ぎょうてんの仰天日記

日々起きる仰天するような、ほっとするような出来事のあれこれ。

図書紹介『北欧こじらせ日記 移住編』2

2022-11-16 18:37:29 | コラム

懸命に夢へ向かって励む姿は周囲の人も巻き込み応援させずにはいられない。寿司職人としての技量が進歩しているのか心配になった時、学校見学に来た来訪者の一言で1年前と比べて着実に進歩していることに気がつく場面。英語のプライベートレッスンで面接の練習をして3か月で模擬面接ができ先生と喜ぶ場面。寿司専門学校の先生が卒業生にお願いしてフィンランドで仕事をしている先輩職人とchikaさんがLINEで交流できるようにした「ムーミン村会議」。人に前向きと見られがちなchikaさんに悩む姿も書いて欲しいとお願いした本書の編集担当の「ふじさん。」ふじさんの試みは大成功で、読者にはそれが夢の実現の仕方となって「自分だって頑張れば」と思わせるような、作者からのエールに等しいものとなっている。

加えてお勧めの英語学習教材やアプリ、専門学校で学ぶことについてのエッセイも書かれている。もっと具体的な例では週割のやることリスト、シャリの重さを体で覚えるためにラップで包んで持ち歩いたこと、握りの自宅練習で魚の代わりにベーコンやたくあんを利用したことなど、大きな「夢」を実現するための「やること」を細かく落とし込んで実行してきた方法がかわいらしいイラストと共に紹介されている。そうして読者自身の夢実現に応用できるようになっている。

 

 

「準備段階ではとことんネガティブに考える」chikaさんだが日々の生き方は前向きだ。それがコミックからもよく伝わってくる。誰かからの何気ない一言を聞いた時、友人の立ち位置を知った時、その人の人生観や感謝を素直に感じ取る姿が、いつも笑い顔のカモメのイラストとあいまってとても楽しい。そう、笑い顔がトレードマークだからこそこのエッセイは一層楽しいのだ。

 

そして本書は擬音語と擬態語がかわいらしく書かれているのも特徴である。繁忙期の寿司店で握りを出す時には「シュバババッ」、chikaさんが一目惚れした男性は「ぺかー」と輝き、彼に声を掛ける前のchikaさんの鼓動は「ドッドッ」と音を立てる。「オヨヨヨ」と慌て、不安のあまり泣く時は涙を「みょーっ」と流す。この音の表現が絵をより生き生きとさせている。同様の面白さがある東海林さだおさんの『丸かじりエッセイシリーズ』を思い起こさせる。

夢を追いかけるあなた、夢を追いたいけれど霧の中にいるあなたにぜひ読んで欲しい。

 

週末北欧部

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図書紹介『北欧こじらせ日記 移住編』

2022-11-16 18:08:01 | コラム

本ブログのタイトルは「ぎょうてんの仰天日記」だからという訳でもないけれど、今日は日記をご紹介。

週末北欧部chikaさんの『北欧こじらせ日記 移住決定編

 

作者のchikaさんは大阪出身の女性。会社員を経て現在はフィンランドのヘルシンキで寿司職人として働いている。北欧、とりわけフィンランド愛をこじらせてしまい「フィンランドで生きるため」に寿司職人の道を選んだ。本作は20歳の旅行でフィンランドに恋をして就職や社会人生活を通じて自分の夢を実現するまでの日々をつづったコミックエッセイだ。(移住後は現在もツイッターで連載中。)

 

夢を実現する話は世にゴマンとあるだろう。chikaさんは「フィンランドで生きる」から始まり、最初の就職先の倒産と次の就職を通して「自分の夢を守る力が欲しい」「世界のどこにいても自分らしく生きるため」「日本人の強みを生かせる仕事」として寿司職人の職を選ぶ。夢への道は一本道ではない。寿司職人養成の専門学校に申し込んだところ学校側の事情で講座が開校されなかった、途中で中国への転勤、入院など様々な寄り道もした。最終的な夢は明確だけれど最短距離でない、時には夢であるはずの北欧が自分を苦しめることにもなってしまったりもする。

そんな葛藤を持ちつつもchikaさんは夢とその手段をより明確にし、具体的なものに落とし込みながら夢へと一歩また一歩突き進んでいく。それは専門学校への入学であったり、英語のオンライン講座、はたまた自己分析本の活用など様々で、その度にchikaさんは「ムムム」と考え実現の道を見つけ実行していく。

 

(「図書紹介『北欧こじらせ日記 移住編』2」へ続く)

 

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モイセーエフバレエ団来日公演2

2022-11-04 20:46:55 | コラム

ロシア舞踊の「夏」もメキシコ、ギリシア、スペインの舞踊もどれも素晴らしく、美しさ見事さに夢中になった。YouTubeで数えきれないほど見てきた舞踊の数々が目の前で繰り広げられる。見慣れてどこが見せ場かも覚えているほどなのに、実際に見ると迫力がやはり違うのだった。足音、音の大きさも効果的に響いてくる。自分がその場にいることの嬉しさ興奮。会場からの拍手や手拍子も気分を盛り上げる。2年越しの願いがやっと叶い、その場にいることの喜び。何とも言えない気持ちだった。

 

しかしそんな中でもやはり時局の暗さは影響した。2年前既に発表されていた演目であるけれど「ヤーブロチコ」は少なからず複雑な思いで観た。これは水兵の群舞で踊り手は軍服を着る。とても勢いがあり見事で男性の群舞の良さが表現されている踊りではあるのだけれどウクライナ侵攻中、これはない方が良かったのではないかと思った。私の拍手もとてもとても控えめなものになったし、会場では拍手自体しない人もいた。そうはいっても国立のバレエ団としては公演のラスト定番にもなっているこの演目を敢えて外すわけにもいかなかったのだろう。

 

定番になるほど盛り上がる「ヤーブロチコ」は確かにラストとして効果的で盛り上がった。会場からの大歓声とスタンディングオベーションが起きてこちらの心が痛むほどに。この演目がラストでなく公演の中盤なりであれば、あれほど心は痛まなかったであろうにラストであったのは時局を考慮すると何とも言えず複雑な苦い思いが込み上げてしまう。

 

団員の中にはSNSに「戦争反対」を目立たない形で投稿する人もいたことを私は知っている。(下手に戦争反対を打ち出せば危険な目に遭う。)団員が笑顔で踊り切ったのは当然で観客は、とりわけ戦争反対の人は公演の素晴らしさに拍手したのであって、軍服に象徴されるものへ拍手をしたのではない。それだけは確かだ。素晴らしい踊りと振付だった。イーゴリ・モイセーエフが生み出した芸術に拍手と感謝をしたい。

 

初日公演後にNHKでは日本語とNHKワールド(英語)の二つで同公演を報じた。「理解の一方反発も」と。日本国内のみならず、英語報道があったという事は海外への説明というか釈明なのだろうか。一方、ロシア国営放送(政府系)でもこの日本公演は放送され、興奮気味の特派員セルゲイ氏による「観客でロビーはいっぱい」「近隣のホテルは芸術を愛する人の予約でいっぱい」的な報道がされているようである。奇妙なことにこの報道から帰国便の空港チェックインまで団員によるSNS投稿は一時ほぼ中断していた。それまでは「(観光で)渋谷のスクランブル交差点を渡ったよ!」的な楽しい投稿が見られたのに。バレエ団への脅迫でもあったのだろうか。もしそうなら大変残念なことだ。27年ぶりの公演でもともと日本での知名度がそれほどなかったのに妙な形で脚光を浴びてしまった。これからは別の形で注目されて欲しい。

NHK報道 ロシア国営放送報道

画像出典:モイセーエフバレエ団 2022年日本公演  

(見出し画像は舞踊絵画「サッカー」)

カルムイク人の踊り(カルムイク・ダンス)

メキシコ舞踊組曲「サパテオ」「アヴァリュリコ」

ギリシア舞踊「シルタキ」

ベラルーシ舞踊「ユーロチカ」→あちこちに色目を使い過ぎて結局誰もゲットできなかった男性の話(面白かったw)