曹達記

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「大怪獣のあとしまつ」感想

2022-02-05 16:57:00 | 特撮
Twitterを見られている方はご存じかもしれないが、自分は特撮好きである。
そのため見る映画は基本特撮映画で、東映の映画の比率が高い。
本作の予告編はこの関係でよく見ており、松竹と東映がタッグを組むという意外性、更に怪獣を扱うという話題ゆえに気にかけていた存在だった。
もちろん、「倒したあとの話」ということは事前に分かっていたので、劇的なドンパチは端から期待していなかったし、死体処理をめぐって右往左往する様を描くならギャグ方面に流れることも予想はできた。
またウルトラシリーズには同様のネタを扱った「怪獣の出てきた日」や「見えない絆」という佳作があるので、そこから映画スケールにどうネタを広げるのかという期待はしていた。

だが、公開当日のTwitterにて多数観測されたのは特撮ファンによる酷評であった。
多少気になっていたとはいえ、ここまでの酷評は中々に見ることができないものであったため、ならば逆に見てみようという気になってしまった。

結果、自分はあまりにも低級なギャグと、クオリティの低い特撮と、グダグダ極まるシナリオに苦しめられる2時間を体感することになった。

ならば、どこが苦痛だったのかを表現するのが文字書きとしての最大限の報復といえよう。
先述した三点に絞って話を進めていくことにする。


以下、ネタバレになります。






低級なギャグ

まず、怪獣という存在は現実にはいない。それを出すからにはどこまでがリアルで、どこからが嘘なのかをしっかり線引きしなければならない。
その点について、本作では自衛隊は登場せず、「国防軍」と「特務隊」が怪獣との戦いに従事したことになっている。
ここは設定でのリアリティラインをかなり下げる設定ではあるが、そこに出てくるメンツが揃いも揃ってコメディ寄りで共感に欠ける上に、作中の視点がぶれまくっているため、映画に必要な没入感が一切感じられない。
没入できない状態でギャグを繰り返されても、基礎を固めずに建物を作るようなものであり、上滑りという感覚がとても強くなってしまった。

そして、本作のギャグの大半は下ネタである。
下ネタでも笑えるものはあるだろうが、本作の大半が直接的なネタばかりなものだから、「よくこんなことを記者の前で言って政治家が務まるな」という気分にならざるを得ない。
特に環境大臣が転落して突き刺さるシーンと、モザイクのシーンは直視に耐えなかった。あまりにも辛い。
風刺ギャグもあるにはあるのだが、それすらも笑えるラインには達していない。
没入できない展開に合わないギャグを連発されたものだから、あまりにも低級なコメディとしか個人的には言いようがないのである。

あとこれは本質に関係しておらず、かつデリケートな話題なので直接書くことは避けるが、シン・ゴジラが匂わせる程度で済ませていたものをガッツリ描いているシーンがある。
個人的には、ギャグとしても許されないラインに一歩踏み込んでいるのではないかと思わざるを得ない。
そもそも、リアリティのラインを引き下げているなら無理に出さなくてよかったのではないか。しかも三度も。


クオリティの低い映像


次に触れておきたいのが、映像としてのクオリティである。
本作はリアリティの低さが目立つのだが、それを補えるだけの映像の面白さがあればまだ良かったのではないかと思う。
しかし実態は、映像としての面白さすらもない。

まずは怪獣について。
勿論、若狭新一氏による造形は悪くないのだが、死体として映るシーンしかない。
無論仕方ない面もあるのだが、如何せん封鎖地域というだだっ広い野原に死体が転がってるシーンしかないので、怪獣に必要な「日常の破壊」という部分が全く描けていない。
どうせなら東京のど真ん中で死体として転がってた方が絵的に面白かったはずだし、なによりシン・ゴジラのパロディとして良質なものになったはずだ。

そして、輪をかけて問題なのが各種作戦の描写だ。
どれも映像として面白いものを作る!という気概に欠けているような代物で、「え、これで終わり?」という感覚に終始苦しめられた。

最初に描かれた国防軍による冷却作戦は、失敗すること前提のものだったので、描写が簡単でも仕方がない面もある。
ただそれにしても、凍結した死体の絵を出すだけで終わりというのは酷い。
一方向からの視点のみでマルチアングルすらないのだ。個人的にはあまりにも手抜きな画作りとしか思えなかった。

次に描かれた特務隊によるダムバスター作戦。これが本作における主人公サイドメインの作戦といえるのだが、こちらも映像は手抜きとしか言いようがない。
ダムに光でグリッドを引いて爆薬を仕掛ける映像や、濁流が怪獣にかかる映像自体は悪くないのだが、肝心のダムが崩壊する映像がないのである。
策略でダムの構造計算に失敗し、爆薬が足りず水がチョロチョロ出るだけという映像はある。
それなのに、結果としては下流に濁流が行くにもかかわらず「爆破に成功して見事ダムが崩壊!」という映像がないのだ。
たとえその結果が失敗だったとしても、笑いを造るために一時的な話の熱さは必要なはずだと、個人的には思う。

最後の排煙作戦はミサイルを迎撃する、という一捻りが加わっていたので前二つよりはマシだったが、それでも映像としては動きに欠けるものであった。
総じてどれも、作戦をやるというワクワク感がまるで足りない。
個人的な感覚だが、ギャグとして失敗した結果を見せたいなら、そこに至るまでの部分で盛り上げておく必要が十分あるのではないか?
映像面でその辺の盛り上がりを得ることは、自分はできなかった。


グダグダ極まるシナリオ


最後にシナリオだが、男女関係が主軸ではある。
それ自体はさしたる問題ではないが、キツいのはキャラクターがことごとく魅力に欠けることだ。

まず主人公の帯刀アラタは、最後の最後で光の巨人であるという重大な秘密が明かされるためか、彼自身の内面は全く描かれていない。
この問題があるせいで、確かに要所要所では活躍をしてるし面白いことをしているものの、彼に対して感情移入することができなかった。
またコメディの主人公ならボケかツッコミのどちらかはやってもらわないと困るのだが、彼はどちらもしない。そのせいで余計に没入感が得られなかった。
どうしてこの主人公で良いと思ったのか、製作陣を問い詰めたい気分である。

雨音ユキノと雨音正彦は、確かにこの作品の中では数少ないまともなキャラである。
しかし、彼らは異常な行動をする他のキャラに対して何もツッコミを入れない上に、平然と不倫をするものだから、やはり感情移入が難しい。
特に後者は独自の思惑で動いている面もあるせいで、余計に何を考えて行動しているのか分からなくなってしまった。

そして、特務隊関係者(とブルース)以外の大半のキャラは倫理観がおかしいとしか言いようがない。
画面に出る度に下ネタショートコントを繰り返す(上に面白くない)ものだから、単なるストレス要員である。

このような魅力に欠けるキャラクター陣に、シナリオ展開の稚拙さも追い討ちをかける。
複数の視点で二転三転することで情報量を増やすという手法は嫌いではないのだが、如何せん出てくる情報が薄味な上にリアリティに欠けているから、方向性がぶれているようにしか思えない。
特務隊が首相直属で国防省配下の国防軍と権力争いをしており、そこに環境相が個人的思惑で引っ掻き回そうとするという、政治ドラマの筋書き自体はコントとしても良さそうなのに、設定とキャラにリアリティが無さすぎて全てが台無しにされているのだ。
これなら、話の視点を一つに絞った方がまだマシだっただろう。

しかも、話が前に進まないまま最後は「デウス・エクス・マキナ」の登場で死体を空にはこんで終わる。
あまりにも予想ができた上に悲惨な落とし方で、ここまでの努力を全て台無しにするものであった。
コメディだからでは許されないと、個人的には思わざるを得ない。


最後に


パンフレットによれば、covid-19による撮影中断の影響があったらしいことはわかる。
しかしそれを差し引いても、あまりに酷い代物であったとしか個人的には思えなかった。
ただ、オリジナルで怪獣映画を撮ったという松竹と東映の気概だけは評価して、本作に対する「あとしまつ」を終えることとする。


記事をお読みいただきありがとうございました。
感想等ございましたらコメントいただけると幸いです。
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