さてこのコラムの最後をどうしようか色々考えた。ここではロシアのテレビを見た(正確にはYoutubeで流された)感想をまとめよう。日本でいう「あなたの夢かなえます」のような「大統領が子供の夢をかなえます」の番組があることをYoutubeで知った。見ると「難病を抱えた男の子を大統領府にご招待あるいは大統領専用機に乗せる」「目の不自由な女の子に『面白い人物』のインタビューを設定してあげる」のような「ロシアの慈父」的設定に基づくサンタクロース番組で、見ていると「どこの独裁国家だよ」と言いたくなるような番組である(ロシアなんですが)。
番組の構成はこうである。子供たちが自分の夢を語る映像がモニターに映し出される。それを見たプーチン氏が「うん、『面白い人物』を探し出してこの子にインタビューさせてあげるんだ。」と言い、番組制作者が「4時間かけて議論をした結果」プーチン氏へのインタビューを実現させる、という具合である。大統領はどの子の夢を選定するかまで時間をかけられるほど暇なのか、4時間もかけてプーチン大統領へのインタビューに決定したって本当かとか、無邪気でない大人からすると突っ込みたくなるような番組だが面白い点もある。
男の子が「大統領と握手がしたいんだ。だって国のために尽くしてくれてるんだもの。」と言うのを聞いた瞬間プーチン氏は「こんな風に言われるとは思いもしなかった。」と思わず泣き出しそうな顔をしてしまうシーンが映し出される。それを見た瞬間こちらが思ったのは「この人大丈夫か?」である。この番組に出演しているのが本人なら(影武者がいることは本人も認めている) 自分が演出した番組に自分で泣いているのではないか。そのような心配がよぎったのだ。おだてに囲まれていると自分を見失いかねない。しかももう20年もその世界にいる人間はどれほど気をつけていても飲み込まれてしまうか、過剰な疑心暗鬼に陥ってしまうのではないかと。アガサ・クリスティーがミス・マープルに言わせているが「歳を取ると他人から何気なく言われる「すごい」を聞いて人は自分が恵み深い王になったかのような気持ちになる」らしいので。
しかし世界平和のためにはロシア大統領が「恵み深い王」になることは重要ともいえる。今回の調査でどうもプーチン氏は憧れを抱いていたヨーロッパに「裏切られた」ことにより対立を深めたり、ロシア国内の愛国主義を利用しようとしているらしいと各国の専門家に分析されていることを知った。愛国主義的な暴走族「夜の狼」のリーダーを「愛国的な教育をした」と表彰するなど何だか心配な動きも報道されている。
私はここでイギリスのとある新聞記事を思い出す。報道によると数年前、ヨーロッパのある「首長(chief)」がプーチン氏に「今あなたには愛があるか?」と聞いたらしい。「誰かを愛しているか?そしてその誰かはあなたを愛しているのか?」ということだそうだ。問うた人物についてプーチン氏は特定していないもののイタリアのベルルスコーニ元首相だという説が有力だとか。もっともこれはプーチン氏特有のイメージ戦略なのかもしれない。「自分は孤独にも打ち克つタフな男だ」とか再婚に向けての地盤作りだとか。
イギリスの新聞によると元妻はかつて東ドイツ駐在時代友人にプーチン氏のことを「吸血鬼」と評していたらしい。同氏が献血に熱心だという話は未だかつて見たことも聞いたこともない。となると外見、仕事、性格のことだが1番目はともかく、2番目の仕事をスパイが妻に言うことは考えにくい。3番目であるなら夫婦仲は1985~1989年の間に既に冷めていたことになる。夫のことを「吸血鬼」とは穏やかでないが2013年まで結婚生活は続いた。
ベルルスコーニ氏が心配するのもむべなるかな。
ここで私の心は遠いモスクワに向かう。相手は件の31歳下の女性である。
「プーチンさんのこと愛してあげてね、心から。」
「世界平和のためにできること」を問われ、「家に帰って家族を愛してあげて下さい。」とマザー・テレサも言っているではないか。