。もう一人は「多足戦車」。
そしてフランス事変には、足がいっぱいある奴が2体いるのです。「クモ」と「多足戦車」。
阿良句博士が「招待されていない6人目」であり、それゆえに能力をあの街にぶちまけていない、と想定する場合。
能力をはっきりと見せてはいない、そして足のいっぱいある奴、つまり多足戦車さんが阿良句博士であるなんていう答案が導かれる……といった感じです。彼女が自分を改造したら、ああいうメカっぽい外見になりそうだし、多足戦車の人体部分は女性の体形ですしね。
私は基本的に、「フランス事変で大々的に街を襲っていた連中は、“六人目”とは思いづらいなあ……」という偏見的印象を抱え込んでいます。六人目が阿良句博士なら、大々的に街を襲っていたクモさんは阿良句博士だと思いにくいのです。
この答案の場合、ノエルに吸血鬼化の注射をするシーンに出てきたクモだとか、シエルルートでシエルを襲うクモっぽい改造人間については、「オリジナルであるフランス事変のクモ」からコピーした能力を発露させてる、くらいの想定をする。
なにしろ阿良句博士は、祖の能力のレプリカを作ったり、それを他人に与えたりするトンデモ能力の持ち主。
ノエルに与えたロズィーアンの能力についても、阿良句博士がロズィーアン本人でないとしたら、ロズィーアンからかすめとってきた見当になる。どこでかすめたのかといえば、それはフランス事変でしょう。
なら、同じようにクモちゃんから能力をかすめてきて自分で使ったりすることも不可能ではないのかなというくらいの想定です。
この想定の場合、なんと、阿良句博士が作中でどんな能力を使ったとしても、それを根拠に彼女の正体を導くことができないという、大問題を抱え込むことになります。でも私個人としては、阿良句博士の正体にビックリしたいので、これでいいわけです。
与太話おわり。この後はもうちょっと根拠っぽいものに基づく話をします。
●阿良句博士が志貴に打った注射
シエルルートで、阿良句博士は志貴に二種類の注射を示し、どちらか片方を選ばせます。
一方は痛くて効かない注射、他方は痛まずよく効く注射。
前者を選ぶと志貴はロアに乗っ取られてバッドエンドになります。後者を選ぶとロアは志貴を乗っ取ることができず、のちにカーナビロアが発生します。
おそらく前者は吸血鬼化を促進する薬で、後者は吸血鬼化を抑制する薬でしょう。
この話は「注射を志貴に選ばせている」というのがポイントで、彼女は「どっちに転んでもよい」と思っていることになる。
促進薬のほうを打てば、ロアに肩入れすることになる。抑制薬のほうを打てば、秋葉に肩入れすることになる。
(全校生徒が打たれた注射は抑制薬のほうであり、それを志貴含めた全校に接種するというのは秋葉の指示だろう)
「アタシ、どっちに肩入れしようかしらぁ? どっちに転んでも面白いことになるしぃ?」
というような、トリックスター的な役割を彼女は務めている見込みだ。
どっちでもいいし、自分では決めかねるので、志貴に選ばせた。
私の見立てでは、たぶん阿良句博士は「面白くなるほう」を選びたいと思っていただろう。
だが、この注射イベントの段階で、ロア派と反ロア派のパワーバランスは五分五分だ(ロアの悪だくみの成功率は50%だ)、くらいに、阿良句博士は評価していたんじゃないか。
もしパワーバランスが一方向に傾いていたのなら、逆方向に傾け直すのが「面白い」。自分が勝ち確だと思っていた奴が右往左往するところが見られる。
でもこの段階ではどっちともいえない状態だったので、赤か黒かのルーレットを志貴に回させた。そんなくらいに想定できます。
さて。
「パワーバランスが一方に傾いてるのを、逆転させるのが面白い」
天秤をひっくり返した。
つまりフランス事変でも、阿良句博士は同じような行動式で行動していたのではないか。
阿良句博士は、「どう転んでも面白いことになるわぁ」という、ある意味いちばんやっかいな思惑で、フランス事変に乗り込んだ。
ロアのたくらみが成功しても面白いし、成功しなくても面白いわね、くらいのことを思っていた。
状況を静観していたら、パワーバランスはロア側に一方的に傾いていた。つまりこのまま推移すると、ロアはアルクェイドを捕縛し、その力を自分のものにし、「世界を殺す毒」は完成して世界は滅びます。
「それって……ちょおっと面白くないんじゃないのぉ?」
世界が滅ぶのが面白くないのではなくて、ワンサイドゲームなのが面白くない。それよりは「私のワンサイドゲームだ」と思って勝ち誇ってる奴が、状況をひっくり返されてオロオロするほうが面白い。
ロアが創世の土を使ってアルクェイドを捕まえようとするのを、「えい」とか言って邪魔してやるだけでいい。
そういうわけでエレイシアロアはアルクェイドにやられて死亡。悪だくみは次代のロアに持ち越しだ。
阿良句博士は次にロアがどこに転生するのかをあらかじめ知っていた(ロア本人に聞いていたなど)。
次はもっと面白いといいわねぇ……。
●遠野家における阿良句博士の暗躍
阿良句博士がなんで日本にいたのかといえば、ロアの次の転生先がそこだと知っていたからでしょう。
ロアの転生先は異能を持つ大富豪。となると、鬼種との混血で財閥家でもある遠野家ですよねぇ、となる。
阿良句博士が遠野家に出入りするようになったのは、阿良句博士が遠野槙久の大学時代の後輩だからだ、という説明がありました。これが本当なら、阿良句博士は「あらかじめ」遠野家とのコネクションを作っていたことになる。でも年表にすると合わなくなるので、これはウソ情報だと思います。
遠野槙久が、阿良句博士を自邸に引き込んでいた理由は、鬼種混血である遠野一族が先祖がえりをしなくてすむようにしたいから。先祖がえりを抑制する方法を研究してくれ、という思惑だったと思います。
(お互い「こいつはまともな人類じゃないな」というのは一発で見抜いていたと思います)
というか、もっと積極的に「四季や秋葉が反転してしまったときのために、戻す方法を編み出してくれ」ということだったでしょう。
ところがどっこい阿良句博士は、四季の中のロアとはズブズブだ。ロアに適度にちょっかい出して面白がることが目的だ。むしろ四季なんか反転させちゃって、今すぐ自我をなくしてもらったほうがロアの覚醒が早い。
だから彼女は、こっそり「四季が反転しやすくなる」薬を投与する。なんと阿良句博士は、八年前の事件の黒幕だ……。
遠野四季は反転して人を殺したので、槙久によって殺処分されるはずでした。それが掟です。
なのに、四季は八年間ずっと生存していました。
これは遠野槙久の親心だ、と普通に理解できますし、私もその意見ですが、「四季は生かす」という判断になった要因として、
「アタシが四季チャンを元に戻せるようがんばってみるわ。だから槙久チャン、殺すのやめとかない?」
という提案が阿良句博士からあった、という想定はすごくしやすい。
阿良句博士としては、四季を殺してもらっては困るのです。次世代のロアの行方がわからなくなるからです。それに、「面白い見世物」を見られるのが、最低でも12年後になってしまいます。
そういうことがあって、四季は地下で生き延びる。じっくり時間をかけて、吸血鬼としての勢力をかため、公園の敷地を買収してその地下で儀式魔法の準備をする。
半覚醒くらいの状態だったのでアルクェイドに感知されなかった、などの置き方でいいと思います。
なんとこの説では、現状の総耶市の状況を作ったのは、おおむね全部、阿良句博士です。
●さらなる暗躍その1・水が濁ってる
シエルルート7日目に、志貴の部屋にやってきたアルクェイドは、去り際にこんなことを言います。
このセリフ、どういう意味なのか作中では説明がありません。ありませんが、直感的にこれは阿良句博士案件だろうと考えました。
水気が濁ってるというのは、ようは本来澄んでいるべきものに、変なものが混ざってるという意味でしょう。あの遠野邸で異物といえそうなのは阿良句博士か斎木業人くらいだからです。
特に根拠はないので直感ベースの話ですが、阿良句博士は遠野邸の貯水タンクに何らかの混ぜ物をしてるんじゃないかな……。
阿良句博士は遠野家の主治医ですが、同時に屋敷のメンテナンスを任されている建築家でもあります。上水の貯水タンクに、常に一定の濃度になるように何らかの薬物を流し込む装置を取り付けるくらいはお手の物でしょう。
仮にそうだとしてその薬物とは何か、という話になりますが、「混血の一族の先祖がえりを早める薬」ないしは「人間を妖怪化する薬」のような方向だと思います。
阿良句博士はただの人間を即座に吸血鬼化する薬を持っていました。同様に「ただの人間を妖怪化する薬」を作って持っていてもおかしくない。
阿良句博士は秋葉のことを、「一万人に一人ではきかないくらいレアな才能の持ち主」だと評価していました。ふつうに考えてそれは、「通常では考えられないほど鬼種の血が強く出ている」という意味だととれます。
阿良句博士のようなトリックスターは、そんな秋葉の先祖返りを「抑制」したいのか「促進」したいのか。その二択だったら後者だろう……。なぜならそっちのほうが面白いからです。究極まで鬼種化した秋葉がどうなっちゃうか見てみたいし、ロアまわりの総耶の状況がもっと波乱含みになって目が離せなくなる。
こうした仮説を是とするなら、首をへし折られた琥珀が生き返る現象が説明できるようになります。
シエルルートで吸血鬼化が進んだ志貴は、様子を見に来た琥珀の首をへし折ってしまいます。ところが琥珀は首が折れてるのにゆらりと立ちあがってこっちを見てくる……というシーンがありました。
(具体的な場所は『月姫 -A piece of blue glass moon-』 13/蜃気楼 Note.決壊[左])
琥珀は阿良句博士に盛られてた薬によってゆるやかに鬼種化(吸血鬼化でもいい)が進んでいたので首をへし折られたくらいでは死なない……などの想定をすればよい。
●さらなる暗躍その2・エンカウンター
さらにいろんな事象を阿良句博士のせいにしますが。
8日目、アルクと夜のあいびきをして、遠野邸に帰る途中の志貴が、謎の人物に襲撃されるという事件があります。その人物はなんと、死の線か命の線のどちらかを見る能力があるようでした。
(『月姫 -A piece of blue glass moon-』 8/直死の眼II Note.エンカウンター)
同人版の月姫を読んだことがあるか、アルクルートを読み終えた人が見ると、この人物は四季ロアのように見えるのですが、それにしては弱い。シエルならともかくノエルに圧倒されてしまう程度の強さでした。
また、その時点で、アルクェイドとシエルが総耶市じゅうを大々的にパトロールしてまわっている状況があります。そんな状況で、取られたら詰む王将であるロアが、単独でフラフラ出歩くというのはどうもかしこくない。
じゃああの人物は誰なのか。現状では「不定」ですが、私の直感的な答えでは斎木業人です。
斎木業人は阿良句博士の改造を受けてるんじゃないのという発想だと思って下さい。
阿良句博士は原理血戒のレプリカを作れるほどのトンデモ研究者です。そして彼女は、志貴および四季の体をいいだけ調べまくれる立場にありました(志貴の場合は八年前の話になる)。
ようするに、何らかの「線」を見る能力を抽出して他人に移植する技術と立場を持っていると考えてもそうおかしくない。
この想定の場合、どうして斎木業人は人体改造を受けたのかという話になる。それはたぶん、
「遠野一族を根絶やしにする戦闘能力がほしかった」
『歌月十夜』の『赤い鬼神』で語られたところによれば、斎木家は混血の家系における盟主のような存在でした。遠野槙久は斎木家に従属する立場でした。
斎木の当主が反転して人を食い殺すようになったので、遠野槙久は斎木を退魔の一族に売り飛ばしました。斎木の当主は退魔の暗殺者七夜黄理に殺され、斎木財閥は衰退。
それによって、遠野家は混血同盟の盟主となり、遠野グループは斎木の残党を吸収して、経済的にも巨大な存在になった……というバックグラウンドストーリーがあります。
(旧設定が今も生きているならですが)
遠野家と斎木は、いってみれば徳川幕府と豊臣家残党のような関係だ。
斎木業人は斎木一族の生き残りだと推定できます。
そうなると、普通に考えて、斎木業人は遠野家に対して恨み骨髄だ。
どうにかして遠野家を滅ぼして、昔の地位に返り咲きたいものだ……。
ところが現当主の遠野秋葉は鬼種のなかの鬼種みたいなとんでもない存在で、アルクェイドとタイマン張れるくらいの強さがある。
パワースケールとしては、米軍特殊部隊を雇って襲撃したとしても返り討ちにあうくらいでしょう。
現状では、遠野秋葉を討ち取るなんてことは夢のまた夢だ……。
と、そこにクモみたいなわじわじした髪の女が現れるわけです。
「力が欲しいのぉ?」
斎木業人が必要とするのは遠野秋葉を屈服させる力だ。それが目的なら、混血の力を強めるというのはうまくない。単なる力比べになってしまう。それでは究極の混血である秋葉を確実に倒すことはできない。
カードゲームにおけるジョーカーみたいな力が必要だ。
「じゃあこれね。超能力」
超能力は退魔の一族が鬼退治に使っていた力。七夜黄理も超能力を持っていた。つまり最強の鬼種を打倒しうる能力だ。
斎木業人はそういう改造処置を受ける。阿良句博士はとりあえず「線を見る」超能力のサンプルを持っていたのでこれを移植する。ついでに身体能力を上げるような処置も受けたかもしれない。
だがその副作用で肌が変形してしまい、包帯でぐるぐる巻きにしていないと人に会えないような状態になってしまった。私の答案はそんな感じ。
業人が志貴を襲う理由は「斎木を滅ぼした七夜の末裔だから」くらいでいいと思います。
●元ネタ探し・穴をあける祖
この記事の序盤で取り上げましたが、フランス事変には、「地面に穴をあける祖」が出てきます。
繰り返しになりますが、引用部の直後、「ヴローヴ」「ステッキ&帽子の紳士」「長髪の人物」のシルエットが順繰りに表示されるので、
「地面にいくつも穴をあける能力を持つのは紳士タイプの祖である」
と強く推定できます。
このシーンを見たとき、私は、
「これは諸星大二郎先生、妖怪ハンター『蟻地獄』じゃないか?」
と反射的に思いました。
(『妖怪ハンター1 地の巻』に収録されています。以下諸星について敬称略)
ネタばれですが『蟻地獄』のギミックを説明しますと、洞窟の地面に、底の見えないたくさんの穴があいているのです。
その穴は「当たり」と「外れ」の二種類ですが、見分けはつきません。
当たりの穴に飛び込むと、なんでも願いが叶います。
外れに飛び込んだ人は、二度と出られず、中にいる謎の存在によって体に穴をあけられ、生きたまま永久に体の中身を吸われ続けます。
ヴローヴにしろロアにしろ、吸血鬼は基本、血を吸うことによって人間を殺してしまいます。生き延びるために常に狩りをしていなければならない寸法だ。
そこで、
「狩りをするより農業のほうが持続性があるんじゃないかね」
人間を殺しちゃうから、次の獲物、次の獲物と、狩りに汲々としていなきゃならない。
人間は、生かしておけば血液を作るのだから、ずっと生かしたまま血を絞り続ければいいじゃないか。乳を搾るたびに乳牛を殺すなんて馬鹿のすることだ。
そこで、人間を穴に閉じ込める。人間の体に穴をあけて、生かしたまま半永久的に血を吸う。
私、『Fate/stay night』で、教会の地下にあるものを見たときも、「これ蟻地獄」と思ったのです。
子供を大量に閉じ込めて動けない状態にして、10年にもわたって生かしたまま、命を吸い取る電池にしていた。
奈須きのこさんが諸星大二郎を読んでても読んでなくても話はおなじで、彼は「人間を生きたまま何らかの苗床にする」というグロテスク表現の素を持っている。それを月姫リメイクでも使った可能性がある。
この構造を「王が臣民を搾取する」という見立てにすれば、この能力はいわば「王国」になるわけで、「城、即ち王国」のクロムクレイ・ペタストラクチャなんじゃないかという連想もはたらきましたが、どうかわかりません。
●再説・ロアの転生は16回か17回か
第3回で、「ロアの転生回数は16回という情報と17回という情報があるがどっちだ?」という話題を取り上げました。志貴は16回とも17回とも言っているんですね。
第3回を書いた当時には「わかりません」としていたのですが。
これに関してちょっとした考えが浮かんだので書き留めておきます。
旧設定ですが、『月姫読本』のロアの項を読んでいたら、こういう記述につきあたりました。
おっと、十七回。
それも「アルクェイドとの殺し合い」の回数が十七回。
言い換えれば、ようするに、17回というのは「アルクェイドに殺された数」を数えているのである。
ロアはアルクが大好きなので、アルクに殺された記憶は大事に次代に持っていく。逆にいえば、アルク以外の死因で死んだ回は記憶を次代に引き継がない。
第3回の時点では、「四季→志貴の乗り換えを転生回数と数えるのは腑に落ちないなあ」としていたのですが、こうなると話は変わってくる。
なぜなら、四季ロアは作中でアルクェイドに殺されたからだ。
エレイシアロアが四季ロアに転生した段階で、転生回数=アルクに殺された回数=16回。
その後、作中で四季ロアがアルクに殺されたから、ロアは志貴に乗り移って生存をはかる。この時点で、ロアがアルクに殺された回数が17になる。
その結果、カーナビロアが発生して、「17回転生したカーナビロアはシエル先輩の魔術を未熟だと笑った」という記述が出る。
この話、「志貴とロアがひとつの体に同居してバディになった」その段階で17回だということに意味が出てくる。
17回というのは、志貴がアルクェイドを切った回数でもある。つまり「志貴がアルクを殺した回数」だ。
そして17回は、「アルクがロアを殺した回数」だ。
この物語、「アルクェイド」と「アルクェイドに17回殺された男」と「アルクェイドを17回殺した男」の三角関係なんですね。
物語の始まりでは、「アルクに16回殺された男」と「アルクを17回殺した男」だった。その数値が17と17でそろった瞬間に、ふたりの男はひとつの体の中に同居し、共犯関係になる。アルクを救うためにアルクに刃を向けるという行動に出る。そうして志貴は光体アルクを殺し、ロアは死ぬ。
そういう符合をつくるために、「四季ロアの段階で16回。志貴&ロアの段階で17回」という設定がなされているのだと考えると腑に落ちる。
ということを思いついたので皆さんに共有しておきます。
「月姫リメイク」シリーズは今回でいったん終了します。
(また何か思いついたら続きを書きます)
が、来週も1記事更新します。別シリーズを立てて(といっても全1回ですが)、
「魔術理論“世界卵”とはいったいどういう理論なのか」
ということを思いついたのでそれを書きます。
ということで「終わり」ですが「続く」。
続き。
魔術理論“世界卵”はどういう理論なのか
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※『うみねこのなく頃に』はこちらから→ ■うみねこ推理 目次■
月姫リメイク(7)すべてが阿良句博士のしわざ・ロアの転生回数再び
筆者-Townmemory 初稿-2023年7月8日
わたくし、阿良句博士が好きすぎてどうにかなりそうでしてよ。このページでは、阿良句博士を集中的に取り上げます。「なにもかも全部、阿良句博士のせいにする」という荒業をお見せいたします。
できれば順番にお読みいただくことを推奨します。
月姫リメイク(1)原理血戒と大規定・上
月姫リメイク(2)原理血戒と大規定・下
月姫リメイク(3)ロアの転生回数とヴローヴに与えた術式
月姫リメイク(4)ロアのイデア論・イデアブラッドって何よ
月姫リメイク(5)マーリオゥ/ラウレンティス同一人物問題・逆行運河したいロア
月姫リメイク(6)天体の卵の正体・古い宇宙・続マリ/ラウ問題
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●やらなくていいことをする女
わたくし阿良句博士が大好きなので、フランス事変についても、「あの中の誰が阿良句博士なのか」というところに興味が集約されています。
阿良句博士はどうみても死徒ないしは死徒関係者。ひょっとしたら二十七祖。
→少年ジャンプ的な発想だが、この時点で屋敷に二十七祖の一人が食客としていたら、君はどうする? 新ヒロインの予感。あと遠野家ルート大改訂の予感。『TSUKIHIME TSUUSHIN R』P.7
奈須きのこさんは月姫リメイクの準備段階でこういうメモを残している。遠野邸の食客といえば阿良句博士だ。……という連想はすでにメジャーになってますよね。
(なんで日光が平気なの? という疑問については、アルクの吸血鬼講座に出てきた「カゲムシャ」くらいの想定でことたりる)
阿良句博士が二十七祖の一人なら、フランス事変に居合わせていた可能性がある。あそこにずらっと居並んでいた死徒のうち、誰が彼女なのか知りたくてたまらない。
ところでロアは、阿良句博士が志貴に打った怪しい注射のことを指して、「あの女はやらなくていいことしかしない」と言っています。どうやら以前にも、やらなくていいことをやってロアを困らせたことがあるようです。
想定より早く目が覚めた。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 11/後日談。 Note.カルマの清算
よからぬものが混じったからだろう。
左の上腕に右手を置き、肌の上から血管を圧迫する。
痛みはない。人間であればあっただろう。
効果はない。既に必要がないので当然だ。
余計な事を。
やらなくてもいい事しかやらないのが、あの女の悪癖だ。
そして、エレイシア時代のロアの回想で語られたところによれば、「呼ばれもしないのに来た6人目」のせいで儀式が失敗したそうです。
アルクェイドはわたしの手に落ち、あと少しで彼女を丸呑みにできるところだった。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 13/蜃気楼 Note.ルナ・ボウ
なのに、
呼ばれもしないのに現れた六人目が、あっさり天秤をひっくり返した。
この「呼ばれもしないのに現れた六人目」が阿良句博士で、「天秤をひっくり返した」が「やらなくてもいいこと」じゃないかと思うのです。
●フランス事変で勢ぞろいした死徒
六人目が「呼ばれもしないのに現れた」のですから、ロアによって正規に招待された祖は5名ということになります。それに加えてエキストラが1名。
フランス事変の回想シーンには、祖らしき人物のシルエットが勢ぞろいするシーンが描かれます。
『月姫 -A piece of blue glass moon-』 13/蜃気楼 Note.フランス事変
手下を大勢引き連れてる奴もいるので、人数を確定しにくいものの、おおむね6体の祖がいるように見えます。
手前に5体。
左から、槍持ち、女、長髪、帽子とステッキの紳士(と女たち)、クモ。
背後に1体。
メカっぽい足がたくさん生えた巨大な女性っぽいやつ。
背後の巨大メカっぽいのは、暫定的に「多足戦車」というコードネームで呼ぶことにします。
並びを簡単に示すとこうなります。
多足戦車
槍持ち 女 長髪 紳士 クモ
フランス事変の回想では、どの祖が何をやったのかが、ある程度まで特定できるようになっています。
たとえば一面の展覧会。月姫 -A piece of blue glass moon-』 13/蜃気楼 Note.フランス事変
(略)
そのサボテンには真っ赤な花が咲いていた。人間を苗床にして咲く吸血花。血液で咲く深紅の薔薇(ルージュメイアン)。
(略)
たとえば一面の舞踏会。
(略)
六本脚の昆虫。八本脚の蜘蛛。多足類のわじわじしたもの。
みんな泣き叫びながら、モドシテクレ、と合唱している。
それらはやっぱりよく見なくても人間で、体中のいろいろなところから新しい部位が生えていた。
(略)
凍りついた街並み、地面に空いたいくつもの穴、逃(い)きる事を諦めた人だけを襲う美しい鳩の群れ。
引用部の最後の行が表示されたあと、画面には、「槍持ち」「紳士」「長髪」のシルエットが順繰りに表示されます。
なので、
「凍りついた街並み」が「槍持ち」、
「地面に空いたいくつもの穴」が「紳士」、
「逃げることを諦めた人を襲う鳩」が「長髪」、
の能力ということになりそうです。
人間を昆虫に変えてた祖のくだりでは、「クモ」が表示されてて「なぜワタシの愛が分からない!?」みたいなことを言っています。なので、人間を改造するのは「クモ」の能力ということになります。
槍を持ち、周囲を氷結させるといえばこれはヴローヴですから、「槍持ち」はヴローヴでいいでしょう。
人間に薔薇を咲かせて血を吸うという能力は、薔薇姫というあだなを持つリタ・ロズィーアンを強く連想させます。祖の大集合シーンに明らかに女性のシルエット(「女」)があるので、「女」をリタ・ロズィーアンであるとしておきます。
ここまでの条件をまとめます。
・槍持ち :街が凍る :ヴローヴ
・女 :吸血花 :リタ・ロズィーアン
・長髪 :人を襲う鳩:???
・紳士 :地面に穴 :???
・クモ :人間を虫化:???
・多足戦車:?????:???
名称不確定の祖が4名いて、そのうちの一人が阿良句博士かもしれない。そうであってくれ。
●よくいわれる説まとめ
巷間いわれている説では、「人を襲う鳩をあやつる長髪の人物」は、「白翼公」のあだなを持つトラフィム・オーテンロッゼではないかとされています。これは私も、今のところそうだと思います。
また、フランス事変の冒頭に、「街を城壁で囲む。大勢の人間を城壁で押しつぶす」という虐殺シーンがありました。
多足戦車がこの能力者で、その名前は「城、即ち王国」という異名を持つクロムクレイ・ペタストラクチャではないかともいわれています。
クモについては、これが阿良句博士じゃないかというのは、多くの人が指摘するところです。ノエルを改造してますしね。
(ほかにも、女=スミレ説や、紳士=リタパパ説など見ましたが、ここでは取り上げません)
巷間いわれている説をまとめると、槍=ヴローヴ、女=リタ、長髪=トラフィム、紳士=???、クモ=阿良句博士、多足戦車=クロムクレイとなります。
いちばんバランスがいい説はこれかなあと思ってはいますけれど……。
バランスがいいというのは、つまり、これが「奈須きのこさんが出す真相と一致してたら100万円もらえるクイズ」だったら私もこの方向の答えを出します、くらいの意味ですけれど。
もうちょっとだけ、意表をつかれた真相があったらいいなという個人的な欲望がめばえました。
なので少しアイデアをずらしてみます。こんなのはどうでしょう。
阿良句博士=多足戦車説。
●与太話
この段は余談ね。
ようは、私、阿良句博士が大好きだから、なるべく大きなビックリを抱え込んでてほしいという個人的な欲望があるわけです。
重ねて申しますけれど、この先は私の趣味の話ですので、妥当性とかをとろけるチーズみたいにびよんびよんに伸ばしてどっかに放り投げてるものと思って下さい。
阿良句博士は志貴から「クモみたいだ」という感想を持たれていますし、月姫リメイクには、誰が作ったかわからない謎のクモ型怪人が2体でてくるし、博士がノエルを吸血鬼に改造するシーンで、クモのシルエットが意味ありげに表示されます。
だから阿良句博士は、人体を虫っぽく改造する趣味を持ったクモタイプの祖である、というのはすごく妥当だ。びっくりするほど普通だ。
(重ねて重ねて言い訳しておきますが、これは奈須きのこさんに難癖をつけているのではなくて、私の身勝手、かつ個人的な原理に基づくしょうもない願望をのべているのです)
フランス事変には、能力がハッキリと確定していない祖が二人います。一人は「女」(吸血花のシーンに女のシルエットは描写されていない)。もう一人は「多足戦車」。
そしてフランス事変には、足がいっぱいある奴が2体いるのです。「クモ」と「多足戦車」。
阿良句博士が「招待されていない6人目」であり、それゆえに能力をあの街にぶちまけていない、と想定する場合。
能力をはっきりと見せてはいない、そして足のいっぱいある奴、つまり多足戦車さんが阿良句博士であるなんていう答案が導かれる……といった感じです。彼女が自分を改造したら、ああいうメカっぽい外見になりそうだし、多足戦車の人体部分は女性の体形ですしね。
私は基本的に、「フランス事変で大々的に街を襲っていた連中は、“六人目”とは思いづらいなあ……」という偏見的印象を抱え込んでいます。六人目が阿良句博士なら、大々的に街を襲っていたクモさんは阿良句博士だと思いにくいのです。
この答案の場合、ノエルに吸血鬼化の注射をするシーンに出てきたクモだとか、シエルルートでシエルを襲うクモっぽい改造人間については、「オリジナルであるフランス事変のクモ」からコピーした能力を発露させてる、くらいの想定をする。
なにしろ阿良句博士は、祖の能力のレプリカを作ったり、それを他人に与えたりするトンデモ能力の持ち主。
ノエルに与えたロズィーアンの能力についても、阿良句博士がロズィーアン本人でないとしたら、ロズィーアンからかすめとってきた見当になる。どこでかすめたのかといえば、それはフランス事変でしょう。
なら、同じようにクモちゃんから能力をかすめてきて自分で使ったりすることも不可能ではないのかなというくらいの想定です。
この想定の場合、なんと、阿良句博士が作中でどんな能力を使ったとしても、それを根拠に彼女の正体を導くことができないという、大問題を抱え込むことになります。でも私個人としては、阿良句博士の正体にビックリしたいので、これでいいわけです。
与太話おわり。この後はもうちょっと根拠っぽいものに基づく話をします。
●阿良句博士が志貴に打った注射
シエルルートで、阿良句博士は志貴に二種類の注射を示し、どちらか片方を選ばせます。
一方は痛くて効かない注射、他方は痛まずよく効く注射。
前者を選ぶと志貴はロアに乗っ取られてバッドエンドになります。後者を選ぶとロアは志貴を乗っ取ることができず、のちにカーナビロアが発生します。
おそらく前者は吸血鬼化を促進する薬で、後者は吸血鬼化を抑制する薬でしょう。
この話は「注射を志貴に選ばせている」というのがポイントで、彼女は「どっちに転んでもよい」と思っていることになる。
促進薬のほうを打てば、ロアに肩入れすることになる。抑制薬のほうを打てば、秋葉に肩入れすることになる。
(全校生徒が打たれた注射は抑制薬のほうであり、それを志貴含めた全校に接種するというのは秋葉の指示だろう)
「アタシ、どっちに肩入れしようかしらぁ? どっちに転んでも面白いことになるしぃ?」
というような、トリックスター的な役割を彼女は務めている見込みだ。
どっちでもいいし、自分では決めかねるので、志貴に選ばせた。
私の見立てでは、たぶん阿良句博士は「面白くなるほう」を選びたいと思っていただろう。
だが、この注射イベントの段階で、ロア派と反ロア派のパワーバランスは五分五分だ(ロアの悪だくみの成功率は50%だ)、くらいに、阿良句博士は評価していたんじゃないか。
もしパワーバランスが一方向に傾いていたのなら、逆方向に傾け直すのが「面白い」。自分が勝ち確だと思っていた奴が右往左往するところが見られる。
でもこの段階ではどっちともいえない状態だったので、赤か黒かのルーレットを志貴に回させた。そんなくらいに想定できます。
さて。
「パワーバランスが一方に傾いてるのを、逆転させるのが面白い」
アルクェイドはわたしの手に落ち、あと少しで彼女を丸呑みにできるところだった。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 13/蜃気楼 Note.ルナ・ボウ
なのに、
呼ばれもしないのに現れた六人目が、あっさり天秤をひっくり返した。
天秤をひっくり返した。
つまりフランス事変でも、阿良句博士は同じような行動式で行動していたのではないか。
阿良句博士は、「どう転んでも面白いことになるわぁ」という、ある意味いちばんやっかいな思惑で、フランス事変に乗り込んだ。
ロアのたくらみが成功しても面白いし、成功しなくても面白いわね、くらいのことを思っていた。
状況を静観していたら、パワーバランスはロア側に一方的に傾いていた。つまりこのまま推移すると、ロアはアルクェイドを捕縛し、その力を自分のものにし、「世界を殺す毒」は完成して世界は滅びます。
「それって……ちょおっと面白くないんじゃないのぉ?」
世界が滅ぶのが面白くないのではなくて、ワンサイドゲームなのが面白くない。それよりは「私のワンサイドゲームだ」と思って勝ち誇ってる奴が、状況をひっくり返されてオロオロするほうが面白い。
ロアが創世の土を使ってアルクェイドを捕まえようとするのを、「えい」とか言って邪魔してやるだけでいい。
そういうわけでエレイシアロアはアルクェイドにやられて死亡。悪だくみは次代のロアに持ち越しだ。
阿良句博士は次にロアがどこに転生するのかをあらかじめ知っていた(ロア本人に聞いていたなど)。
次はもっと面白いといいわねぇ……。
●遠野家における阿良句博士の暗躍
阿良句博士がなんで日本にいたのかといえば、ロアの次の転生先がそこだと知っていたからでしょう。
ロアの転生先は異能を持つ大富豪。となると、鬼種との混血で財閥家でもある遠野家ですよねぇ、となる。
阿良句博士が遠野家に出入りするようになったのは、阿良句博士が遠野槙久の大学時代の後輩だからだ、という説明がありました。これが本当なら、阿良句博士は「あらかじめ」遠野家とのコネクションを作っていたことになる。でも年表にすると合わなくなるので、これはウソ情報だと思います。
遠野槙久が、阿良句博士を自邸に引き込んでいた理由は、鬼種混血である遠野一族が先祖がえりをしなくてすむようにしたいから。先祖がえりを抑制する方法を研究してくれ、という思惑だったと思います。
(お互い「こいつはまともな人類じゃないな」というのは一発で見抜いていたと思います)
というか、もっと積極的に「四季や秋葉が反転してしまったときのために、戻す方法を編み出してくれ」ということだったでしょう。
ところがどっこい阿良句博士は、四季の中のロアとはズブズブだ。ロアに適度にちょっかい出して面白がることが目的だ。むしろ四季なんか反転させちゃって、今すぐ自我をなくしてもらったほうがロアの覚醒が早い。
だから彼女は、こっそり「四季が反転しやすくなる」薬を投与する。なんと阿良句博士は、八年前の事件の黒幕だ……。
遠野四季は反転して人を殺したので、槙久によって殺処分されるはずでした。それが掟です。
なのに、四季は八年間ずっと生存していました。
これは遠野槙久の親心だ、と普通に理解できますし、私もその意見ですが、「四季は生かす」という判断になった要因として、
「アタシが四季チャンを元に戻せるようがんばってみるわ。だから槙久チャン、殺すのやめとかない?」
という提案が阿良句博士からあった、という想定はすごくしやすい。
阿良句博士としては、四季を殺してもらっては困るのです。次世代のロアの行方がわからなくなるからです。それに、「面白い見世物」を見られるのが、最低でも12年後になってしまいます。
そういうことがあって、四季は地下で生き延びる。じっくり時間をかけて、吸血鬼としての勢力をかため、公園の敷地を買収してその地下で儀式魔法の準備をする。
半覚醒くらいの状態だったのでアルクェイドに感知されなかった、などの置き方でいいと思います。
なんとこの説では、現状の総耶市の状況を作ったのは、おおむね全部、阿良句博士です。
●さらなる暗躍その1・水が濁ってる
シエルルート7日目に、志貴の部屋にやってきたアルクェイドは、去り際にこんなことを言います。
「でも気をつけて。この屋敷、良くないわよ。水気が濁ってる」『月姫 -A piece of blue glass moon-』 7/孵化逆 Note.屋敷に帰ろう。
このセリフ、どういう意味なのか作中では説明がありません。ありませんが、直感的にこれは阿良句博士案件だろうと考えました。
水気が濁ってるというのは、ようは本来澄んでいるべきものに、変なものが混ざってるという意味でしょう。あの遠野邸で異物といえそうなのは阿良句博士か斎木業人くらいだからです。
特に根拠はないので直感ベースの話ですが、阿良句博士は遠野邸の貯水タンクに何らかの混ぜ物をしてるんじゃないかな……。
阿良句博士は遠野家の主治医ですが、同時に屋敷のメンテナンスを任されている建築家でもあります。上水の貯水タンクに、常に一定の濃度になるように何らかの薬物を流し込む装置を取り付けるくらいはお手の物でしょう。
仮にそうだとしてその薬物とは何か、という話になりますが、「混血の一族の先祖がえりを早める薬」ないしは「人間を妖怪化する薬」のような方向だと思います。
阿良句博士はただの人間を即座に吸血鬼化する薬を持っていました。同様に「ただの人間を妖怪化する薬」を作って持っていてもおかしくない。
阿良句博士は秋葉のことを、「一万人に一人ではきかないくらいレアな才能の持ち主」だと評価していました。ふつうに考えてそれは、「通常では考えられないほど鬼種の血が強く出ている」という意味だととれます。
阿良句博士のようなトリックスターは、そんな秋葉の先祖返りを「抑制」したいのか「促進」したいのか。その二択だったら後者だろう……。なぜならそっちのほうが面白いからです。究極まで鬼種化した秋葉がどうなっちゃうか見てみたいし、ロアまわりの総耶の状況がもっと波乱含みになって目が離せなくなる。
こうした仮説を是とするなら、首をへし折られた琥珀が生き返る現象が説明できるようになります。
シエルルートで吸血鬼化が進んだ志貴は、様子を見に来た琥珀の首をへし折ってしまいます。ところが琥珀は首が折れてるのにゆらりと立ちあがってこっちを見てくる……というシーンがありました。
(具体的な場所は『月姫 -A piece of blue glass moon-』 13/蜃気楼 Note.決壊[左])
琥珀は阿良句博士に盛られてた薬によってゆるやかに鬼種化(吸血鬼化でもいい)が進んでいたので首をへし折られたくらいでは死なない……などの想定をすればよい。
●さらなる暗躍その2・エンカウンター
さらにいろんな事象を阿良句博士のせいにしますが。
8日目、アルクと夜のあいびきをして、遠野邸に帰る途中の志貴が、謎の人物に襲撃されるという事件があります。その人物はなんと、死の線か命の線のどちらかを見る能力があるようでした。
(『月姫 -A piece of blue glass moon-』 8/直死の眼II Note.エンカウンター)
同人版の月姫を読んだことがあるか、アルクルートを読み終えた人が見ると、この人物は四季ロアのように見えるのですが、それにしては弱い。シエルならともかくノエルに圧倒されてしまう程度の強さでした。
また、その時点で、アルクェイドとシエルが総耶市じゅうを大々的にパトロールしてまわっている状況があります。そんな状況で、取られたら詰む王将であるロアが、単独でフラフラ出歩くというのはどうもかしこくない。
じゃああの人物は誰なのか。現状では「不定」ですが、私の直感的な答えでは斎木業人です。
斎木業人は阿良句博士の改造を受けてるんじゃないのという発想だと思って下さい。
阿良句博士は原理血戒のレプリカを作れるほどのトンデモ研究者です。そして彼女は、志貴および四季の体をいいだけ調べまくれる立場にありました(志貴の場合は八年前の話になる)。
ようするに、何らかの「線」を見る能力を抽出して他人に移植する技術と立場を持っていると考えてもそうおかしくない。
この想定の場合、どうして斎木業人は人体改造を受けたのかという話になる。それはたぶん、
「遠野一族を根絶やしにする戦闘能力がほしかった」
『歌月十夜』の『赤い鬼神』で語られたところによれば、斎木家は混血の家系における盟主のような存在でした。遠野槙久は斎木家に従属する立場でした。
斎木の当主が反転して人を食い殺すようになったので、遠野槙久は斎木を退魔の一族に売り飛ばしました。斎木の当主は退魔の暗殺者七夜黄理に殺され、斎木財閥は衰退。
それによって、遠野家は混血同盟の盟主となり、遠野グループは斎木の残党を吸収して、経済的にも巨大な存在になった……というバックグラウンドストーリーがあります。
(旧設定が今も生きているならですが)
遠野家と斎木は、いってみれば徳川幕府と豊臣家残党のような関係だ。
斎木業人は斎木一族の生き残りだと推定できます。
そうなると、普通に考えて、斎木業人は遠野家に対して恨み骨髄だ。
どうにかして遠野家を滅ぼして、昔の地位に返り咲きたいものだ……。
ところが現当主の遠野秋葉は鬼種のなかの鬼種みたいなとんでもない存在で、アルクェイドとタイマン張れるくらいの強さがある。
パワースケールとしては、米軍特殊部隊を雇って襲撃したとしても返り討ちにあうくらいでしょう。
現状では、遠野秋葉を討ち取るなんてことは夢のまた夢だ……。
と、そこにクモみたいなわじわじした髪の女が現れるわけです。
「力が欲しいのぉ?」
斎木業人が必要とするのは遠野秋葉を屈服させる力だ。それが目的なら、混血の力を強めるというのはうまくない。単なる力比べになってしまう。それでは究極の混血である秋葉を確実に倒すことはできない。
カードゲームにおけるジョーカーみたいな力が必要だ。
「じゃあこれね。超能力」
超能力は退魔の一族が鬼退治に使っていた力。七夜黄理も超能力を持っていた。つまり最強の鬼種を打倒しうる能力だ。
斎木業人はそういう改造処置を受ける。阿良句博士はとりあえず「線を見る」超能力のサンプルを持っていたのでこれを移植する。ついでに身体能力を上げるような処置も受けたかもしれない。
だがその副作用で肌が変形してしまい、包帯でぐるぐる巻きにしていないと人に会えないような状態になってしまった。私の答案はそんな感じ。
業人が志貴を襲う理由は「斎木を滅ぼした七夜の末裔だから」くらいでいいと思います。
●元ネタ探し・穴をあける祖
この記事の序盤で取り上げましたが、フランス事変には、「地面に穴をあける祖」が出てきます。
凍りついた街並み、地面に空いたいくつもの穴、逃(い)きる事を諦めた人だけを襲う美しい鳩の群れ。月姫 -A piece of blue glass moon-』 13/蜃気楼 Note.フランス事変
繰り返しになりますが、引用部の直後、「ヴローヴ」「ステッキ&帽子の紳士」「長髪の人物」のシルエットが順繰りに表示されるので、
「地面にいくつも穴をあける能力を持つのは紳士タイプの祖である」
と強く推定できます。
このシーンを見たとき、私は、
「これは諸星大二郎先生、妖怪ハンター『蟻地獄』じゃないか?」
と反射的に思いました。
(『妖怪ハンター1 地の巻』に収録されています。以下諸星について敬称略)
ネタばれですが『蟻地獄』のギミックを説明しますと、洞窟の地面に、底の見えないたくさんの穴があいているのです。
その穴は「当たり」と「外れ」の二種類ですが、見分けはつきません。
当たりの穴に飛び込むと、なんでも願いが叶います。
外れに飛び込んだ人は、二度と出られず、中にいる謎の存在によって体に穴をあけられ、生きたまま永久に体の中身を吸われ続けます。
ヴローヴにしろロアにしろ、吸血鬼は基本、血を吸うことによって人間を殺してしまいます。生き延びるために常に狩りをしていなければならない寸法だ。
そこで、
「狩りをするより農業のほうが持続性があるんじゃないかね」
人間を殺しちゃうから、次の獲物、次の獲物と、狩りに汲々としていなきゃならない。
人間は、生かしておけば血液を作るのだから、ずっと生かしたまま血を絞り続ければいいじゃないか。乳を搾るたびに乳牛を殺すなんて馬鹿のすることだ。
そこで、人間を穴に閉じ込める。人間の体に穴をあけて、生かしたまま半永久的に血を吸う。
私、『Fate/stay night』で、教会の地下にあるものを見たときも、「これ蟻地獄」と思ったのです。
子供を大量に閉じ込めて動けない状態にして、10年にもわたって生かしたまま、命を吸い取る電池にしていた。
奈須きのこさんが諸星大二郎を読んでても読んでなくても話はおなじで、彼は「人間を生きたまま何らかの苗床にする」というグロテスク表現の素を持っている。それを月姫リメイクでも使った可能性がある。
この構造を「王が臣民を搾取する」という見立てにすれば、この能力はいわば「王国」になるわけで、「城、即ち王国」のクロムクレイ・ペタストラクチャなんじゃないかという連想もはたらきましたが、どうかわかりません。
●再説・ロアの転生は16回か17回か
第3回で、「ロアの転生回数は16回という情報と17回という情報があるがどっちだ?」という話題を取り上げました。志貴は16回とも17回とも言っているんですね。
「余計なお世話だ、16回も死んでるヤツは黙ってろ!」『月姫 -A piece of blue glass moon-』 14/果てずの石 Note.顕現
17回にも及ぶ転生。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 14/果てずの石 逆行運河/天体受胎
その度に“新たな魔術の最奥”を築いてきた天才は、
先輩の奥の手を“無駄が多い”と嘲笑った。
第3回を書いた当時には「わかりません」としていたのですが。
これに関してちょっとした考えが浮かんだので書き留めておきます。
旧設定ですが、『月姫読本』のロアの項を読んでいたら、こういう記述につきあたりました。
以後、自らが選抜した赤子に転生を繰り返し、実に十七回もの間、アルクェイドと終わりのない殺し合いをするに至る。宙出版『月姫読本 Plus Period』P.191
おっと、十七回。
それも「アルクェイドとの殺し合い」の回数が十七回。
言い換えれば、ようするに、17回というのは「アルクェイドに殺された数」を数えているのである。
ロアはアルクが大好きなので、アルクに殺された記憶は大事に次代に持っていく。逆にいえば、アルク以外の死因で死んだ回は記憶を次代に引き継がない。
第3回の時点では、「四季→志貴の乗り換えを転生回数と数えるのは腑に落ちないなあ」としていたのですが、こうなると話は変わってくる。
なぜなら、四季ロアは作中でアルクェイドに殺されたからだ。
エレイシアロアが四季ロアに転生した段階で、転生回数=アルクに殺された回数=16回。
その後、作中で四季ロアがアルクに殺されたから、ロアは志貴に乗り移って生存をはかる。この時点で、ロアがアルクに殺された回数が17になる。
その結果、カーナビロアが発生して、「17回転生したカーナビロアはシエル先輩の魔術を未熟だと笑った」という記述が出る。
この話、「志貴とロアがひとつの体に同居してバディになった」その段階で17回だということに意味が出てくる。
17回というのは、志貴がアルクェイドを切った回数でもある。つまり「志貴がアルクを殺した回数」だ。
そして17回は、「アルクがロアを殺した回数」だ。
この物語、「アルクェイド」と「アルクェイドに17回殺された男」と「アルクェイドを17回殺した男」の三角関係なんですね。
物語の始まりでは、「アルクに16回殺された男」と「アルクを17回殺した男」だった。その数値が17と17でそろった瞬間に、ふたりの男はひとつの体の中に同居し、共犯関係になる。アルクを救うためにアルクに刃を向けるという行動に出る。そうして志貴は光体アルクを殺し、ロアは死ぬ。
そういう符合をつくるために、「四季ロアの段階で16回。志貴&ロアの段階で17回」という設定がなされているのだと考えると腑に落ちる。
ということを思いついたので皆さんに共有しておきます。
「月姫リメイク」シリーズは今回でいったん終了します。
(また何か思いついたら続きを書きます)
が、来週も1記事更新します。別シリーズを立てて(といっても全1回ですが)、
「魔術理論“世界卵”とはいったいどういう理論なのか」
ということを思いついたのでそれを書きます。
ということで「終わり」ですが「続く」。
続き。
魔術理論“世界卵”はどういう理論なのか
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