(スポーツドクター 辻秀一さんの講演会レビューです)
その日の私は体調不良ほかストレスの暴風雨の中にいた。感情が自分を乗っ取ると良い成果は出ないことをもちろん知っている。これまで様々な本を読んだりマインドフルネスや禅も学んだりしたけれど道半ば。感情に乗っ取られることもまだまだ多い。講演の日もまさにそんな状態で、辻秀一氏が提唱する「ごきげんの海」に移行する必要性を誰よりも感じていたので「待ってました」とばかりに会場へ(体を引きずるようにして)向かった。
辻氏はなぜ「心とパフォーマンス」「心を整える」ことを扱うようになったかを丁寧に説明した。その理由のひとつは「Quality of Life(生活、人生の質)を決めるのは心」であることに気づいたこと、また言及されたようなご本人だけでなく参加者の多くもオウム真理教事件などが問題となった90年代を知る世代だったこともあるだろう。この世代にとり内観や「心を整える」はある種の警戒心を伴う言葉だ。さらに現代がスマートフォンにより外界と過剰に接着した「認知が暴走している状態」ということも理由にある。
講演は大きく二つによって構成された。「攻めのメントレ ~セルフマネジメント~」と「守りのメントレ ~自己存在感~」そのどちらにも共通しているのは自分の心(感情)をしっかり見つめることだった。「攻めのメントレ」ではライフスキルの思考として以下の8項目が挙げられた。
・感情に気づく
・ご機嫌の価値を考える
・「今を生きる」を考える
・「一生懸命は楽しい」と考える
・ありがたいと考える
・自己ツールを大切にする
・好きなことを考える
・目的を考える(内発的動機)
「感情に気づく」はまずは自分が今どんな感情にあるかを見つめ言語化して気づくことだ。言語化して気づくことで対応することもできるだろう。自分の感情を言語化することができない人が結構いるとのことで、これには驚いた。(「ボーナスをもらった時」と答える人もいるそうでかなりショックを受けた。このように答えた人の職業や属性に大変興味がある。)
「ありがたいと気づく」私はこの言葉を多くの本の中に見つけている。感謝することの重要性はわかるようでいて、しかしこの文脈で語られる時にはいま一つよくわからないものだった。道徳的な重要性はともかくなぜこの文脈で感謝することが大事なのだろう?辻氏は「他人に何かをしてもらった時に『ありがとう』と言いなさいと私たちは習うけれども、何かしてもらわなくても『ありがとう』という。『ありがとう』という時にはまず自分の耳にそれが聞こえる」つまり『ありがとう』と言うことで既にあるものに対して、または自分を取り巻くすべてを前向きに積極的にとらえる姿勢ができるということなのだろう。もしこの理解が正しければ私は「ありがとう」の意味と力を明確な形で捉えることがようやくできたようだ。これは私にとって大変幸せでそれこそありがたいことだった。
(「ごきげんになりたい 2」へ続く)
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