私が、今の場所に住むようになって35年くらいになります。
田んぼの中にポツンと建つ建売住宅を4軒が購入しました。
その後、1軒は引越しされてしまいましたが、我が家を含めた残りの3軒の家族は、現在もそこに住んでいます。
子供が小さい頃は、子供たちの年齢が近いこともあり、私たち3軒は、ずいぶん親しいお付き合いをしていました。
3軒が集まってバーベキューをしたり、お茶のみしたり、一緒に内職をしたりしました。
その後、私がパートに出るようになり、他の2軒の奥さんたちもそれぞれ働きに出て、私は、忙しさもあり、二人とのお付き合いは、疎遠になっていました。
お隣のSさんは私と同じ年、裏のMさんは、10歳年上です。
私たちはそれぞれ年を重ね、最初に裏のMさんが仕事を引退し、お隣のSさんも家にいるようになり、二人はずいぶん親しくしていたようです。
一緒に畑を借りて野菜作りをし、その後、近くの老人ホームに二人で勤めるようになりました。
畑に行ったり、仕事に行ったりするのに、二人はいつも一緒だったようです。
「あの二人は、いつも一緒ね~」
と近所の人たちが言っているのを聞きました。
そういえば、私も二人が一緒に歩いているところに出会うことがありました。
裏のMさんは、元気な威勢の良い人でした。
声も大きくて、さばさばしていて、明るい人でした。
何かあっても、
「大丈夫、大丈夫。何とかなるよ!」
と、笑い飛ばす人でした。
私は、仕事に出ていたため、普段あまり家にいなくて、顔を合わせる機会はめっきり減りましたが、それでもたまに姿を見かけると、
「最近、会わないけど、元気にしてる?」
と声をかけてきてくれて、私たちは、たわいもない立ち話をしました。
「今年もチューリップがきれいね。はーちゃんの家のチューリップで楽しませてもらっているのよ。」
とか
「クレマチスがたくさん咲いたね。いつく咲いているか、毎日数えているの」
などと、言っていました。
昨年の夏は、、実ったナスを見て、
「ホントによくできたね~」
と言っていました。
ナスの話をして以来、私はMさんには、会っていませんでした。
その時に、見かけたMさんが、以前より痩せて見えたので、
「あれ?痩せた?」
と聞いたところ、
「10キロ痩せたの。」
と言います。
「ダイエットしてるの?それとも具合でも悪いの?」
と聞くと
「年を取ると、あちこち悪くなるものなのよ」
と、いつもの元気な調子で答えながら、家に帰っていきました。
昨年の11月の始めごろでしたが、私がチューリップの球根を植えていると、近所のおばあちゃんが通りかかり、立ち話になりました。
その時に、おばあちゃんが言うには、いつもお隣のSさんと裏のMさんが二人で出かけるところを見かけていたのに、最近は、いつもSさん一人しか見かけないけれど、Mさんの具合が悪いのではないかと言います。
私は、二人が一緒にいないことも知らなかったし、Mさんが具合が悪いことも知りませんでした。
「えっ?そうなんですか?」
と逆に聞くようでしたが、
「いや、わからないけれど、最近、見かけないから具合でも悪いのかと思ったの」
と、そのおばあちゃんは、言います。
おばあちゃんと別れて、一人でMさんの事を考えました。
そういえば、最近、Mさんの大きな声が聞こえてこないなと、思いました。
そして、回覧板が回ってきても、Mさんのチェックが入っていないことを思い出しました。
回覧板に関しては、私もたまにチェックを入れ忘れることがあるので、てっきりMさんもチェックをし忘れているんだと思っていました。
色々考えると次々と思い当たることがあって、私はすぐにMさんと仲良くしているお隣のSさんの家に話を聞きに行きました。
Sさんが言うには、具合が悪いのは間違いないと言います。
Mさんは、9月の初めくらいから一ヶ月くらい入院していたと言います。
「でも、病院には来ないで欲しいと言い、それに、病名も一切言わないのよ。」
と。
「検査入院だと言っていたけど、検査で一ヶ月も入院する?」
とSさんは、言います。
そして、退院してきてからも、全く連絡はなくなり、一緒に仕事をしていた職場にも「辞める」という電話連絡をしただけで、Sさんには、一言もなく、一緒にやっていた野菜作りも一方的に「止める」と言ってきただけだそうです。
玄関のチャイムを押しても、反応はなく、電話をしても出ないということでした。
それは、Sさんに対してだけではなく、昔からお付き合いのあった人が訪問しても、一切玄関を開けることはないそうです。
Sさんは、共同で作った野菜が収穫できると、Mさんの分を家に届けるらしいのですが、外から声をかけても、反応がないと言っていました。
でも、野菜は、置かれたままになっているわけでもないので、使っているのかもしれないということでした。
「励まそうと思っても、Mさんが全然顔を見せないから、どうしようもないのよ」
とSさんは言います。
あの元気で勢いの良いMさんが、引きこもりみたいになってしまったなんて、びっくりでした。
ご主人は、とっくに亡くなっていて、男の子が二人いるのですが、長男は家を出ていて、現在、次男と二人暮らし。
病院へは、週に一度、長男が来て連れて行っているようだとSさんは言います。
その話を聞いて、初めてSさんの事が気になり始めた私は、たびたびMさんの家の方を見るようになりました。
すると、洗濯物を干している姿や布団を干している姿を見かけることが多くなりました。
以前の家は、私がベランダに出るとMさんとすぐに話ができるような位置にベランダがあったので、私たちはよくベランダ越しに話をしていましたが、今の家に建て替えてからは、私の家からMさんの姿は見えても、Mさんが私を見つけるのは難しくなっています。
なので、一方的に私がMさんの姿を見るだけなのですが。
そんなMさんの姿を見て、「外との交際は遮断してしまっているけれど、家の中では普通に家事をすることはできるんだな」と思いました。
退院をしているわけだから、体の調子は良くなっているけれど、心が病んでいるのかもしれないと思いました。
今年に入ってから、Mさんが散歩をしているところにばったり出会いました。
私は、なんと言ってよいかわからず、ただ顔を見て笑いかけました。
するとMさんは、
「今日はあったかいね~」
と言いながら、歩いていきました。
何事もなかったように、普通に私たちはすれ違いました。
「声をかけてくるくらいだから、心も元気になりつつあるな」と思いました。
そういえば、その頃は、回覧板もちゃんとチェックが入るようになっていました。
そんなことだったので、私は再び、Mさんの事をあまり気にしなくなりました。
昨日、散歩から帰ると、珍しくお隣のSさんがやってきました。
Sさんに会ったのは、去年の秋に、私がMさんの事を聞きにSさんの家に行って以来でした。
Mさんの事を聞くと、2月にまた入院したらしいということでした。
大学病院に入院したけれど、いずれは、お隣の市にある総合病院へ移ると言っていたということですが、どうやら、まだ大学病院に入ったままらしい。
「あまり状態は良くないみたいよ」
とSさんは、言います。
骨髄腫という病気で、骨がもろくなり、再入院のきっかけは、やかんを持っただけで、骨が折れてしまったそうです。
腕にボルトを入れて固定する手術をしたらしいのですが、たぶん、大元の骨髄腫の治療が進んでいないのではないかとSさんは言っていました。
そんなわけで、Mさんの家は息子さん一人しかいないし、その息子さんもほとんど家にいないので、回覧板のチェックは、Sさんがしていただけで、実際、Mさんの家では回覧板は読んでいないということがわかりました。
あんなに明るく元気だったMさんが、ここ半年の間に、身体も心も急変してしまいました。
いつものことだけれど、私は、知らなくてぼんやりだったなぁと、思いました。
ネットで調べてみましたが、難しい病気のようです。
私は、何もできませんが、Mさん一家の今後が気になるところです。
田んぼの中にポツンと建つ建売住宅を4軒が購入しました。
その後、1軒は引越しされてしまいましたが、我が家を含めた残りの3軒の家族は、現在もそこに住んでいます。
子供が小さい頃は、子供たちの年齢が近いこともあり、私たち3軒は、ずいぶん親しいお付き合いをしていました。
3軒が集まってバーベキューをしたり、お茶のみしたり、一緒に内職をしたりしました。
その後、私がパートに出るようになり、他の2軒の奥さんたちもそれぞれ働きに出て、私は、忙しさもあり、二人とのお付き合いは、疎遠になっていました。
お隣のSさんは私と同じ年、裏のMさんは、10歳年上です。
私たちはそれぞれ年を重ね、最初に裏のMさんが仕事を引退し、お隣のSさんも家にいるようになり、二人はずいぶん親しくしていたようです。
一緒に畑を借りて野菜作りをし、その後、近くの老人ホームに二人で勤めるようになりました。
畑に行ったり、仕事に行ったりするのに、二人はいつも一緒だったようです。
「あの二人は、いつも一緒ね~」
と近所の人たちが言っているのを聞きました。
そういえば、私も二人が一緒に歩いているところに出会うことがありました。
裏のMさんは、元気な威勢の良い人でした。
声も大きくて、さばさばしていて、明るい人でした。
何かあっても、
「大丈夫、大丈夫。何とかなるよ!」
と、笑い飛ばす人でした。
私は、仕事に出ていたため、普段あまり家にいなくて、顔を合わせる機会はめっきり減りましたが、それでもたまに姿を見かけると、
「最近、会わないけど、元気にしてる?」
と声をかけてきてくれて、私たちは、たわいもない立ち話をしました。
「今年もチューリップがきれいね。はーちゃんの家のチューリップで楽しませてもらっているのよ。」
とか
「クレマチスがたくさん咲いたね。いつく咲いているか、毎日数えているの」
などと、言っていました。
昨年の夏は、、実ったナスを見て、
「ホントによくできたね~」
と言っていました。
ナスの話をして以来、私はMさんには、会っていませんでした。
その時に、見かけたMさんが、以前より痩せて見えたので、
「あれ?痩せた?」
と聞いたところ、
「10キロ痩せたの。」
と言います。
「ダイエットしてるの?それとも具合でも悪いの?」
と聞くと
「年を取ると、あちこち悪くなるものなのよ」
と、いつもの元気な調子で答えながら、家に帰っていきました。
昨年の11月の始めごろでしたが、私がチューリップの球根を植えていると、近所のおばあちゃんが通りかかり、立ち話になりました。
その時に、おばあちゃんが言うには、いつもお隣のSさんと裏のMさんが二人で出かけるところを見かけていたのに、最近は、いつもSさん一人しか見かけないけれど、Mさんの具合が悪いのではないかと言います。
私は、二人が一緒にいないことも知らなかったし、Mさんが具合が悪いことも知りませんでした。
「えっ?そうなんですか?」
と逆に聞くようでしたが、
「いや、わからないけれど、最近、見かけないから具合でも悪いのかと思ったの」
と、そのおばあちゃんは、言います。
おばあちゃんと別れて、一人でMさんの事を考えました。
そういえば、最近、Mさんの大きな声が聞こえてこないなと、思いました。
そして、回覧板が回ってきても、Mさんのチェックが入っていないことを思い出しました。
回覧板に関しては、私もたまにチェックを入れ忘れることがあるので、てっきりMさんもチェックをし忘れているんだと思っていました。
色々考えると次々と思い当たることがあって、私はすぐにMさんと仲良くしているお隣のSさんの家に話を聞きに行きました。
Sさんが言うには、具合が悪いのは間違いないと言います。
Mさんは、9月の初めくらいから一ヶ月くらい入院していたと言います。
「でも、病院には来ないで欲しいと言い、それに、病名も一切言わないのよ。」
と。
「検査入院だと言っていたけど、検査で一ヶ月も入院する?」
とSさんは、言います。
そして、退院してきてからも、全く連絡はなくなり、一緒に仕事をしていた職場にも「辞める」という電話連絡をしただけで、Sさんには、一言もなく、一緒にやっていた野菜作りも一方的に「止める」と言ってきただけだそうです。
玄関のチャイムを押しても、反応はなく、電話をしても出ないということでした。
それは、Sさんに対してだけではなく、昔からお付き合いのあった人が訪問しても、一切玄関を開けることはないそうです。
Sさんは、共同で作った野菜が収穫できると、Mさんの分を家に届けるらしいのですが、外から声をかけても、反応がないと言っていました。
でも、野菜は、置かれたままになっているわけでもないので、使っているのかもしれないということでした。
「励まそうと思っても、Mさんが全然顔を見せないから、どうしようもないのよ」
とSさんは言います。
あの元気で勢いの良いMさんが、引きこもりみたいになってしまったなんて、びっくりでした。
ご主人は、とっくに亡くなっていて、男の子が二人いるのですが、長男は家を出ていて、現在、次男と二人暮らし。
病院へは、週に一度、長男が来て連れて行っているようだとSさんは言います。
その話を聞いて、初めてSさんの事が気になり始めた私は、たびたびMさんの家の方を見るようになりました。
すると、洗濯物を干している姿や布団を干している姿を見かけることが多くなりました。
以前の家は、私がベランダに出るとMさんとすぐに話ができるような位置にベランダがあったので、私たちはよくベランダ越しに話をしていましたが、今の家に建て替えてからは、私の家からMさんの姿は見えても、Mさんが私を見つけるのは難しくなっています。
なので、一方的に私がMさんの姿を見るだけなのですが。
そんなMさんの姿を見て、「外との交際は遮断してしまっているけれど、家の中では普通に家事をすることはできるんだな」と思いました。
退院をしているわけだから、体の調子は良くなっているけれど、心が病んでいるのかもしれないと思いました。
今年に入ってから、Mさんが散歩をしているところにばったり出会いました。
私は、なんと言ってよいかわからず、ただ顔を見て笑いかけました。
するとMさんは、
「今日はあったかいね~」
と言いながら、歩いていきました。
何事もなかったように、普通に私たちはすれ違いました。
「声をかけてくるくらいだから、心も元気になりつつあるな」と思いました。
そういえば、その頃は、回覧板もちゃんとチェックが入るようになっていました。
そんなことだったので、私は再び、Mさんの事をあまり気にしなくなりました。
昨日、散歩から帰ると、珍しくお隣のSさんがやってきました。
Sさんに会ったのは、去年の秋に、私がMさんの事を聞きにSさんの家に行って以来でした。
Mさんの事を聞くと、2月にまた入院したらしいということでした。
大学病院に入院したけれど、いずれは、お隣の市にある総合病院へ移ると言っていたということですが、どうやら、まだ大学病院に入ったままらしい。
「あまり状態は良くないみたいよ」
とSさんは、言います。
骨髄腫という病気で、骨がもろくなり、再入院のきっかけは、やかんを持っただけで、骨が折れてしまったそうです。
腕にボルトを入れて固定する手術をしたらしいのですが、たぶん、大元の骨髄腫の治療が進んでいないのではないかとSさんは言っていました。
そんなわけで、Mさんの家は息子さん一人しかいないし、その息子さんもほとんど家にいないので、回覧板のチェックは、Sさんがしていただけで、実際、Mさんの家では回覧板は読んでいないということがわかりました。
あんなに明るく元気だったMさんが、ここ半年の間に、身体も心も急変してしまいました。
いつものことだけれど、私は、知らなくてぼんやりだったなぁと、思いました。
ネットで調べてみましたが、難しい病気のようです。
私は、何もできませんが、Mさん一家の今後が気になるところです。