24年前、私は大工を始めました。
建物探訪が好きだった子供の頃の私は、渡辺篤史さんがあのテンポで紹介する、自由な家に心を踊らせワクワクした事がキッカケで大工になりたいと思うようになりました。
はじめて出勤した日に、手道具や電動工具を渡され「大切に使いなさい、最低限の用意はしたから、あとは全部自分で買うんだぞ」と言わた。
与えられる仕事なんて無いので、毎日毎日片付けや補助、あとは掃除くらいしか出来ることが無かった。
親方から借りるホウキは、数年使い込まれ、ちびまる子ちゃんに出てくるナガサワくんの頭みたいにほっそほそにとんがり、使える所は真ん中の一部だけ。
他の先輩たちのフッサフサで豊満なホウキをみては使い勝手の良さに憧れていました。
私の主な仕事は掃除だったので、道具屋さんでフサフサなホウキを買いました。
買って持って行った日、親方は少し嬉しそうに笑い「お前自分のホウキ買って来たのか!?そうやって必要なものを買って行けよ」と言われた。
あのナガサワホウキとはオサラバし、掃きやすく気持ちが良くて、毎日掃除が楽に、心地良くなりました。
時は流れ、自分にも若い子を雇う日が来て、とある日。
「ホウキがくたびれたので買っておきました」と領収書を渡された。
その時親方のあの嬉しそうな笑いを思い出したのです。
あ、そうだよな。
普通「備品」だと思うよね。
オレはあの時「自分の道具」として疑いもなくホウキを買った。それはナガサワホウキが嫌だったのと、掃除を楽しみため。
でも普通は備品と思うのかもな。
結局ホウキを買って来た彼は1年で去る事になった。
私は24年一度も辞めたいと思う事なく続けている。
たったホウキのストーリー。
どっちが普通なのかは分からないけど、親方はあの時どう思ったのかな。
今はそっちの立場になってみて、若い子が入りたて早々マイホウキ持って来たらオレも嬉しくて笑っちゃうかもな。
おじさんになったな笑