さいごのかぎ / Quest for grandmaster key

「TYPE-MOON」「うみねこのなく頃に」その他フィクションの読解です。
まずは記事冒頭の目次などからどうぞ。

FGO:マリスビリーの目的と事象収納(置換魔術その3)

2024年12月26日 17時50分55秒 | TYPE-MOON
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FGO:マリスビリーの目的と事象収納(置換魔術その3)
 筆者-Townmemory 初稿-2024年12月26日


『Fate/Grand Order』(FGO)の黒幕とクライマックス予測に関する記事です。

■関連記事
●魔術理論“世界卵”はどういう理論なのか
●FGO:置換魔術で置換されうるもの(私たちとは何か)
●FGO:続・置換魔術(確率化する私たち)

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■マリスビリーあいつなんかやってます

 FGOにはマリスビリーという人物がいます。この人は主人公側の組織のボスだったのですが(故人)、どうやら何らかの悪だくみをしていたようで、そのために世界が大変なことになっているというのが、現在(現実時間2024年12月)のFGOの状況です。

 世界全体が白紙のページのようにまっさらになってしまった! という「白紙化地球」の現象も、どうやらマリスビリーの悪だくみの一環だったようです。
 彼はカルデアスという、地球の精巧なミニチュアを作っていました。これも悪だくみに大いに関係しているようです。

 なんでまた彼は地球を白紙化したかったのか(それによって何を得ようとしていたのか)というのは、断片的なヒントがいくらかちりばめられてはいますが、はっきりとしません。

 どうも彼の計画では、「カルデアの生き残りが地球の白紙化をなんとかしようとする」という行動も織り込み済みっぽいのですが、どうして彼は「自分の計画を邪魔しようとするヤツ」を必要とするのか、これもはっきりしません。

 が、これに関して、ちょっと思いついたことがあるので以下に書き留めておきます。まずは長い長い前置きを書きます。

 お品書きとしては、

・マリスビリーがやろうとしていたことは何か(前提条件の設定)
・それで彼は何を得られるのか(本論1)
・それに対してノウム・カルデアはどうするのか(本論2)


 の三本です。


■デイビット・ゼム・ヴォイドは何を語ったのか

 デイビット・ゼム・ヴォイドという敵方の人物がいます。この人はマリスビリーのやろうとしたことを全部知っていて、これを阻止しようとした人物です。

 彼がいうには、マリスビリーの悪だくみは、現在進行形で成立しようとしている。
 これを阻止するには、地球をまるごとぶっこわすしかない。
 だからオレが地球をぶっこわす。

 という、えらい極端な行動方針を持っていました(主人公たちに阻止されました)。

 はっきりいってちょっとわけがわからないのですが、デイビットが言ったことややったことについてきれいに説明がついて、「だから地球をぶっこわすんだ」という結論に納得がいくようなストーリーが思いつけば、それはつまりマリスビリーの悪事を見抜けたことになりそうだ。

 なので、まずはデイビットの来歴や言動をまとめてみます。


1:デイビットは地球外の何らかの意思を代弁している(推定)

 デイビットは10歳のときに、地球外から来た非人類のアイテム「天使の遺物」の光を浴びて、それ以降、人間離れした思考をするようになったとされます。

 また彼は、140億光年の外宇宙から戦力を呼び出す能力を持っています。

 彼はおそらく地球外の何らかの意思の端末と化しており、地球の情報を送信したり、宇宙側の利害を代弁するような存在ではないかと推定できます。


2:「マリスビリーの悪事は地球の恥となる」

 宇宙的規模の思考の枠組みをもっているデイビットは、「地球人類が汚名を着ることを避けたい」と言っています。これがデイビットの目的で、「地球を破壊する」はその手段です。

(デイビット)
七つの異聞帯が切除された時、
ヤツの人理保障は完成する。

そうなれば地球人類は138億光年に亘る汚名を被るだろう。
“この宇宙に生まれた、最低の知的生命体”と。
『Fate/Grand Order』黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン 19節


(デイビット)
カルデアス……いや、マリスビリーは
『人類の敵』ではない。

ヤツは『宇宙の敵・・・・』だ。
それに関知できたのがオレだけなら――

この惑星を破壊する事で、
人類が負うであろう汚名を無くそう。

君は世界を救う。
オレは宇宙を救う。
『Fate/Grand Order』黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン 23節


     *

 まとめると、宇宙的意思(みたいなもの)と接続しているデイビットは、「宇宙人から見て、地球人はどう見えるか」という視点を持っている。

 マリスビリーの計画が成就した場合、宇宙人たちは、「地球人類、サイテー」という感想を持つだろう。

 地球人類の名誉を守るためには、マリスビリーの計画を成就させてはならない。

 マリスビリーの計画を失敗させるためには、地球を破壊するしかない。

 さて、以上の「デイビットのストーリー」にうまくあてはまるような、マリスビリーの計画とは何だろう。


■また置換魔術の話

 デイビットが退場した直後、「オーディール・コール 序」というストーリーが発表されました。
 ここで、「置換魔術」というものについての説明が出てきました。「よく似た二つのものは、距離をまったく無視して入れ替えが可能である」という魔術理論でした。
 以前の記事でも引用しましたが、もっかい引用します。

(ダ・ヴィンチ)
だろうね。
魔術世界には置換魔術というものがある。

たとえば、ここにゴルドルフくんAと
ゴルドルフくんBがいたとして、

彼らがまったく同じ構成・情報量である場合、
どんなに離れた場所でも入れ替える事ができる。

なぜか? それはもちろん、第三者から見て
『なんの違いもない』事だからだ。

置換された者にしか『入れ替わった』事は分からない。
いや、場合によっては本人たちでさえ分からない。

超常的な事が起きたというのに世界に異常はないんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こういう条件の時、魔術はとてもよく働く。
『Fate/Grand Order』オーディール・コール 序



 この理論に基づいて、
「地球の白紙化とは、カルデアスの表面と地球の表面が入れ替えられたために起きたのではないか」
 ということが語られていました。

 カルデアスは地球のものっすごい精巧なミニチュアコピーです。カルデアスは、構成および情報量が地球と同一といえますので、置換が可能そうです。

 おそらくこういうことだと思います。
 まずはカルデアスの表面からすべての事物をとりのぞいてまっさらにする。
 続いて、地球表面とカルデアス表面を置換する。
 すると、地球の表面はまっさらの白紙状態になり、もともと地球にあったものはカルデアスに移る。

 ダ・ヴィンチちゃんがこの推論をOKとしているということは、構成と情報量が同一であれば、質量が異なっていても置換は可能っぽいですね。

 で、マリスビリーのやろうとしていたこととは、地球とカルデアスの置換よりもさらに大規模の置換魔術なんじゃないか、というのが、私の話の前提(仮定)条件です。


■空想樹は銀河である■

 空想樹の幹のひび割れの中には銀河が見えます。

『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』で、初めて空想樹を目にしたテペウ氏は、意味深で興味深い考察をしています。

(カドック)
ああいや、空想樹に本物も偽物もないんだが……

(テペウ)
本物も偽物もない……
大小はともかく、形さえ合っていればいい……

木の中にある銀河など本物である筈がないというのに、
我々はあれを銀河と認識している……

……『大樹の中に銀河がある』まではいい。
しかし、それが異聞帯の定礎になるものでしょうか。

事実、空想樹であるORTが休止していたにも拘らず、
ミクトランは存続していた。

『銀河のエネルギーを利用している』のではない?
それはあくまで二次的なもので――

本筋として『銀河がなくてはいけない』のか?
あの木々は、銀河である事に意味があると……?

『Fate/Grand Order』黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン 21節



 私なりに翻訳するとこうなります。

1)異聞帯には必ず空想樹が存在している。
2)空想樹の中には銀河があり、私たちは空想樹と銀河を同一視している。
3)一見すると、「空想樹は異聞帯を維持するためのエネルギー源であり、そのエネルギーは銀河からくみ出されている」ように見える。
4)でも、実はそうではない。
5)なぜなら、ミクトランの空想樹は長年にわたって機能停止していたのに、ミクトラン異聞帯は平気で存在し続けていたからだ。
6)空想樹が、異聞帯を維持するためのエネルギー源で「ない」としたら、空想樹は何のためにあるのか。
7)空想樹を建造した黒幕マリスビリーは、彼の悪だくみにおいて、「ここに銀河がなければならない」という条件を必要としたのだろう。
8)「ここに銀河がなければ成り立たない」という悪だくみとは何だろう?


 ここまでがテペウの考察で、ここからが私の付け足し。

 地球を白紙化したのはマリスビリーで、空想樹をブッ立てたのもマリスビリーだ(たぶん)。

 マリスビリーは、「まっさらな地表に、銀河と同一視できるものが7本立っている」という状態を必要とした。

 なにもない空間に、ときおり銀河に似たものが少数散らばっている、というモデルにおいて連想されるものはなんだろう。

 それは「宇宙」ではないか。

 宇宙とは、138億光年の範囲(FGOの定義)におよぶ、ほとんど何もない虚空に、ほんの時々、天体の集団(銀河)が浮かんでいるというモデルで説明できるものです。

 ほとんど何もない空間に、ときおり銀河がある。

 それは、
「ほとんど何もない平面(白紙化した地球)に、ときおり銀河と同一視できるもの(空想樹)がある」
 という白紙化地球と、モデルとして酷似するものといえるのではないか。

 そしてもし、白紙化地球と宇宙が極めて類似したものといえるのなら。
 白紙化地球と138億光年の既知宇宙すべては、置換魔術で置換可能なのではあるまいか。


■宇宙的に最低

 小さなカルデアスに、オリジナル地球の表面がまるまる転写可能だったのですから(推定)、小さな地球に、広大な宇宙そのものを転写することも理論上可能だと推定することができます。

 かつて宇宙と呼ばれていた場所は、すべてを地球に奪い取られ、そのかわりに白紙化地球というものを押しつけられることになります。

 この想像の場合、マリスビリーは全宇宙史上最悪の強盗犯であり、この事件は「全宇宙強奪事件」だということができます。

 デイビットはマリスビリーのことを(人類の敵ではなく)「宇宙の敵」であり、この計画が成就してしまえば、地球人類が“この宇宙に生まれた最低の知的生命体”という汚名をひっかぶるだろうと言っています。

 私欲でもって全宇宙を盗み取ろうという行為は、ほとんど議論の余地もなく宇宙的に最低ということができそうです。

 そして、地球をぶっこわせば地球と宇宙の置換は成り立たなくなりますので、マリスビリーの悪だくみは不成立に終わります。「地球人類は宇宙を盗まなかった」ことになるので、地球人の名誉はギリ守られます。「デイビットは地球人類の名誉を守るために地球をぶっこわす」が成立しそうです。

 マリスビリーは魔術協会天体科(天体魔術の専門セクション)のトップでした。マリスビリーの天体魔術は、地動説ではなく天動説に基づいているという情報がありました。

 地球は宇宙の中心などではなく、たんなる周辺にすぎない。太陽系の中心は太陽であるし、その太陽すらも、宇宙の中心などではないというのが我々の地動説の考えです。

 しかしマリスビリーは、地球こそが宇宙の中心であり、それ以外のすべての宇宙は、地球のまわりをめぐる周縁にすぎないという考え方でやってきている。

 言い換えれば彼は、地球が主であり、それ以外の全宇宙は従であるという世界観を持っていそうです。

 もっと言い換えるなら、地球が王であり、宇宙は国土と臣民である。
 王が国土と臣民から搾取するのは当然の権利である。
 彼はそのようなメンタリティを持っている可能性があります。そういうメンタリティを持っていれば、「最初から宇宙は地球人類のものだ、回収して何が悪い」くらいの態度でいるかもしれません。

 さて、ここまでが前置きです。
 以上のことを「前提条件」として仮置きできるとしたら、どんなことが言えそうか。この物語はどんなふうになっていきそうか、というのをこれから書きます。ここからが本論。


■マリスビリーは宇宙を強奪して何がしたいか

 しかしなんでまた、こんな大がかりな仕掛けを駆使して、命を捨ててまで、マリスビリーは宇宙を盗みたいのでしょうか。
 それについてはこんなふうに想像することもできます。

 マリスビリーは魔術師です。
 魔術師は原則的に、例外なく「根源」到達を目標としています。

 根源がどこにあるのかは誰も知りません。
 でも、もし宇宙のどこかに根源があるのなら、宇宙のすべてを自分の手元に置いてしまえば、それは根源に到達したのと同じことになる。

 だけどもし、138億光年範囲の既知宇宙に根源がなかったのならどうするか。
 138億光年先の宇宙外縁のそのまた先にある別の宇宙に対して同じことをすればいい。デイビットは140億光年先の暗黒星から戦力を召喚することができました。宇宙の外に別の宇宙があることは示唆されている。

 そうして、すべての宇宙に対して置換を行い、それでも根源がなかったのなら、すべての宇宙を包含するメタ宇宙に対して同じことをすれば……。

 ようするに、人間が想像可能なすべての宇宙を強奪すれば、それは根源を手に入れたのと同じことになる。

 マリスビリーは根源を手に入れれば人理は永久に安泰だと考えていそうです。根源があれば、少なくともエネルギー問題とマナ枯渇問題は一挙に解決するし、エネルギー源が無限であれば、人類の問題は大半が解決します。

 ところで、根源を手に入れる手段に関して、もうひとつ別解がありますのでそれも披露しておきます。次のが本命


■世界卵と事象収納

 当ブログでいちばん閲覧された記事のひとつに、「魔術理論“世界卵”はどういう理論なのか」というのがあります。

 まずはその記事を読んでいただきたいです。

 この記事の中に、固有結界を大規模展開すれば根源に到達できる、という試論があります。ちょっと長いですがまるごと引用します。(意味がわからなかったら元記事を通読して下さい)

 人間のガワを卵の殻に見立てて、外的世界と心象世界を入れ替えることが可能だということは……。

 一方では「自分の外部に心象世界を展開する」ということになるが、
 他方では、
「私の内部に世界の全てがある、私が世界である」

「宇宙の中に地球があり、地球の中に私がいる」という包含関係のモデルがあるとしよう。

 でも、内と外とは相対的な概念であり、入れ替えが可能であるとするのなら。

 私と地球の包含関係を入れ替えることができる。
 地球の中に私がいるのではなく、私の中に地球があるのである。

 地球と宇宙の包含関係も入れ替える。
 宇宙の中に地球があるのではなく、地球の中に宇宙があるのだ。

「私の中に地球があり、私の中の地球の中に宇宙があるのだ」。

 すなわち私こそが宇宙だ。

「内と外とは相対的な関係にすぎない」というマジカルワードは、「今ここ」と「宇宙の最深部」を、概念の操作ひとつでまったく同一のアドレスに置くことを可能とする。

 宇宙の果てに存在する私という人間と、宇宙の最深部に存在する宇宙の中心は、内と外の関係を入れ替えることによって、重なることになる。入れ替えたら、私のいる今ここが、宇宙の中心となる。

 ここは向こうである。彼岸は此岸である。宇宙の果ては宇宙の中心である。

 そして、もし宇宙の中心に「根源」があるのなら。

 私の中心に根源がある。ここが根源である。

 現状、「固有結界」の魔術は、自分の周囲のかなり限定された領域にしか展開できません。
 でも、もし仮に、「人間の内と外を入れ替える」を文字通り宇宙規模で行うことができたら。

 それは根源をまるごと手に入れたことになる。
「魔術理論“世界卵”はどういう理論なのか」



 ここで書いてあることは、「マリスビリーは宇宙を盗みにかかっている」というアイデアとほとんど同一です。世界卵でも同じことができそう……という話も面白そうなのですが、今回はそれは置いときます。

 ここで注目したいのは、自分の周りにある世界や宇宙が、どんどん、どんどん、自分のところに向けてたぐり寄せられていくという構造です。

 マリスビリーが狙っているのは、この動き、この構造なんじゃないか、という考えも魅力的で、こっちが本命かもしれません。

 どういうことかといいますと……。

 まず、空想樹銀河が散らばった白紙の地球と、銀河が散らばった虚空の宇宙を入れ替えます。
 地球は宇宙と同一視できるものとなります。

 次に、なにもない広大な虚空に、いくつもの宇宙が浮かんでいるという、メタ宇宙というものがあるとします。

 何もない虚空に銀河が散らばっている宇宙と、何もない虚空に宇宙が散らばっているメタ宇宙は置換がききそうなので(たぶん)、これを入れ替えます。

 地球と宇宙は同一視できるものとなったので、地球とメタ宇宙は同一視できるものとなり、地球はメタ宇宙となります。

 何もない虚空にメタ宇宙が散らばっているメタメタ宇宙というものがあるのなら、それと地球(メタメタ宇宙と同一視可能)は置換が可能なので、地球はメタメタ宇宙になります。

 メタメタメタ宇宙が存在するのなら、地球はこれも回収してメタメタメタ宇宙となります。

 さて、地球はメタメタメタ宇宙となりました。カルデアスと地球は同一視できるものなので置換が可能です。カルデアスはメタメタメタ宇宙となります。
(この場合、地球の地表はカルデアスから再転写され、元に戻ります)

 つまりはカルデアスの所有者が、宇宙と、宇宙を含む大きな宇宙と、大きな宇宙をさらに含む極大宇宙を所有することになるのですが、所有権については実はどうでもよくて。

 地球と、地球を含む宇宙と、宇宙を含む大宇宙と、大宇宙を含む極大宇宙が、ひとつの小さな点に向けて、しゅううっと収納されていくかたちになります。このかたちに注目したいのです。

 根源とは何でしたっけ。万物万象が流れ出す大もとだ、ということでした。宇宙のすべて、宇宙を含んださらなる宇宙を含んだ、すべてのものは、根源というひとつの点から発散したものであり、いまも発散しつづけている。
(わたしはビッグバンのイメージでみているのですがみなさんはどうでしょう?)

 その根源から出てきたものをすべて、ひとつもあますところなく巻き取り、たぐり寄せ、カルデアスという一つの点の中に収納する。するとどうなるか。

 カルデアスはもはや根源そのものだ。

 根源から発したものすべてがここに収まっているのだから、これは根源である。

 マリスビリーの目的は、どこかにある根源に到達することではない。
 そうではなくて、目的は自らここに根源を作りだすことである……。

 こっちのアイデアのほうが、構えが大きく誇大的なので、こっちのほうがいいかなって思っています。

 この世に存在するすべての空間・非空間のあらゆる事象が、カルデアスの中にするするしまわれていっちゃうっていうこのイメージに、もし名前を付けるとしたら、

「事象収納」

 という言葉が、ぴったりあてはまるのではないでしょうか。

 月姫リメイクで、アルクェイド女史が光体になったとき、建築やら人間やらを含めた地表上のすべてのものが、一点に向けてするするとしまわれていっちゃうという現象が発生していました。これは「事象収納」と呼ばれていました。あれはなんというか、地球から発生したすべてのものが、地球に返済されていくみたいなイメージにみえました。

 これと同様に、根源から発したすべてのものが、根源に返済されていくという大掛かりな「事象収納」も、考えることができるのではないか、ということだと思って下さい。

 そういう「根源の事象収納」を、人為的にしかも自分の手の内で行うことができるなら、それはもはや自分が根源になったのと同じだ、というのが本稿のアイデアです。


■そうだとしたらノウム・カルデアのドラマは

 もう一回引用しますが、

(デイビット)
七つの異聞帯が切除された時、
ヤツの人理保障は完成する。
『Fate/Grand Order』黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン 19節



 異聞帯が切除されると、悪だくみが成功する。

 マリスビリーは、カルデアの生き残りが白紙化を解消しようとして、異聞帯のすべてを攻略するだろうということを、計画のうちに含めていたとみることができます。
 というか、カルデアの生き残りノウム・カルデアが、七つの異聞帯を切除してくれないと、悪だくみが成功しないのでマリスビリー困っちゃう、くらいのことを言っているように見えます。

 第二部の事件をマリスビリーの儀式魔術だと考えるなら、カルデアとぐだが必死で戦って異聞帯を消しまくることも、儀式の一部だぜってことになります。

 マリスビリーはなんで異聞帯攻略を必要とするのだろう? この話の流れでは、マリスビリーは、「ノウム・カルデアによって切除されるために」異聞帯を復活させたことになります。なぜそんなことを?

 それについての私のアイデアはこうです。

「地球と宇宙を置換してもよい」という全人類の同意を必要としたから。
(みたいな方向性のこと)

 異聞帯とは、これ以上この世界が続いても発展がない、と見なされて打ち切りエンドとなった並行世界です。
 マリスビリー(推定)は、異聞帯を七つ選んで、敗者復活権を与え、これらを地球上に配置しました。

 これらの異聞帯が育てば、地球を乗っ取って正史となります(でしたよね?)。
 ノウム・カルデアは、自分が属していた世界(歴史)を取り戻したいので、異聞帯の成長を阻止しなければなりません。

 しかし異聞帯には異聞帯の文明と、そこに住む人々がいるのであって、ノウム・カルデアが異聞帯を切除するということは、これは彼らを世界ごと消滅させるという意味です。

 異聞帯探検のあいだに、友となった人々はたくさんいるのに、カルデアは最終的に、「彼らを消去し、自分たちのみ存続する」という選択をしなければなりません。そういう体験をおおむね7回くりかえしました。

 ノウム・カルデアは、
「おまえの世界とオレの世界、どっちが生き延びるのかと問うなら、それはオレの世界だ」
 という選択を、つごう七回してきたことになる。

 ノウム・カルデアは現在生き残った全人類です。
 そういう選択を全人類に何回でもさせること、が、マリスビリーのもくろみなんじゃないかという気がするのです。


■投げかけられる問い

 オレの世界と、おまえの世界がある。オレは生き延び、おまえは消えろ。

 という選択を、全人類の意思として、七回繰り返してきた。
 その選択は、全人類の意志として、何かに(アラヤとか何らかのそういうものに)刻み込まれたと考えることにします。

 そしてここに、
「私の地球と、君たちの宇宙がある。私の地球が生き延び、君たちの宇宙は消えよ」
 という選択を実行するマリスビリーがいる、と考える。

 この場合、アラヤの抑止力(など)は、マリスビリーを攻撃しない可能性がある。

 マリスビリーのもくろみとしては、そんなところで(適当で)いいかなって感じなのですが、それよりも重大なことがある。

「自分の世界が優先で、他人の世界は消えてやむなし、という選択を繰り返してきたノウム・カルデアの君たちは、私の計画を否定できる立場なのかね?」

 という問いに、主人公たちは答えなければならない。

 他者を踏みつけにして、自分が生存することが許されるのなら、宇宙を踏みつけにして、地球だけが生存する選択も許されるはずである。
 それはまさに君たちがしてきた選択じゃないか。

 このドラマを主人公とユーザーにつきつけることが、FGO第二部のメインギミックだったらすごいんだけどな、と思うのです。

 もし、FGO第二部のクライマックスで、こういう問いを投げかけられたら、どう答えます?


■汎人類史というあつかましい言葉

 第二部から登場した「汎人類史」という言葉に、わたしはずっと違和感をおぼえつづけてきました。あつかましいからです。

 自分たちの歴史(汎人類史)が人類史のであり、異聞帯の歴史は枝葉である。枝葉は茂り過ぎると幹が弱るので、適度に剪定する。すると汎人類史の幹にエネルギーがまわってきて、我々は安泰である。

 という、「我々は幹であり、あなた方は枝である」という認知それ自体が、すげー居心地悪いです。
 物語上では、「あなたたちの異聞帯もすばらしく価値があるものなのに、私は私の世界を選ばなくてはならなくて」というエモーションになってはいます。なってはいますが、「私の世界」が「汎人類史」と呼ばれているせいで、どうしても「汎人類史が存続し、異聞帯は切除されよ」という価値観が重なってきちゃう。

 ですが私はなにも、「奈須きのこさんの言語感覚ってあつかましいよね」的なことを言うつもりはなくて、これは意図されたあつかましさなんじゃないかと思っているのです。

「あなたたちが受け入れて使ってきた汎人類史って言葉、その自己認知、それってすごくあつかましくないか?」

 ということを最終的につきつけてくるために使われてきた語であるような気がしています。


■われらガリレオ・ガリレイ

 というのも、
「汎人類史が存続し、異聞帯は切除されよという価値観」
 は、ものすごくマリスビリー的というか、天動説的だと、私には見えるのです。

 天動説のマリスビリーは、地球が中心であり、それ以外は周辺であると思っているでしょう(推定)。
 それって、
「汎人類史が中心であり、異聞帯は周辺である」
 という、第二部で語られてきた世界観と酷似しています。

 汎人類史という概念は、それ自体が自己中心的であり、天動説的だ。

 この物語は、そこに対して異を唱えるべきではないのか、というのが私の思想です。

 地球が中心であり、それ以外は周辺だから、宇宙が丸ごと消え去っても地球さえ存続すればよいという価値観は、汎人類史が中心であり、それ以外は周辺だから、汎人類史が残ればいいという価値観と同質である。

 だとしたら、
 わたしたちが「地球が富むなら宇宙はどうなってもよい」という価値観をもし否定したいのなら、「私たちの歴史が汎人類史である」という私たち自身の認知を咎めなければならない。

 そこで。

 私たちが汎人類史である、という自己中心的で天動説的な認知がガンなら、それを撃退する言葉はこうである。

「人類は地動説を採用します」

 根源から発した宇宙のすべてを地球上のカルデアスに収納するという本稿のマリスビリーのアイデアは、地球が全宇宙の中心になるということであり、いってみれば、「地動説を否定し、天動説が正しい世界を再生成する」というのに等しい。
 マリスビリーのやろうとしていること(推定)は、言い換えれば、「全人類で天動説を採用しましょう」というご提案だ。

 それを咎めたいのなら、我々の選択は「天動説を否定し、地動説を取る」ことである。
(ここで切り札、英霊ガリレオ・ガリレイか英霊コペルニクスを召喚みたいな展開があったら高揚するよねぇ)

 地動説を採用するというのは、どういうことなのか。
「われわれは中心であり、幹であり、優先的に扱われるべきものだ」という認知を捨てることである。
 われわれは汎人類史である、という認知を拒否することである。

 われわれは宇宙の中心などではない。
 われわれは宇宙の周縁にある小さな岩にすぎない。

 われわれの歴史は、人類史の幹などではない。
 異聞帯とのあいだに、主従関係などない。
 パツシィのロシア異聞帯が勝利してもかまわなかった。
 北欧異聞帯が勝利してもかまわなかった。
 ブリテンとミクトランが勝利したらちょっとまずいけど、それ以外が勝っていたら、マリスビリーの計画はそこで止まってたかもしれなかった。
 すべての歴史は、上下関係なく等価である。

 人類が地動説を採用するということは、つまりはこういう認知を得ることだ。
 私たちの歴史は、ひとつの異聞帯である。


■私たちは何をするのか

 歴史とは時間の厚みのことです(たぶん)。宇宙にも時間が流れているのだから、宇宙史というものもある。
 宇宙の歴史をもし汎宇宙史と呼べるのなら、地球の歴史は異聞帯くらいのものだ。

 さて、その異聞帯(地球)が、全宇宙に対し、
「おまえらを乗っ取り、オレが全宇宙になる」
 といいだした状況があるとする(本稿の仮定)。

 汎人類史に対して異聞帯が反旗をひるがえし、「わが歴史を正史にする」と言い出したのと、構造的に同一だ。

 なので、「宇宙と地球の対立」においても、汎人類史と異聞帯で起こったのと同じ争いがおこると考える。

 異聞帯が汎人類史を乗っ取って正史になろうといいだしたとき、我々はそれを阻止して異聞帯を切除しなければならなかった。
 それと同様に、
 地球が宇宙を乗っ取ろうとするのなら、宇宙はそれを阻止して地球を切除しなければならないはずだ。

 この話の流れでは、宇宙側から、当然そういうアクションが発生しそうだ。

 ここにきて、宇宙と地球は、汎人類史と異聞帯のような対立関係になる。われわれは今度は切除される側だ。もしそんな状況が発生したとしたら、「わたしたちはどうする?」

 より大きく、正当な立場として、異聞帯を退けてきたわたしたち。
 では、わたしたち自身よりも大きく正当な立場が、わたしたちを退けようとするのなら、おとなしく退くのが話の筋、となるだろうか。
 そうはならない。

 なぜなら、これまで出会ってきた、七つの異聞帯の人々が、自分の世界の値打ちを信じていたからだ。
 自分の世界は消え去るさだめであると聞かされて、それに抵抗した、戦った人たちがいた。
 世界の存続のために、あるいは自分自身のために、戦った人たちがいた。

 その姿を私たちは見てきた。
 それがわたしたちの行動の祖型となる。異聞帯の人々がそうしてきたように、異聞帯である我々は戦うのである。

 そのようにして、「異聞帯攻略のたびに我々の心に刻み込まれた傷」の価値がポジティブに反転する。その痛みが「自分の世界と歴史を守る戦い」の原動力となる。「異聞帯のすべてを見てきたから、異聞帯である自分がどうすべきか知っている」

 本稿の仮定に基づけば、そのような種類のドラマが発生しそうだ。

 マリスビリーに対しては、「無限に並列する並行世界のひとつにすぎない」自分の世界を取り戻す戦い。
 宇宙に対しては、「宇宙の辺境の極小にすぎない」自分の世界を守る戦い。

 そこでもし仮にマリスビリーが、

「宇宙をまるごと奪う宇宙的事象収納に賛同・協力してくれるなら、地球の表面を返してあげよう」

 という取引をもちかけてきたらどうなる?

 私たちはきっと、これに同意できない。
 なぜならこれ以上、別の世界を踏みつけにして、自分が生き残るという体験がまっぴらだからだ。

 マリスビリーは、自分の計画に必要だからという理由で、意図的に、「異聞帯を七つ切除させる」行為をノウム・カルデアに強いたのだが(推定)、ノウム・カルデアにとっては、「七つの異聞帯を切除した」という体験こそが、マリスビリーを許さない動機となっていく。


 ……というような具合に、私ならFGOの続きをこう書くけど、奈須きのこさんはどう書くでしょうね、楽しみですねというお話。おあとがよろしいようで。



●追記

 些細なことですがひとつ書き忘れてました。デイビットは、一日のうち、自分が選んだ5分だけしか記憶を翌日に持ち越せないという特殊な体質でした。

 これはまあ、記憶の大部分を宇宙のかなたに送信しているとか、そんな具合のことかなと思いますが、それはさておき、彼のメモリーは「24時間のうち記憶のほとんどが虚無であり、その中に、ところどころ断片的な記憶が散らばっている」という状態にあるといえます。

 大部分の虚無のなかに、ところどころ、意味あるものが散らばっている。

 というのは、「虚空にところどころ銀河がある」という宇宙のモデルと近似しています。

 もし宇宙そのものに意思があるのなら、宇宙のモデルに近似した脳をもっているデイビットには乗り移りやすいだろうなと思いました。以上です。


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※ご注意●本稿は現実に存在する筆者(Townmemory)の思想・信条・思考・研究結果を表現した著作物です。内容の転載・転用・改変等を禁じます。紹介ないし引用を行う際は必ず出典としてブログ名・記事名・筆者名・URLを明示しなければなりません。ネットで流布している噂ないし都市伝説の類としての紹介を固くお断りします。これに反する利用に対して法的手段をとる場合があります。

#TYPE-MOON #型月 #月姫 #月姫リメイク #FGO

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