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研修医1年目のときに,甲状腺機能低下症の患者でとても印象的な所見を見たことがあります。
「mounding現象」といって,前腕部をハンマーで叩くと少し時間をおいて筋肉がゆっくり「もっこり」盛り上がって,その後ゆっくり元に戻ります。あまりに興味深いので何度も確認して目に焼き付けたものです。そのとき以来,甲状腺機能低下症の患者を診たときには必ずやってみましたが,以後一例も経験がありませんでした。そのうち,やってみることもしなくなっていました。その後,moundingについては,調べてみたこともありましたが,あまり情報を見つけることができませんでした。また,当時教えていただいた指導医以外に知っている先生にも会ったことがありませんでした。
そんななかサパイラの最終ゲラ校正チェックをやっていて,「四肢」のところでその記載に出会いました。
筋緊張症(Myotonia)と筋水腫(Myoedema)の項目です。
『筋浮腫(Myoedema)は "mounding" とも呼ばれるが,神経診察に使うハンマーで叩いたときに,筋肉表面に30〜60秒ほど見える小さな膨隆,塊を指した名前である。この徴候は甲状腺機能低下性ミオパチーでしばしば見られ,甲状腺機能低下症でカルシウムのゆっくりした再貯蓄が筋小胞体から起きることによると考えられている。』
私が30数年前に経験したのは,まさにドンピシャこれでした。甲状腺機能低下性ミオパチーで「しばしば見られ」と書いてあるけど,そんなにあるかなあ。CKが上昇していた甲状腺機能低下症では,必ずやってみるようにしていましたが,研修医1年目に経験して以来,見ないけど。まあ地道に,待っていればまた経験するでしょうか。その時には是非,動画を撮っておきたいものです。
と思って,たった今ネットで調べてみました。さすが,いまではちゃんと出てきますね。
Teaching Video NeuroImages: Myoedema in hypothyroidism
これです!これ!この動画に対するコメントの一つに,「甲状腺機能低下症の1/3の症例でみられる甲状腺機能低下症性ミオパチーにおける古典的症状だが,あまり知られていないので見逃されている」とあります。
やっぱり今度から,甲状腺機能低下症の患者を見たら手を抜かずにやってみようと思います。