「おかえり」に固まる

私の家は、私たち夫婦と息子の３人で暮らす小さな３ＬＤＫです。
１階がそれぞれの部屋になっていて、２階がリビングダイニングになっています。
私たち夫婦は、１階の部屋は寝るだけなので、外出から帰るとすぐに２階のリビングへ行くのですが、息子は外出から帰るとすぐに自分の部屋にこもります。
２階にはお風呂があるので、息子はお風呂に入るときや自分が何か調理して食事をしたい時は２階に来ますが、それ以外はよほどの用事がない限り、２階に来ることはありません。
息子と食事をすることなんて、月に数えるほどしかありません。

息子の仕事は、３交代制の勤務なので、夜勤もあります。
午後から出かける時もあり、夜中に出かける事もあります。
息子は、外出する前にお風呂に入るので、家を出る時間によっては、私たちが寝ている間や仕事に行っている間に２階に来て、お風呂に入ったり、食事をすることも多いので、狭い家なのですが、１週間以上息子と全く顔を合わせないこともあります。
息子が今の仕事に就いてから十数年経ちますが、息子との関係はずっとそんな感じで過ぎて行っています。
元来はおしゃべりな子なので、たまに顔を合わせると、何だかんだと持論を展開して、ついていけない話を延々とすることがあるので、それには参りますが、同じ家に住みながら全く別の生活をしている私たちと息子です。

先日の事です。
私が仕事から帰ると、息子の部屋に電気がついていました。
私たちは息子の部屋の電気で、息子が部屋にいるとか起きているとか寝ているとかを判断します。
朝、私が出勤する時も家にいたようなので、今日は休みなのかな、それとも夜勤なのかなと思いながら２階のリビングに行きました。
一段落してパソコンの前に座っていると、息子がリビングへやってきました。
そして、私の姿を見るなり
「おかえり！」
と言いました。
私は、その一言に固まってしまって、すぐに返事を返すことができず、しどろもどろになってしまいました。
おかしいでしょう？
普通は、「おかえり」と言われれば「ただいま」と言えばよいのですが、息子から「おかえり」なんて言われたことは、いまだかつてなかったような気がするので、固まってしまいました。

あまりに突然で意表を突かれました。
もちろん息子がわざわざ「おかえり」を言うためにリビングに来たわけではなく、たまたま自分の用事で来たら私が居たというだけの話ですが、息子がそのような言葉を発することは、いまだかつてなかったので、戸惑ってしまいました。

そんなことで、息子と私たちの関係がわかるかもしれません。

でも、最近息子も変わってきたなと思うんです。
たまに顔を合わせたときに、
「やりっぱなしにしないで欲しい」
とか
「これは、こうして欲しい」
などと息子に対するクレームのようなことを言っても、素直に「はい」という返事が返ってくることが多くなり、主人もびっくりしています。
もうすっかり良い大人なので、当たり前の事なのですが、息子もやっと社会人になってきたのかなと思う今日この頃です。