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月姫リメイク(3)ロアの転生回数とヴローヴに与えた術式
筆者-Townmemory 初稿-2023年6月10日
今回と次回で、ロアについて集中的に取り上げます。
一連の投稿は続き物です。
第1回から順序よく読むことを推奨します。
月姫リメイク(1)原理血戒と大規定・上
月姫リメイク(2)原理血戒と大規定・下
クリックすると筆者が喜びます
●転生八百年/十五世紀問題
ロアについては「八百年/15世紀問題」というのがあります。
ロアの回想に、普通に読めば初代ロアだと思われる人物が登場します。
豪族出身で、神学者になり、埋葬教室を設立し、アルクェイドに血を吸わせた人です。
この人は「15世紀末に」生まれたといっています。
ところがロア本人やマーリオゥは「八百年転生した」と言っているのです。
なお、志貴は1000年とも言ってますね。
でもややこしいので、とりあえず15世紀末と八百年の齟齬として考えます。
15世紀末なら西暦1500年ごろなので、ロアの人生は500年なの800年なのか。
私は原則として、理屈と膏薬はどこにでもつくと思っていて、齟齬を齟齬でなくする解釈法はいくらでもあると思っています。そして、説明できていればどんな解釈でもいいと思います。
あとは奈須きのこさんの設定との一致があるかないかという些末な問題にすぎない。
たとえば(これはあくまで一例ですが)15世紀末ルネサンス時代に生まれた初代ロアは、最初の転生先に「八百年前の」他人を選んだ、とかね。
ロアは初期には「わたしが世界の秘密と究極の答えを解明したい」と言っていた。でもルネサンス期にはだいたいぜんぶ仮説がたっちゃってる(と書いてある)。あとは実証するだけだ。
なので、自分が解明に参加できる過去の時代に転生した、などの受け取り方。
(可能かどうかについては、奈須きのこさんが「可能である」と決めれば可能)
一例の続きだけど、時間をさかのぼっての転生というのが可能なら、「ロアは同時に二人以上の人物に転生することが可能だ」とか言い出しちゃってもおもしろい。ロアは15世紀に生まれたが、同時に二人以上の人生を経験しているので、重複分も合算すると800年くらいになるなどの消化方法。コピーロボットみたいに「自分のコピー」を作って二人分活動しているとかでもいい。
で、私好みの膏薬はこうです。
初代ロアは八百年前に誕生した魔術師である。
自分の魂を他人に転生させる魔術を開発し、ここから転生を始めた。
何回も転生をしたのち、15世紀末に豪族出身の神学者に転生した。
この15世紀末神学者ロアの時代に、アルクェイドに自分を噛ませて死徒になり、以降アルクェイドに付け狙われるようになった。
ああ、バリエーションとして、こうでもいいですね。
初代ロアは八百年前に誕生した、「記憶を持ったまま転生してしまう」という特異体質を抱えた人物である。
15世紀末までの200年間に何回か転生して、その間に魔術を学んだ。
15世紀末に豪族出身の神学者に転生。
この代のロアが「転生先や転生タイミングを自前でコントロールできるようになろう」と画策した。
その手段としてアルクェイドに自分を噛ませて死徒になった。
月姫には、「いったん死徒にならないと転生術が使えない」という理屈が希薄なので、こういうことも言える状態にあると思うのです。
ようするに死徒にならなくとも特異体質や魔術があれば転生はできるという考え方。
この説にのっかっていくなら、上記の引用部。
全てを知ろうとした少年ミハイルが「800年前生まれの初代ロア」。
神の愛と永遠を定義しようとした男ロアが、「十五世紀末神学者ロア」。
となりそうだ。
十五世紀の神学者ロアが初登場する回想で、子供のころに月を見上げて、「すべてを知りたい」と願うシーンがある。
この「子供の頃の話」は、「800年前のミハイルの記憶」だったりしてもいいのではと思っています。
800年前、ミハイル少年は、「宇宙のすべてを論理的に明かしたい」という願いを持った。
当時全てを知るためには魔術師の弟子になるのが早い。
そして偶然か意図的かはわからないが、かれは転生能力を持った。
何度か転生し、200年かけて大魔術師になった。
15世紀末に生まれ直した彼は、豪族出身の神学者になり、魔術師としての知見を駆使して、埋葬教室(埋葬機関の前身)を設立した。その当時かれが考案した(と推定の)死徒の階梯分類は今でも使われている。
この神学者時代にも、「宇宙のすべてを論理的に明かしたい」という願いを彼は持っていた。ところが。
※傍線部は原文では傍点
ロアは宇宙の全てを知りたいと思っていたし、そのために転生もしていたのだけど、「本当に全てを知ることができるとは思っていなかった」(あきらめていた)。この時までは。
しかし宗教者になって、神の家の禁書を読んだら、重要なことがわりといろいろ解明されている。
「この調子だと、時間さえあれば、人類はぜんぶの秘密を解明できちゃうぞ」
「人類がぜんぶの秘密を解明する瞬間がみたい!」
だったら死徒になっちまえばいい……。
ただ、この想定の場合、ひとつ問題がでてくる。
死徒にならなくとも転生ができるのなら、ロアはなぜ死徒になろうとしたのか。ならなくてもよいのでは。
その問題を解消してくれそうなのがこれ。
マーリオゥの見立てでは、「ロアは転生したくない」のです。
転生すると、転生先のパーソナリティに影響されてしまって、元の自分がどんどん希薄になってしまう(みたいなことが書かれていたはず)。
自己そのものが希薄になるのはともかく、「人類の答えが知りたい」という願いがすりきれてしまっては困る。
もうひとつ。ロアは「転生するときの感覚がすげーイヤ」だとおっしゃる。
あの感覚、スゲーいやだから転生したくないなぁ……。
ダメ押しでもう一つ。
ロアは「体が弱くてすぐ死にそうだったので自分を延命させる研究をした」。でもロアはすぐ自殺して健康な次の体に転生すればいいのです。
なぜそうしないのか。転生がイヤだからなるべくしたくないから。
物語に書かれていたところによれば、「転生するのがイヤ」だからこそ、四季が殺されたとき次の転生をするのではなく志貴に乗り移ろうとしたのですよね。
だから死徒になる。
死徒になる最大のメリットは、血を吸ってる限り死なないので、「転生しなくてすむ」。
代行者に殺されたりはするだろうけど、そのときこそしかたなく転生すればよし。転生回数をなるべく少なくできる。
簡単に年表をまとめると、こうなります。
12世紀初頭
初代ロア(ミハイル)誕生。転生術を開発(か?)。転生開始
15世紀まで
何回も転生し、転生がイヤになる
16世紀
神学者ロア、転生やめたくて死徒になる
20世紀まで
アルクェイドに殺されまくり、前より転生が増える
何とかしてアルクを手に入れて人類滅ぼして死のう
1987年
フランス事変でそれを試して失敗
私の頭のなかにあるいくつかの解釈のうち、いまのところこの形が(私にとって)いちばん魅力的です。が、「ロアの初代は15世紀末」とした方がすっきりするよなあ、という感じもあるので、もうちょい頭脳のメモリのなかでゴニョゴニョ揉んでみるつもりです。
●キャーンズ問題
キャーンズ問題については、自分の中で採用できるほどの答えはまだありません。
何の話かといいますと、
アルクェイドがシエルのことを「15(キャーンズ)」と呼んだり、シエルが志貴を生き返らせるとき「キャーンズの秘蹟を使った」と発言している。
quinze は、フランス語で15。
シエルって15番なの? なぜ15番なの?
これについては、「ロアの転生回数である」とか「ロアが15回目に持った体ということだ」といった方向の推論をよくみかけます。
私もそうかなと思ったんですが、それっておかしいよねという反論もすでに大量になされている。
今代のロア(四季ロア)の棺にはローマ数字で17と刻まれている。
四季ロアが17なら、その一世代前のシエルは16のはず。
「体の弱かった代のロア」の棺の番号は14だ。
次世代で「祖の能力を奪う研究をしよう」と計画しているので、それが15だとする。
その直後がシエルだとしてもシエルは16番になる。
ただまあ、私はまだ採用できていないけど、現状の情報でつじつまがあう解釈もありはする。
マーリオゥは「ロアは十六回転生した」と言っている。
四季ロアは十六回転生して17番だ。
だとするとシエルは十五回転生しての16番。
シエルは16番だとしたら、「15(キャーンズ)」と呼ばれるのはおかしいですが、「十五回転生経験がある」を指してキャーンズと呼ぶのは、まあ、つじつまはあう。
ロアは転生のたびに、何か一つ新たな研究をするみたいなことを言っている。
なので15回転生してシエルに宿ったロアは15のワザを持っている。
このワザの数が「キャーンズだ」とすれば、「キャーンズの秘蹟」の意味がとおる。
通るんだけど、なんとなくしっくりこなくて、まだ私は「これでいい」とは思えないでいます。
たとえば志貴のセリフだけど、彼はロアの転生回数を「16回」といったり、「17回」といったりしている。
四季ロアが17回転生なら、シエルは16回転生になるのでたちまち15に合わなくなる。エンドロールをみると月姫リメイクにはプロの校正会社が入っているし、これがミステイクだとは思いにくい。
結論としてはまだわからない、なのだけれど、このへん関係ありそうよねという要素がいくつかあるのでそれを以下にあげておきます。
●ロアの転生はたった16回なのか?
ロアの転生回数がたった16回というのがそもそもおかしいです。
ロアの誕生が八百年前だったとしても、15世紀末からの五百年だったとしても、少なすぎます。
『TSUKIHIME Material I』には、ロアの年齢が12~60歳と書いてある。これを「最短では覚醒直後の12歳でアルクに殺される。殺されず最長で生きたのが60歳である」と考える。
ロアの誕生が八百年前で、すべてのロアが60歳ていどまで生きたと想定するならば、16回は妥当ですが、12歳で殺された回がいくつもあったと想定すると合わなくなります。
参考として、江戸時代は260年のあいだに15人の将軍がいました。これをモノサシにすると、八百年なら45回ていどは転生していそうなものです。
じゃあ16回という数字は何なのか。
私の解はこう。
「たいした経験や実績のなかった回の記憶を、ロアは次代に持っていかない」
なぜなら純度が下がるし転生の感触を持っていくと心底ゲーってなるから。転生イヤすぎて生きるのをやめそうになるから。
ロアの回想の中に、「いらんものはここに置いといて次には持っていかない」と仕分けする場面があります。
例えば、12歳で覚醒して即座に殺されたロアは、その記憶や経験を次世代にもっていかない。得るものがなくデメリットしかないから。
長生きして、魔術研究ができた場合のロアでも、その研究成果がスカだったときは記憶をもっていかない。
たとえば、「不老不死の研究をした」ロアは、この研究失敗だったな、といっている。
ロアはこの代の記憶と研究成果を次代に持って行かない。
持っていったのなら、マーリオゥは、シエルを問い詰めて不老不死の秘密を手に入れることができるはずだ。
そういう状態になっていないのは、シエルがその知識をまるきり持っていないから。ロアがシエルの代にその知識を持ってこなかったから。
ロアはおそらく、ほとんどの世代の記憶を「無駄だった」といって捨てている。
ロアが回想時に「これまでの何回の転生で…」と言おうとして、数字が伏字になってしまったのは、回数を言おうとしたが何回なのか自分でも思い出せなかったからかもしれない。
そうなると「16回の転生」という情報は何なのか。
ロアは、転生の記憶のほとんどを捨ててきている。
研究成果のあった有意義な回の記憶だけ持ってきている。
その持ち越し回数はエレイシアロアの段階で15回、とするのはどうでしょう。
エレイシアロアは15回分の人生の記憶と15の必殺技を持っている。(そこに不老不死は含まれていない)
(前述通りその回数がキャーンズだ、という理解の方法はひとつあるよね。技の数を数えているというのでもいい)
(マーリオゥがロアの転生回数を16回だと思っているのは、シエルが「私の知る限りロアの転生は15回です」と証言したからだろう)
エレイシアロアはフランス事変を主催した経験があり、その知見は重要なので、ロアはこの記憶を次代の四季ロアに持っていく。
エレイシアロアの記憶は重要なので、「この記憶はずっと持っておく」と決める。エレイシアロアは16番の番号が振られて永久保存扱いになる。エレイシアロアの棺には16番が刻まれる(推定)。
四季ロアは16回分の人生の記憶を持った17番だ。ロアはこれも永久保存とする。なぜなら「命の線を見る」という素晴らしい能力を獲得したからだ。
おそらく次代に持ちこせる能力ではないだろうが、それが見えたという経験は役に立つにちがいない。棺に17番を刻む。
……というような方向性かなあと思っていますが、ちょっと腑におちきらないところもあって、もう少し考えるつもりです。
四季ロアはシエルと初対面して、
っておっしゃってる。
でも16回に1回起こる事例って、そんなに驚嘆するほどレアとはいえないでしょう。
なのでまあ、ほんとはもっと転生しているよ、というくらいまではOKだと思います。
転生が八百年なのか1000年なのか、16回なのか17回なのかという問題はさっぱりです。後者は四季→志貴の移動をカウントしているのかなあ……(腑に落ちない)。
●ロアがヴローヴに与えた術式
不老不死研究に失敗したロアが、「次回は祖の能力を奪ったり、逆に与えたりする研究をしよう」と思いつきます。
ええとですね……。
この研究成果をヴローヴで人体実験したのである、だからヴローヴは、「アッフェンバウムの持つ」「氷結の能力」を奪うことができたのである……。
という考えの人を、わりあいたくさん見かけました。私はそれとは違う考えを持っています。
そうではない、というか、こっちのほうがドラマチックなんじゃない? と思える別のストーリーがありそうよねって感じ。
根拠はここ。
※「6階梯」の6は実際にはローマ数字
アルクェイドがいうには、若い吸血鬼は原理血戒をもてあましてつぶれる。まずは千年生きないとダメ。
となると、
「400年クラスのヴローヴが“祖の能力を奪う能力”を手に入れ、それを使ってアッフェンバウムから原理血戒を奪ったとしても、通常つぶれて死ぬ」
というのが、まずは話の流れじゃないかと思うのです。
ヴローヴが仮に能力継承の改造を受けたとしても、彼は400年クラスなので、原理血戒に耐えられない。
けれどなぜかヴローヴは耐えていた。アルクェイドはそれを不思議がっていた。
となると、継承能力以前に、まずはこういう能力を想定すべきだと思うのです。
「若い新参の吸血鬼であっても、原理血戒に耐久する能力」
ロアはあらかじめ、そういう能力を開発しておいた。開発に成功したので、ヴローヴでそれを試した。
とある「術式」によって「耐えた」というのだから、その術式とは「耐える能力」である。
そういうふうにすごく素直に受け取っています。
ヴローヴはある死徒=ロアからそういう術式をほどこされた。
そしてヴローヴはロアに復讐したくなった。
なぜ復讐を?
●ロアがヴローヴにちょっかい出す理由
ストーリーとしてはこうです。
(以下わたしが「こうなら魅力的だな」と思うストーリーです)
ロアはのちにフランス事変と呼ばれる、「吸血鬼5人+1人で物理法則をひっくりかえして世界を滅ぼす」計画を立てた。
祖が5人必要なので、二十七祖にかたっぱしから手紙を書いて協力をあおいだ。
ところがロアは人望がないのかなんなのか、がんばっても4人しか協力者がでてこなかった。
あと一人足りない。どうしよう。
「誰か適当な下級の死徒に、祖の位を簒奪させよう」
そいつを使って儀式を行おう。
ただ、そいつが原理血戒に耐えられなかったら話にならないから、『下級死徒でも原理血戒に耐える』という人体改造技術を開発しておこう。
(阿良句博士に研究協力してもらってたなどの事情があっても面白い)
その開発に成功したのち、「さて、誰に使うか」。
主である祖を殺しそうな奴でないといけない。
このヴローヴって奴は、話のもっていきかた次第ではうまくいきそうだ。
……この話、視点はヴローヴ側へと続きます。
●ヴローヴの物語
一方ヴローヴ。
極寒の地に流刑された男。
食べ物もなく、寒さを防ぐすべもなく、今まさに凍死しようとしていたそのとき、祖ゼリア・アッフェンバウムに見いだされ、憐れまれ、吸血鬼にしてもらえた男だ。
吸血鬼にはなったが、生き延びた。
生き延びたが、「寒い」「冷たい」「苦しい」という極限の経験は、彼の「原理」に深く刻み込まれた。
生き延びた。だが、ここは寒すぎる。耐えがたく寒い。
その寒さに耐えることができた理由は、アッフェンバウムのまわりだけはあたたかかったからだ。
(注:という想定)
トラウマになるほど冷たい環境なのに、雪原に花が咲き、鳥が飛ぶのは、アッフェンバウムの能力が「あたたかい」に属するものだからだ。
自分を救い、あたたかさを与えてくれる「ご当主」に忠誠を誓った。
ここは寒くていつも死にそうだが、ご当主のそばにいれば耐えられる……。
そこにふらっと、ロアが現れる。
「寒かろう。痛かろう。魂まで凍りつくほどだろう」
「おまえは生きているあいだは永久にその苦痛を味わうのだ」
「だが、ゼリア・アッフェンバウムはあたたかな力を持っているぞ」
「アッフェンバウムを殺して原理血戒と能力を奪えば、おまえの体はあたたまるだろう」
「そのための力を与えてやろう」
ロアはヴローヴに、原理血戒に耐える力を無理やり付与する。
ところヴローヴは、「アッフェンバウムを殺さない」。
「愚弄するな!」と言ってロアを追い払ってしまう。
ロアは工房に逃げ帰ってきて、そのことをネロ・カオス(推定)にぼやいた。
そう面白い話にもならなかった。ヴローヴはもくろみ通りには踊ってくれなかった。
さて、ヴローヴ。
ロアを追い払ったものの、寒さと苦しみは増すばかりだ。
だんだん、苦しみに耐えられなくなっていく。
拷問のような冷たさのなかで、ロアのささやきが思い出されて……。
「アッフェンバウムを殺せば、あたたまるだろう」
今から数えて約100年前に、ついにご当主を殺してしまった。
これで俺は、あたたまるのか……。
ところが、これはロアの陰謀だった。
ロアは、新参でも原理血戒に耐える能力は与えてくれたが、「祖の能力をそのままに奪う能力は与えてくれなかった」。
原理血戒は持ち主の原理を外部に表出するもので、ヴローヴの原理は絶海の凍土である。(注:第一回をご覧ください)
よって、ヴローヴが原理血戒を奪った瞬間、絶対零度の吹雪が吹きさらした。アッフェンバウムの温かさは消え去った。
領地はより寒く、ヴローヴはより凍えた。
ヴローヴがご当主を殺したのはちょうど一世紀前。その時点を境に、領地は「絶対に人が住めない環境になり(人間は逃げ出し)」「雪原の花は枯れた(草ひとつない)」。
話がちがう!
だましたな!
ヴローヴはロアに復讐を誓った。どこにいようとも、見つけ次第、殺しにいってやる……。
そのときロアはほくそえんでいた。
つまり、「私はここにいるぞ」と教えてやれば、「原理血戒を持った祖が一人、どこからでも駆けつけてくる」。
これで五人目の祖がきまった。
……という話のほうが魅力があると思うし、なぜヴローヴは総耶に来るのかが、流れのなかで自然に説明できるので、私はこっちを取っている。
第一回で語りそこねた、「なぜ氷結系能力をアッフェンバウム由来とも原理血戒由来とも思わないのか」の理由がこれです。
次回もロアの話。続きます。
続き。
月姫リメイク(4)ロアのイデア論・イデアブラッドって何よ
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※ご注意●本稿は現実に存在する筆者(Townmemory)の思想・信条・思考・研究結果を表現した著作物です。内容の転載・転用・改変等を禁じます。紹介ないし引用を行う際は必ず出典としてブログ名・記事名・筆者名・URLを明示しなければなりません。ネットで流布している噂ないし都市伝説の類としての紹介を固くお断りします。これに反する利用に対して法的手段をとる場合があります。
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月姫リメイク(3)ロアの転生回数とヴローヴに与えた術式
筆者-Townmemory 初稿-2023年6月10日
今回と次回で、ロアについて集中的に取り上げます。
一連の投稿は続き物です。
第1回から順序よく読むことを推奨します。
月姫リメイク(1)原理血戒と大規定・上
月姫リメイク(2)原理血戒と大規定・下
クリックすると筆者が喜びます
●転生八百年/十五世紀問題
ロアについては「八百年/15世紀問題」というのがあります。
ロアの回想に、普通に読めば初代ロアだと思われる人物が登場します。
豪族出身で、神学者になり、埋葬教室を設立し、アルクェイドに血を吸わせた人です。
この人は「15世紀末に」生まれたといっています。
十五世紀の終わりに彼は生まれた。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 7/孵化逆I Note.憐憫
ところがロア本人やマーリオゥは「八百年転生した」と言っているのです。
素晴らしい、それでこそだ。八百年繰り返しての転生だ。一度や二度の特例が、ようやく発生した訳か!」『月姫 -A piece of blue glass moon-』 12/凶つ夜 Note.もうひとりの、
「そうだ。ロアは真祖に殺され、そのたびに転生し、また真祖に殺される。そんな繰り返しをもうずっと続けてきた。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 10/朱の紅月I 情けは人のためならず
その年数、実に八百年。
なお、志貴は1000年とも言ってますね。
決して相容れない吸血鬼ではあったが、ヤツにはヤツなりの道理があった筈だ。俺のように数年のものじゃない。1000年にも亘る、譲れない執念が。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 14/果てずの石 Note.名残の夢、月の光。
でもややこしいので、とりあえず15世紀末と八百年の齟齬として考えます。
15世紀末なら西暦1500年ごろなので、ロアの人生は500年なの800年なのか。
私は原則として、理屈と膏薬はどこにでもつくと思っていて、齟齬を齟齬でなくする解釈法はいくらでもあると思っています。そして、説明できていればどんな解釈でもいいと思います。
あとは奈須きのこさんの設定との一致があるかないかという些末な問題にすぎない。
たとえば(これはあくまで一例ですが)15世紀末ルネサンス時代に生まれた初代ロアは、最初の転生先に「八百年前の」他人を選んだ、とかね。
ロアは初期には「わたしが世界の秘密と究極の答えを解明したい」と言っていた。でもルネサンス期にはだいたいぜんぶ仮説がたっちゃってる(と書いてある)。あとは実証するだけだ。
なので、自分が解明に参加できる過去の時代に転生した、などの受け取り方。
(可能かどうかについては、奈須きのこさんが「可能である」と決めれば可能)
一例の続きだけど、時間をさかのぼっての転生というのが可能なら、「ロアは同時に二人以上の人物に転生することが可能だ」とか言い出しちゃってもおもしろい。ロアは15世紀に生まれたが、同時に二人以上の人生を経験しているので、重複分も合算すると800年くらいになるなどの消化方法。コピーロボットみたいに「自分のコピー」を作って二人分活動しているとかでもいい。
で、私好みの膏薬はこうです。
初代ロアは八百年前に誕生した魔術師である。
自分の魂を他人に転生させる魔術を開発し、ここから転生を始めた。
何回も転生をしたのち、15世紀末に豪族出身の神学者に転生した。
この15世紀末神学者ロアの時代に、アルクェイドに自分を噛ませて死徒になり、以降アルクェイドに付け狙われるようになった。
ああ、バリエーションとして、こうでもいいですね。
初代ロアは八百年前に誕生した、「記憶を持ったまま転生してしまう」という特異体質を抱えた人物である。
15世紀末までの200年間に何回か転生して、その間に魔術を学んだ。
15世紀末に豪族出身の神学者に転生。
この代のロアが「転生先や転生タイミングを自前でコントロールできるようになろう」と画策した。
その手段としてアルクェイドに自分を噛ませて死徒になった。
月姫には、「いったん死徒にならないと転生術が使えない」という理屈が希薄なので、こういうことも言える状態にあると思うのです。
ようするに死徒にならなくとも特異体質や魔術があれば転生はできるという考え方。
天体の卵。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 14/果てずの石 Note.逆行運河/天体受胎
惑星の記憶。
全てを知ろうとした少年(ミハイル)。
神の愛を、永遠を定義しようとした男(ロア)。
機会は既に失われたが、その望みの一端が、いま、この地表に表れる。
この説にのっかっていくなら、上記の引用部。
全てを知ろうとした少年ミハイルが「800年前生まれの初代ロア」。
神の愛と永遠を定義しようとした男ロアが、「十五世紀末神学者ロア」。
となりそうだ。
十五世紀の神学者ロアが初登場する回想で、子供のころに月を見上げて、「すべてを知りたい」と願うシーンがある。
私は今でも覚えている。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 7/孵化逆I Note.憐憫
父の目を盗んで、一夜だけの旅に出たあの時間を。
たかくたかく、
何の支えもなく私を見つめていた、あの石の不思議さを。
(略)
事の始まりにして原動力。
あまりにも罪深く、あまりにも愚かしい。
彼はこの時、宇宙のすべてを論理的に明かしたいと、天上の主に願ったのだ。
この「子供の頃の話」は、「800年前のミハイルの記憶」だったりしてもいいのではと思っています。
800年前、ミハイル少年は、「宇宙のすべてを論理的に明かしたい」という願いを持った。
当時全てを知るためには魔術師の弟子になるのが早い。
そして偶然か意図的かはわからないが、かれは転生能力を持った。
何度か転生し、200年かけて大魔術師になった。
15世紀末に生まれ直した彼は、豪族出身の神学者になり、魔術師としての知見を駆使して、埋葬教室(埋葬機関の前身)を設立した。その当時かれが考案した(と推定の)死徒の階梯分類は今でも使われている。
この神学者時代にも、「宇宙のすべてを論理的に明かしたい」という願いを彼は持っていた。ところが。
あらゆる不思議は、既にその概要が解き明かされていた。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 7/孵化逆I Note.憐憫
名も無い賢者はこう記していた。
“この後の千年は、これらの証明をするだけの時代だろう”
(略)
“あきらめていたからこそ許せたのだ”
“だがなんだ。これはなんだ。この結論はなんなのだ”
“人間はこのように、いずれ全てを知り得る日が来る”
“だというのに―――この体には、あまりにも時間がない”
(略)
思考を切り替える必要があった。
地上にはいまだ“永遠”はなく。
増え続け、変化し続けるのなら“完成”を待つしかないと。
※傍線部は原文では傍点
ロアは宇宙の全てを知りたいと思っていたし、そのために転生もしていたのだけど、「本当に全てを知ることができるとは思っていなかった」(あきらめていた)。この時までは。
しかし宗教者になって、神の家の禁書を読んだら、重要なことがわりといろいろ解明されている。
「この調子だと、時間さえあれば、人類はぜんぶの秘密を解明できちゃうぞ」
「人類がぜんぶの秘密を解明する瞬間がみたい!」
だったら死徒になっちまえばいい……。
ただ、この想定の場合、ひとつ問題がでてくる。
死徒にならなくとも転生ができるのなら、ロアはなぜ死徒になろうとしたのか。ならなくてもよいのでは。
その問題を解消してくれそうなのがこれ。
今までの資料に目を通して分かったよ。テメェはできれば転生なんざしたくねえのさ。失われるものが多すぎるからな。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 11/後日談 Note.夜歩く
だからーーーまだその時代に残れる術があるのなら、そっちに賭けると信じてたぜ」
マーリオゥの見立てでは、「ロアは転生したくない」のです。
転生すると、転生先のパーソナリティに影響されてしまって、元の自分がどんどん希薄になってしまう(みたいなことが書かれていたはず)。
自己そのものが希薄になるのはともかく、「人類の答えが知りたい」という願いがすりきれてしまっては困る。
もうひとつ。ロアは「転生するときの感覚がすげーイヤ」だとおっしゃる。
人間は死ぬ。こればかりは避け得ない結末だ。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 6/朱い残滓I Note.不死の証明
恐れているものがあるとすれば、それは目を覚ます時の感覚だ。終わりのない暗闇から這い出るような感覚。アレだけは、何度経験しても慣れない不快感だった。
あの感覚、スゲーいやだから転生したくないなぁ……。
ダメ押しでもう一つ。
生まれつき体が弱かった為、肉体の寿命を延ばす研究に没頭してしまった。不老という一つの成果には辿り着いたものの、結果は失敗に終わった。永遠の若さというのは、やはり肉体には備わらない。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 6/朱い残滓I Note.不死の証明
ロアは「体が弱くてすぐ死にそうだったので自分を延命させる研究をした」。でもロアはすぐ自殺して健康な次の体に転生すればいいのです。
なぜそうしないのか。転生がイヤだからなるべくしたくないから。
物語に書かれていたところによれば、「転生するのがイヤ」だからこそ、四季が殺されたとき次の転生をするのではなく志貴に乗り移ろうとしたのですよね。
だから死徒になる。
死徒になる最大のメリットは、血を吸ってる限り死なないので、「転生しなくてすむ」。
代行者に殺されたりはするだろうけど、そのときこそしかたなく転生すればよし。転生回数をなるべく少なくできる。
簡単に年表をまとめると、こうなります。
12世紀初頭
初代ロア(ミハイル)誕生。転生術を開発(か?)。転生開始
15世紀まで
何回も転生し、転生がイヤになる
16世紀
神学者ロア、転生やめたくて死徒になる
20世紀まで
アルクェイドに殺されまくり、前より転生が増える
何とかしてアルクを手に入れて人類滅ぼして死のう
1987年
フランス事変でそれを試して失敗
私の頭のなかにあるいくつかの解釈のうち、いまのところこの形が(私にとって)いちばん魅力的です。が、「ロアの初代は15世紀末」とした方がすっきりするよなあ、という感じもあるので、もうちょい頭脳のメモリのなかでゴニョゴニョ揉んでみるつもりです。
●キャーンズ問題
キャーンズ問題については、自分の中で採用できるほどの答えはまだありません。
何の話かといいますと、
アルクェイドがシエルのことを「15(キャーンズ)」と呼んだり、シエルが志貴を生き返らせるとき「キャーンズの秘蹟を使った」と発言している。
quinze は、フランス語で15。
シエルって15番なの? なぜ15番なの?
これについては、「ロアの転生回数である」とか「ロアが15回目に持った体ということだ」といった方向の推論をよくみかけます。
私もそうかなと思ったんですが、それっておかしいよねという反論もすでに大量になされている。
今代のロア(四季ロア)の棺にはローマ数字で17と刻まれている。
四季ロアが17なら、その一世代前のシエルは16のはず。
「体の弱かった代のロア」の棺の番号は14だ。
次世代で「祖の能力を奪う研究をしよう」と計画しているので、それが15だとする。
その直後がシエルだとしてもシエルは16番になる。
ただまあ、私はまだ採用できていないけど、現状の情報でつじつまがあう解釈もありはする。
マーリオゥは「ロアは十六回転生した」と言っている。
ロアが今まで転生した回数は十六回。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 10/朱の紅月I 情けは人のためならず
そのことごとくを、真祖は消滅させている」
四季ロアは十六回転生して17番だ。
だとするとシエルは十五回転生しての16番。
シエルは16番だとしたら、「15(キャーンズ)」と呼ばれるのはおかしいですが、「十五回転生経験がある」を指してキャーンズと呼ぶのは、まあ、つじつまはあう。
ロアは転生のたびに、何か一つ新たな研究をするみたいなことを言っている。
なので15回転生してシエルに宿ったロアは15のワザを持っている。
このワザの数が「キャーンズだ」とすれば、「キャーンズの秘蹟」の意味がとおる。
通るんだけど、なんとなくしっくりこなくて、まだ私は「これでいい」とは思えないでいます。
たとえば志貴のセリフだけど、彼はロアの転生回数を「16回」といったり、「17回」といったりしている。
17回にも及ぶ転生。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 14/果てずの石 逆行運河/天体受胎
その度に“新たな魔術の最奥”を築いてきた天才は、
先輩の奥の手を“無駄が多い”と嘲笑った。
「余計なお世話だ、16回も死んでるヤツは黙ってろ!」『月姫 -A piece of blue glass moon-』 14/果てずの石 Note.顕現
四季ロアが17回転生なら、シエルは16回転生になるのでたちまち15に合わなくなる。エンドロールをみると月姫リメイクにはプロの校正会社が入っているし、これがミステイクだとは思いにくい。
結論としてはまだわからない、なのだけれど、このへん関係ありそうよねという要素がいくつかあるのでそれを以下にあげておきます。
●ロアの転生はたった16回なのか?
ロアの転生回数がたった16回というのがそもそもおかしいです。
ロアの誕生が八百年前だったとしても、15世紀末からの五百年だったとしても、少なすぎます。
『TSUKIHIME Material I』には、ロアの年齢が12~60歳と書いてある。これを「最短では覚醒直後の12歳でアルクに殺される。殺されず最長で生きたのが60歳である」と考える。
ロアの誕生が八百年前で、すべてのロアが60歳ていどまで生きたと想定するならば、16回は妥当ですが、12歳で殺された回がいくつもあったと想定すると合わなくなります。
参考として、江戸時代は260年のあいだに15人の将軍がいました。これをモノサシにすると、八百年なら45回ていどは転生していそうなものです。
じゃあ16回という数字は何なのか。
私の解はこう。
「たいした経験や実績のなかった回の記憶を、ロアは次代に持っていかない」
なぜなら純度が下がるし転生の感触を持っていくと心底ゲーってなるから。転生イヤすぎて生きるのをやめそうになるから。
ロアの回想の中に、「いらんものはここに置いといて次には持っていかない」と仕分けする場面があります。
この先も使う技能(もの)と、使わない技能(もの)。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 6/朱い残滓I Note.不死の証明
必要なモノと不要なモノ。
現在の私と明日の私。
そういったものを整理しては、古いものを工房に置いていく。もう読む事のない回顧録を作っているようなものだ。
人間は誰しも、過去の自分を切り捨てている。
例えば、12歳で覚醒して即座に殺されたロアは、その記憶や経験を次世代にもっていかない。得るものがなくデメリットしかないから。
長生きして、魔術研究ができた場合のロアでも、その研究成果がスカだったときは記憶をもっていかない。
たとえば、「不老不死の研究をした」ロアは、この研究失敗だったな、といっている。
ロアはこの代の記憶と研究成果を次代に持って行かない。
持っていったのなら、マーリオゥは、シエルを問い詰めて不老不死の秘密を手に入れることができるはずだ。
そういう状態になっていないのは、シエルがその知識をまるきり持っていないから。ロアがシエルの代にその知識を持ってこなかったから。
ロアはおそらく、ほとんどの世代の記憶を「無駄だった」といって捨てている。
こと■回目の転生にして、私はようやく、その真実にたどり着いた。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 8/孵化逆II Note.1989年
ロアが回想時に「これまでの何回の転生で…」と言おうとして、数字が伏字になってしまったのは、回数を言おうとしたが何回なのか自分でも思い出せなかったからかもしれない。
そうなると「16回の転生」という情報は何なのか。
ロアは、転生の記憶のほとんどを捨ててきている。
研究成果のあった有意義な回の記憶だけ持ってきている。
その持ち越し回数はエレイシアロアの段階で15回、とするのはどうでしょう。
エレイシアロアは15回分の人生の記憶と15の必殺技を持っている。(そこに不老不死は含まれていない)
(前述通りその回数がキャーンズだ、という理解の方法はひとつあるよね。技の数を数えているというのでもいい)
(マーリオゥがロアの転生回数を16回だと思っているのは、シエルが「私の知る限りロアの転生は15回です」と証言したからだろう)
エレイシアロアはフランス事変を主催した経験があり、その知見は重要なので、ロアはこの記憶を次代の四季ロアに持っていく。
エレイシアロアの記憶は重要なので、「この記憶はずっと持っておく」と決める。エレイシアロアは16番の番号が振られて永久保存扱いになる。エレイシアロアの棺には16番が刻まれる(推定)。
四季ロアは16回分の人生の記憶を持った17番だ。ロアはこれも永久保存とする。なぜなら「命の線を見る」という素晴らしい能力を獲得したからだ。
おそらく次代に持ちこせる能力ではないだろうが、それが見えたという経験は役に立つにちがいない。棺に17番を刻む。
……というような方向性かなあと思っていますが、ちょっと腑におちきらないところもあって、もう少し考えるつもりです。
四季ロアはシエルと初対面して、
「そうか、そういう事か女! 想定すらしていなかった、こんな事態(ケース)もあるのだな!『月姫 -A piece of blue glass moon-』 12/凶つ夜 Note.もうひとりの、
素晴らしい、それでこそだ。八百年繰り返しての転生だ。一度や二度の特例が、ようやく発生した訳か!」
っておっしゃってる。
でも16回に1回起こる事例って、そんなに驚嘆するほどレアとはいえないでしょう。
なのでまあ、ほんとはもっと転生しているよ、というくらいまではOKだと思います。
転生が八百年なのか1000年なのか、16回なのか17回なのかという問題はさっぱりです。後者は四季→志貴の移動をカウントしているのかなあ……(腑に落ちない)。
●ロアがヴローヴに与えた術式
不老不死研究に失敗したロアが、「次回は祖の能力を奪ったり、逆に与えたりする研究をしよう」と思いつきます。
ええとですね……。
この研究成果をヴローヴで人体実験したのである、だからヴローヴは、「アッフェンバウムの持つ」「氷結の能力」を奪うことができたのである……。
という考えの人を、わりあいたくさん見かけました。私はそれとは違う考えを持っています。
そうではない、というか、こっちのほうがドラマチックなんじゃない? と思える別のストーリーがありそうよねって感じ。
根拠はここ。
もっとも、原理血戒を動かすには千年クラスの土台がいるわ。数百年活動した程度の死徒が継承しても、その呪いで潰される」『月姫 -A piece of blue glass moon-』 7/直死の眼I Note.……二十七祖ってなんだ?
「ヴローヴのように?」
「そうなんだけど……今にして思うと、アイツ、ちゃんと耐えきっていたみたい。
……死徒としては6階梯クラスだったのに、なんであそこまで自我が残っていたのかしら……」
※「6階梯」の6は実際にはローマ数字
アルクェイドがいうには、若い吸血鬼は原理血戒をもてあましてつぶれる。まずは千年生きないとダメ。
となると、
「400年クラスのヴローヴが“祖の能力を奪う能力”を手に入れ、それを使ってアッフェンバウムから原理血戒を奪ったとしても、通常つぶれて死ぬ」
というのが、まずは話の流れじゃないかと思うのです。
ヴローヴが仮に能力継承の改造を受けたとしても、彼は400年クラスなので、原理血戒に耐えられない。
けれどなぜかヴローヴは耐えていた。アルクェイドはそれを不思議がっていた。
となると、継承能力以前に、まずはこういう能力を想定すべきだと思うのです。
「若い新参の吸血鬼であっても、原理血戒に耐久する能力」
ロアはあらかじめ、そういう能力を開発しておいた。開発に成功したので、ヴローヴでそれを試した。
反面、原理血戒を動かすには千年クラスの土台が必要となり、数百年活動した程度の死徒が継承してもその呪いで潰されてしまう。本来であればヴローヴに耐えきれる物ではなかったが、ある死徒から施された術式とその相手による復讐心により、彼の正気は最後まで残される事となった。『TSUKIHIME Material I』P.100
とある「術式」によって「耐えた」というのだから、その術式とは「耐える能力」である。
そういうふうにすごく素直に受け取っています。
ヴローヴはある死徒=ロアからそういう術式をほどこされた。
そしてヴローヴはロアに復讐したくなった。
なぜ復讐を?
●ロアがヴローヴにちょっかい出す理由
ストーリーとしてはこうです。
(以下わたしが「こうなら魅力的だな」と思うストーリーです)
ロアはのちにフランス事変と呼ばれる、「吸血鬼5人+1人で物理法則をひっくりかえして世界を滅ぼす」計画を立てた。
祖が5人必要なので、二十七祖にかたっぱしから手紙を書いて協力をあおいだ。
ところがロアは人望がないのかなんなのか、がんばっても4人しか協力者がでてこなかった。
あと一人足りない。どうしよう。
「誰か適当な下級の死徒に、祖の位を簒奪させよう」
そいつを使って儀式を行おう。
ただ、そいつが原理血戒に耐えられなかったら話にならないから、『下級死徒でも原理血戒に耐える』という人体改造技術を開発しておこう。
(阿良句博士に研究協力してもらってたなどの事情があっても面白い)
その開発に成功したのち、「さて、誰に使うか」。
主である祖を殺しそうな奴でないといけない。
このヴローヴって奴は、話のもっていきかた次第ではうまくいきそうだ。
……この話、視点はヴローヴ側へと続きます。
●ヴローヴの物語
一方ヴローヴ。
極寒の地に流刑された男。
食べ物もなく、寒さを防ぐすべもなく、今まさに凍死しようとしていたそのとき、祖ゼリア・アッフェンバウムに見いだされ、憐れまれ、吸血鬼にしてもらえた男だ。
吸血鬼にはなったが、生き延びた。
生き延びたが、「寒い」「冷たい」「苦しい」という極限の経験は、彼の「原理」に深く刻み込まれた。
生き延びた。だが、ここは寒すぎる。耐えがたく寒い。
その寒さに耐えることができた理由は、アッフェンバウムのまわりだけはあたたかかったからだ。
(注:という想定)
一時の春があった。5/絶海凍土 Note.凍土のワルツ
男は雪原に咲く花を愛し、鳥を愛し、歌うように人を殺した。
トラウマになるほど冷たい環境なのに、雪原に花が咲き、鳥が飛ぶのは、アッフェンバウムの能力が「あたたかい」に属するものだからだ。
自分を救い、あたたかさを与えてくれる「ご当主」に忠誠を誓った。
ここは寒くていつも死にそうだが、ご当主のそばにいれば耐えられる……。
そこにふらっと、ロアが現れる。
「寒かろう。痛かろう。魂まで凍りつくほどだろう」
「おまえは生きているあいだは永久にその苦痛を味わうのだ」
「だが、ゼリア・アッフェンバウムはあたたかな力を持っているぞ」
「アッフェンバウムを殺して原理血戒と能力を奪えば、おまえの体はあたたまるだろう」
「そのための力を与えてやろう」
ロアはヴローヴに、原理血戒に耐える力を無理やり付与する。
ところヴローヴは、「アッフェンバウムを殺さない」。
「愚弄するな!」と言ってロアを追い払ってしまう。
ロアは工房に逃げ帰ってきて、そのことをネロ・カオス(推定)にぼやいた。
君が北海で何を企てたか、いささか興味もある。貴重な逸話として拝聴したい」『月姫 -A piece of blue glass moon-』 Note.不老不死
「いやあ、その件については本題の後に。そう面白い話にもなりませんでしたしね。
そう面白い話にもならなかった。ヴローヴはもくろみ通りには踊ってくれなかった。
さて、ヴローヴ。
ロアを追い払ったものの、寒さと苦しみは増すばかりだ。
だんだん、苦しみに耐えられなくなっていく。
拷問のような冷たさのなかで、ロアのささやきが思い出されて……。
「アッフェンバウムを殺せば、あたたまるだろう」
今から数えて約100年前に、ついにご当主を殺してしまった。
これで俺は、あたたまるのか……。
ところが、これはロアの陰謀だった。
ロアは、新参でも原理血戒に耐える能力は与えてくれたが、「祖の能力をそのままに奪う能力は与えてくれなかった」。
原理血戒は持ち主の原理を外部に表出するもので、ヴローヴの原理は絶海の凍土である。(注:第一回をご覧ください)
よって、ヴローヴが原理血戒を奪った瞬間、絶対零度の吹雪が吹きさらした。アッフェンバウムの温かさは消え去った。
領地はより寒く、ヴローヴはより凍えた。
人間どもも一世紀前に逃げ去った。貴様ら狗ですら、おれの国には近寄らん。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 5/絶海凍土 Note.限界だ、一度呼吸を……!
まさに草一つない不毛の地。
ヴローヴがご当主を殺したのはちょうど一世紀前。その時点を境に、領地は「絶対に人が住めない環境になり(人間は逃げ出し)」「雪原の花は枯れた(草ひとつない)」。
話がちがう!
だましたな!
ヴローヴはロアに復讐を誓った。どこにいようとも、見つけ次第、殺しにいってやる……。
そのときロアはほくそえんでいた。
つまり、「私はここにいるぞ」と教えてやれば、「原理血戒を持った祖が一人、どこからでも駆けつけてくる」。
これで五人目の祖がきまった。
……という話のほうが魅力があると思うし、なぜヴローヴは総耶に来るのかが、流れのなかで自然に説明できるので、私はこっちを取っている。
第一回で語りそこねた、「なぜ氷結系能力をアッフェンバウム由来とも原理血戒由来とも思わないのか」の理由がこれです。
次回もロアの話。続きます。
続き。
月姫リメイク(4)ロアのイデア論・イデアブラッドって何よ
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