著者のグレーアムはスコットランド出身(1859-1932)。幼い頃母を亡くし、家庭に恵まれませんでしたが、一時期暮らした祖母宅の周辺が自然に恵まれた土地で、この「たのしい川べ」の原風景になっているようです。イギリスで学び、就職した際、イギリスの偉大な文学者や作品と出会い随筆を書くようになります。やがて銀行へ就職、出世し、41歳で息子に恵まれ、この男の子が幼い頃に話して聞かせたヒキガエルのお話が、この本の元になっています。(訳者のことばより要約)
* * * あらすじ
お話は、モグラが自分の家を掃除中に、春の気配にうずうずして外に飛び出すところから始まります。なにもかも素晴らしく感じて浮かれているところで、川ネズミに出会い、ピクニックに行ったりして仲良くなり、2人は一緒に暮らし始めます。
そこでモグラはアナグマやヒキガエルに出会い…という、おだやかな川べの暮らしを描写したお話のようでいて、トラブルメーカーのヒキガエルが行く先々でたいへんな事態を巻き起こし、意外と起伏があって楽しいお話です。
* * * モグラと川ネズミの気になる関係
訳者の石井桃子さんが、主役はモグラと川ネズミとおっしゃっているように、心理描写が丁寧だったり、美しい自然描写の場面は、ほとんど川ネズミとモグラが登場するシーンです。
私は、このふたり(と言わせて)が、初めてカエルの付き添いで馬車の旅に出たときのワンシーンがすごく好きなので、覚書しておきます。
以前読んだ岩波少年文庫ではなかった馬車の旅のカラー挿絵。後ろでモグラもかいがいしく働いています
勝手気ままなヒキガエル(金持ちで、馬車の持ち主)と、旅をしてみたいモグラ、モグラの希望を叶えるため、しぶしぶ同行した川ネズミ、という構図。出かけたはいいけれど、ヒキガエルはわがままで不遜だし、ネズミは川が恋しくてなりません。そんな旅先での夜、寝床でモグラが川ネズミにささやきかけます。
モグラは、毛布の下から手をのばして、暗やみのなかでネズミの手をさぐりあて、ぎゅっとにぎりしめると、ささやきました。
「ぼくは、きみのしたいようにするよ、ネズ君。ぼくたち、あしたの朝早く―うんと早く―逃げ出して、あのなつかしい川の家へ帰ろうか?」
川ネズミは、「そういってくれて、ほんとにありがたい」と応えますが、ヒキガエルが危なっかしいからおしまいまで見届けようよ、どうせそんなに長くはかからないよ、と眠ります。
お互いが気持ちを尊重し合ったり、友だちのために我慢するなどの心の機微を意外なほど細密に描いていて、すごくいいなと思います。ほかにも、おまえ(ヒキガエル)の世話は本当に面倒だと言いながら放っておけない感じとか、行き届いた心理描写やセリフまわしが読んでいて楽しかったです。
* * *
後半もドタバタありながら、最後は大団円です。カエルが洗濯ばあさんに変装するなど、なんだか変な話なのですが、子どもに話して聞かせたオモシロ話と思えば納得できます。これをちゃんと絵にしたE・H・シェパードさんは偉い(クマのプーさんのさし絵画家でもある)。夢と現実の区別がついていないような、4~5歳くらいの子が、とくに喜ぶお話ではないかしら。でも、細かな自然描写や関係性を楽しめるのは大人だろうとも思います。
* * *
最後の5行も、とても愛おしい文だったのでメモしておきます。(内容も好きですが、言葉の響きが好きなんだと思います。)
けれども、子どもたちがすねて、まったく手におえなくなると、母親イタチは、もしおとなしくして、いい子にならないと、あのこわい、うす黒いアナグマが、つかまえにくるよといって、だまらせるのです。
アナグマは、社交というものこそこのみませんでしたが、子どもは、すきなほうでしたから、このことばは、中傷もはなはだしいといわなければなりません。けれども、とにかく、このことばのききめは、満点なのでした。
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