懸命に夢へ向かって励む姿は周囲の人も巻き込み応援させずにはいられない。寿司職人としての技量が進歩しているのか心配になった時、学校見学に来た来訪者の一言で1年前と比べて着実に進歩していることに気がつく場面。英語のプライベートレッスンで面接の練習をして3か月で模擬面接ができ先生と喜ぶ場面。寿司専門学校の先生が卒業生にお願いしてフィンランドで仕事をしている先輩職人とchikaさんがLINEで交流できるようにした「ムーミン村会議」。人に前向きと見られがちなchikaさんに悩む姿も書いて欲しいとお願いした本書の編集担当の「ふじさん。」ふじさんの試みは大成功で、読者にはそれが夢の実現の仕方となって「自分だって頑張れば」と思わせるような、作者からのエールに等しいものとなっている。
加えてお勧めの英語学習教材やアプリ、専門学校で学ぶことについてのエッセイも書かれている。もっと具体的な例では週割のやることリスト、シャリの重さを体で覚えるためにラップで包んで持ち歩いたこと、握りの自宅練習で魚の代わりにベーコンやたくあんを利用したことなど、大きな「夢」を実現するための「やること」を細かく落とし込んで実行してきた方法がかわいらしいイラストと共に紹介されている。そうして読者自身の夢実現に応用できるようになっている。
「準備段階ではとことんネガティブに考える」chikaさんだが日々の生き方は前向きだ。それがコミックからもよく伝わってくる。誰かからの何気ない一言を聞いた時、友人の立ち位置を知った時、その人の人生観や感謝を素直に感じ取る姿が、いつも笑い顔のカモメのイラストとあいまってとても楽しい。そう、笑い顔がトレードマークだからこそこのエッセイは一層楽しいのだ。
そして本書は擬音語と擬態語がかわいらしく書かれているのも特徴である。繁忙期の寿司店で握りを出す時には「シュバババッ」、chikaさんが一目惚れした男性は「ぺかー」と輝き、彼に声を掛ける前のchikaさんの鼓動は「ドッドッ」と音を立てる。「オヨヨヨ」と慌て、不安のあまり泣く時は涙を「みょーっ」と流す。この音の表現が絵をより生き生きとさせている。同様の面白さがある東海林さだおさんの『丸かじりエッセイシリーズ』を思い起こさせる。
夢を追いかけるあなた、夢を追いたいけれど霧の中にいるあなたにぜひ読んで欲しい。
週末北欧部
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