さいごのかぎ / Quest for grandmaster key

「TYPE-MOON」「うみねこのなく頃に」その他フィクションの読解です。
まずは記事冒頭の目次などからどうぞ。

[FGO]物語の力(1)サーヴァントユニヴァースって何やねん

2024年11月02日 12時07分39秒 | TYPE-MOON
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[FGO]物語の力(1)サーヴァントユニヴァースって何やねん
 筆者-Townmemory 初稿-2024年10月2日



 本稿ではFGOにおける「サーヴァントユニヴァース」について取り上げます。

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■便利な箱としてのユニヴァース

 FGOには「サーヴァントユニヴァース出身」とされるサーヴァントが何人か存在していて、総じてトンチキな設定とトンチキな性格を与えられています。

「サーヴァントユニヴァースとは何なのか」について、FGOはほとんど何も説明していません。
 が、断片的な情報をよせあつめてみると、どうやら、『スター・ウォーズ』やらマーベル・コミックやらハリウッドSF映画のパロディのような世界があって、そこに、既存のサーヴァントたちをトンチキチューニングして配置してみました、というようなもののようです。

 何と言うか、まあつまり、FGO本来の世界観になじまないくらいトンチキなキャラを配置したいときとか、TYPE-MOONの他作品からキャラを持ってきたいけど設定の都合で持ってこられないときに、
「これはサーヴァントユニヴァース出身のよく似た別人です」
 というエクスキューズを使って強引に押し通してしまう。そういう便利なギミックとして利用されているようです。

 サーヴァントユニヴァースとは何か。それは目先の変わったキャラをFGOに配置するための便利な箱である。この説明で何の問題もないですし、ひょっとしたら、それ以上のことを追及しようというのはヤボなことかもしれません。

 が、しいてそこをつきつめてみようというのが本稿の目的です。以下、「サーヴァントユニヴァースって何やねん」に関するひとつの試案。


■ヘクトールとドゥリンダナ

 と、その話をする前に、セッティングとして、ヘクトールとドゥリンダナの話から始めたい。

 ヘクトールはギリシャ神話に出てくるトロイアの名将。トロイア戦争でアキレウスと死闘をくりひろげた。FGOのヘクトールは槍使いで、槍の宝具ドゥリンダナを持っている。

 しかし。
 ヘクトールという人物が史実上に仮に存在したとして。そのヘクトールがドゥリンダナという名槍を持っていた「わけがない」

 古代ギリシャ研究家の藤村シシン先生がYoutubeで語っておられて、「へえええー!」と思ったのですが、ギリシャ神話および古代ギリシャの伝承に、名剣・名槍のたぐいは存在しないそうです。
 古代ギリシャは、剣や槍に、強い意味を持たせるということをしない文化だったそうです。とくに槍なんてのは、たくさん用意しといてぶんぶん投げまくるような使い方をしていた。

 シシン先生のおっしゃるには、古代ギリシャにおいて重視されたのは剣や槍ではなく、だった。古代ギリシャの軍隊はファランクス(密集陣形)を組むので、左手で持つ盾は、自分だけでなく左側に立つ味方の兵士を守るためのものでもあった。だから盾を失うというのは味方を危険にさらすということであり、重大なミステイクだとされた。槍を失うことはあっても盾を失うなという価値観だった。「戦場で倒れたら盾に載せられた死体として帰ってくる」という言い回しもあった。

 だから、伝説的な盾というのは、ひょっとしてありえたかもしれないが、伝説の剣や伝説の槍というものは、古代ギリシャにおいては考えづらいということでした。

 加えてシシン先生はこういう意味のことをおっしゃっていた。「FGOのヘクトルがドゥリンダナという槍を持っているというのは、後世のフランスで創作されたシャルルマーニュ伝説とか、そういうところから持ってきた設定ではないか」。

 そうとしか考えられないので、そうだと思います。後世のフランス、騎士物語がつくられ、語られた時代には、ロマンを喚起するアイテムとして名剣が必要とされた。
『ローランの歌』のローランは名剣ドゥリンダナ(デュランダル)を持っている、という設定が生まれた。
 その名剣にハクをつけるために、「この剣はかつて、トロイアのヘクトールが持っていたものだ」という説明が開発された。

 その「後世の設定」がヘクトールにフィードバックされて、「FGOのヘクトールは宝具の槍ドゥリンダナを持っている」という表現になった。

 FGOには、「サーヴァントは生前の英雄本人がそのまま召喚されるわけではなく、後世になって創作された伝説などが継ぎ足された状態で出てくる」という興味深い設定があります。

 生前のヘクトールは、ドゥリンダナなんてものは絶対に持っていなかったけれど、FGOで召喚されるヘクトールは後世の伝説が継ぎ足されているので、のちにローランが持つことになるドゥリンダナを持った状態で出てくる。

 これを恣意的に言い換えるとこうなる。

「FGOにおいて召喚されるヘクトールは、ヘクトール本人ではなく、『ローランの歌』以降に人々がイメージした《物語上のヘクトール》である」

 FGOにおいては、史実上絶対に実在したはずがないシャーロック・ホームズやモリアーティ教授(物語の中にしかいない人物たち)を召喚可能ですから、これは、がぜん飲み込みやすい話ではないでしょうか。
 つまり、シャーロックやモリアーティが特殊なサーヴァントなのではなくて、サーヴァントというのは本来的に物語の中から出てきているものなんじゃないかと言いたいのです。

 少なくとも、「後世つけられた伝説が継ぎ足されて出てくる」という説明がある以上、「ほんとうに、本人に後世の物語が足されて出てきている」のか「後世の物語の中からキャラが出てきている」のかは、出てきたサーヴァントをどんなにくまなく調べたところで判別不能の状態にあります。カルデアの人々は、前者の理屈でサーヴァントが成り立っていると考えているけれど、じつのところ後者だったというのは考えられる話だと思うのです。

 これをもう一段階、恣意的に言い換えるとこうなるのです。

「FGOにおいて召喚されるヘクトールは、史実上のヘクトールというより、後世の人々が書いた同人誌に出てくるヘクトールである」


■未来のシェアード・ワールド

「FGOに出てくる英霊は、史実上の本人というよりむしろ、後世の人々が書いた同人誌のキャラに近いものである」

 というテーゼを、仮にOKということにして下さい。

 FGOで召喚される英霊・サーヴァントは、史実上の本人をモデルにして書かれた物語の中から出てきているものである。

 さて。

 ジャストナウ、現在、ぐだちゃんと善きカルデアの人々と愉快なサーヴァントの皆さんの必死の戦いが繰り広げられています。

 地球上の人類史がまるごと燃えてなくなるという汎世界的な怪事件を解決し、地球白紙化というさらなる危機をいままさに乗り越えつつあるところ。たぶんもう一個くらい世界の危機があって、それもきっと克服する予定。

 このままだと世界がまるごとなくなる、という危機を、2個ないし3個、たてつづけに解決したとなったら、これはもう人類史第一等の英雄だ。

 そんな人類史第一等の英雄の活躍が、何らかの記録に残らないとは考えられない。

 いや、さすがに、ぐだの活躍が全世界の全人類の知るところとなって祝勝パレードが開かれるとか、そういうことは起こらないかもしれない。でも、魔術協会とかアトラス院とか彷徨海とかが確実に何らかの記録に残す。

 あるいは日常に戻ったぐだが、手記を書くかもしれない。

 ぐだが手記を書かなくても、子供か孫に、「そういえばゆうべこんな夢を見てね」なんてことを語るかもしれない。聞いた子供や孫は、それを覚えていて、日記に書きつけるかもしれない。

 そういったことが一切起こらなかったとしても、世界がそれを覚えている。地球がそれを覚えている。宇宙がそれを覚えている。

 そういった記録が、いつしか時の流れのなかですっかり見失われたあとで、1000年か1万年か100万年かあとになって、ぽろっと「発見」される。
 するとどうなるか。

 これはすごい「物語」だ!
 こんなことが実際にあったのか、それとも誰かの突飛な夢想なのかは、もはやさだかではないが、とにかく構えが大きくてすさまじい物語だ。はるかな過去に、こんなすごいお話が書かれていたなんて!

 命を削って戦い続ける一般の若者ぐだちゃんの姿も心を打つが、周りで協力するサーヴァントのみなさんのトンチキ加減も最高だ。
 チェイテピラミッド姫路城? 何をキメたらそんなことを思いつくんだ!?

 そんなわけで、再発見されたFGOの物語が、はるか未来で大センセーションを巻き起こす……といったことを想像してみて下さい。

 紀元前19世紀に成立したギルガメシュ叙事詩が、いったん忘れさられたあと19世紀に解読されて、世界中に衝撃を与えた……というのと同じことがFGOの物語に関して起こる。

 世界中に衝撃を与えたギルガメシュ叙事詩の内容は、さっそく、近現代の物語に取り入れられていったわけですね。
 我々になじみ深いところでは、ギルガメシュ叙事詩の内容にインスパイアされて『ドルアーガの塔』が作られたり、アトラスの『女神転生』シリーズに組み込まれたり、『Fate/stay night』の魅力的な敵役となったり。ようするに自由奔放に改変されて二次創作のおかずになっていった。

 はるか未来で再発見された『FGOの物語』についても、同じことが起こる、と考える。

『FGOの物語』の魅力はなんといっても、美しくかわいらしく勇敢で、なおかつおもしろおかしいサーヴァントたちが大量に登場するところだ。こいつがもう、未来の人々の想像力をギンギンに刺激する。

 このサーヴァントとあのサーヴァントを組み合わせたらこんな面白いお話が作れるぞ、といった、同人誌的な二次創作が作られていく。

 そのうち、もとの世界観がしりぞいていって、キャラクターだけが残っていく。『ドルアーガの塔』の主人公はギルガメス(ギルガメシュ)だけど、世界設定にバビロニア要素はほとんど残っていません、みたいな作品が生まれていき、そっちのほうが主流になる。

 舞台設定は今の時代(未来)だけれど、サーヴァントたちは普通に登場します、みたいな『Fate/hollow ataraxia』的な作品も出てくる。未来世界がどんな様相になっているか知らないけれど、とにかくその時代における日常生活にサーヴァントがしれっと存在していてカフェでナンパしてるような作品が書かれたりする。

 サーヴァントというキャラクター群が、すっかり人類の共有財産になってしまうと、「自分の書いてる小説の世界に、サーヴァントを自由に出していい」という状態になっていく。

 各サーヴァントのイメージも、どんどん増殖・変形していって、原型をとどめないくらいになる。ようするにサーヴァント・オデュッセウスはトンチキ宇宙軍のトンチキ司令官に。サーヴァント・アルトリア・ペンドラゴンはトンチキ悪役商会のトンチキ鉄砲玉になっていく。

 そういう小説や映画を、いろんな人が(大量の人が)てんでばらばらに書いていって増殖しまくった結果、「それらの世界をぜんぶガッチャンコして、ぜんぶ同じ世界で起こってることにしたらいいじゃん」みたいなことになる。

 ようするに「サーヴァントもの」という作品群がひとつにまとまってシェアード・ワールド化する。
 いろんな作家がてんで勝手にクトゥルフ神話ものの小説を書いていて、それらの物語はなんとなく同じ世界で起こってるような気がしていて、多少つじつま合わなくてもまあ別にいいじゃんっていうような受容のしかたが発生する。

 そういう未来図が仮にあって、「サーヴァントたちのごった煮世界」みたいな作品群が発生していたとしたら、そのシェアード・ワールドはこんなふうに呼ばれそうです。「サーヴァントユニヴァース」


■物語から召喚されるもの

 上記のような、「サーヴァントユニヴァース成立仮説」をよしとするなら、サーヴァントユニヴァースは、これもまた、人類が持つに至った有力な「物語」です。

 物語……。

 本稿を始めるにあたって仮置きした大前提のテーゼによれば、
「FGOで召喚される英霊・サーヴァントは、史実上の本人をモデルにして書かれた物語の中から出てきているものである」

 サーヴァントは実はほとんど全て物語の中から出てきているものなので、物語の中にしかいないシャーロックやモリアーティも問題なく召喚できる。

 となれば。
 当然、はるか未来において成立予定のサーヴァントユニヴァースという物語の中から、ユニヴァース産のトンチキサーヴァントを召喚可能な道理なのです。

 こういうたとえ話がわかりやすいかもしれない。

 汎人類史の英雄を召喚しようとしたら、サーヴァントユニヴァースのサーヴァントが転がり出て来ちゃった。
 これっていったいどういうことなのか。

 それは例えるなら、
「ギリシャ神話の英雄を召喚しようとしたら、『聖闘士星矢』のペガサス星矢が召喚された」
 ようなもの。

『聖闘士星矢』という作品は、ギリシャ神話が人類共有の財産になって、どんなにいじくってもいいシロモノになり、魔改造につぐ魔改造をほどこされた結果出てきた極北のような物語ですものね。

 また、こうでもいいです。
「西遊記の孫悟空を召喚しようとしたら、『ドラゴンボール』の孫悟空が来た」
(これはガチャ大当たりだな)

 これは仮定の話なんですが、冬木の第一次聖杯戦争や第二次聖杯戦争は、『聖闘士星矢』『ドラゴンボール』が描かれるより前の時代に起こっていますよね。

 たとえば、第二次聖杯戦争で、アインツベルンが、英雄ペルセウスを召喚しようと思い立ち、触媒としてペガサスの羽根を用意したとする。

 ところが召喚陣から現れたのは、コスモを高める謎の踊りをゆらゆら踊る(アニメ版)ペガサス星矢だった。誰だお前

 そうこの場合、なんと、まだ『聖闘士星矢』なる作品はこの世に存在していないので、ほんとうにこの世の誰一人、この赤タイツ鎧少年が何者なのか知らないのです。

 カルデアの召喚システムから、ユニヴァース出身だとか名乗る、なんだかよくわからない誰も知らない謎のサーヴァントが召喚されるという現象は、つまるところそういう話なんじゃないか。

 現在においてまだ成立していない、未来世界の物語からサーヴァントを召喚可能なのか? という疑問もあるかと思いますが、輝星のハサンは「未来においてぐだと出会うことになる」という縁をたぐって、「これから起こる予定のイドの物語の記憶を持った状態で」召喚されていました。つまりイドの記憶を持つ輝星のハサンは「未来の物語において成立する予定のサーヴァント」なんです。そういうことを考えると、可能なのだと思います。

 あ、というか、「未来において成立する予定の英霊エミヤ」がまさに未来の物語から召喚されたサーヴァントでしたね。そういうことでOKだと思います。


■ここまでのまとめ

 はるか未来の時代、いったん人類社会から忘れ去られた「ぐだ戦記(FGOの物語)」が再発見され、古代神話として受容される。

 現実(現代)の我々が、「ギリシャ神話」を共有財産として持ち、それを想像力の中で好き勝手いじくって遊んでいるように、未来世界でも未来人が「ぐだ戦記(FGO)」の登場人物たちで好き勝手遊ぶようになる。

 各人がてんでばらばら書いたり作ったりした「サーヴァント物語」という作品群は、いつしかひとつの統一世界観のなかで行われる「シェアード・ワールドもの」としてゆるやかに統合されていく(サーヴァントユニヴァースの成立)。

 ギリシャ神話やギルメシュ叙事詩や古事記や旧約聖書などと同様に「人類が獲得した重要な神話物語」と化したサーヴァントユニヴァース創作群は、そこからサーヴァントを召喚できるほどになる。


■なぜ蒼輝銀河なのか

 サーヴァントユニヴァースは、「蒼輝銀河」という別名で呼ばれることがあります。

 一応、エーテルが満ちていてエーテルは青いから、みたいなことが言われているようですが(エーテルって青いの?)、まあ理由ははっきりとしません。

 はっきりしませんが、私は個人的にこう考えたいよね、という話をします。

 本稿の説では、蒼輝銀河と書いてサーヴァントユニヴァースは、未来において人類が書き上げる物語です。つまり未来の産物です。

 時間は未来に向かって流れており、私たちは絶えず未来に向けて進んでいます。逆にいえば、未来は絶えず我々のほうへ近づいてきています。

 光のドップラー効果というのがあります。自分から見て、遠ざかる光は赤く見え、近づいてくる光は青く見えます。
 つまり、現在進行形で我々のもとにぐんぐん近づいてくる未来の事物は、我々から見たら(もし目に見えるのなら)青く輝いているはずです。

 未来において成立する物語、未来の事物であるサーヴァントユニヴァースは、もし目に見えるものなら我々には蒼く光って見えるはずだ。だからこれは蒼輝銀河と呼ばれるのである……という説明があったとしたら私はきっとすごく腑に落ちるだろうなと思います。

 ヒロインXXオルタ(ユニヴァース産)と蒼崎青子が同時にカルデアに召喚されている場合、蒼崎青子は以下のようなメッセージを述べるようです。
(うちには蒼崎青子はいないので、神ゲー攻略さんから孫引きします)


「蒼輝銀河……どこまで行けばそんな未来に出逢えるんだろう。と言うか、先に宇宙アイドルやられてたわ。でもいいわよね、青い宇宙!よーし、俄然闘志湧いてきた!」

『Fate/Grand Order』



 私にはこのセリフは、「そこに向かって近づいていく以上、それは青く見えるだろう」という含みをもっているように読めます。


■物語の力(予告編)

「サーヴァントは物語の中からやって来ている」という命題は、実は、このFGOという作品全体を強力に支配している急所のようなポイントなんじゃないかと考えています。

 いまかいつまんで言うならば、FGOとは、
「物語の力に関する物語」
 なんじゃないか、というのが、私の読み方です。

 サーヴァントユニヴァースは未来の人類が編んだ物語である、というのも、実は「物語の力」なるもの、を示すためのギミックのひとつとしてとらえることが可能なんじゃないかと思っています。

 それについて、次回の投稿にて論じます。
 ということですので、この話は続きます


(続く)


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#TYPE-MOON #型月 #FGO
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