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花日和 Hana-biyori

読書会 #1『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』

5/27にコーマック・マッカーシーの『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』のオンライン読書会に参加しました。参加者は久々にフルメンバーの7人。そのときの貴重なコメントを簡単にまとめるのが難しく、分割して長々記録しておくことをお許しくださいませ…。

***【ネタバレありです】※太字にしたのは私

●きなさん

2007年の出版で16年前、当時すごく熱中して読んだはずなのに記憶にない。でもシガーのイメージがやっぱり映画のハビエル・バルデムで。小説でははじめのほうに「青い眼」、後半で「しまった体つきの浅黒い中年男」と平凡なことしか出てこないのに、映画のハビエル・バルデムの非情なイメージが強くて映像の力ってすごいなと思いました。

ただ、文章を再読してやっぱりうまいなと。映画を見たとき原作を先に読んでいて、映画はとても良かったけど、原作のこの寂寥感は、やっぱり文章でなければ出ないんだろうなと当時も思ったことを思い出しました。

シガーという絶対悪に対してベルという男の、敗北を認めてなお生きていく強さを描くところが、やっぱり文章の持つ力、アメリカ文学の良さ。

そのベルがパートナーである奥さんを呼ぶとき、名前のロレッタのときもあるし、女房、妻、姫と、その時々で使い分けているのがとても好みだった。おそらく原作では「ワイフ」のはずなので、そうした塩梅も含めて黒原訳の素晴らしさを改めて感じました。

それと、主になる男3人の3人とも子供を持っていない。子供というものがいないという点にも何か意味があるのかないのかと思ったり。

3人の男のうち他の2人はヘテロセクシャルとして書かれているが、シガーは性別が男でなくてもいいような感じ。ただ運命のような存在として描かれているのかなと。

あと、会話の中にカギ括弧がないっていうのは本当に読みやすくて。そういえば、源氏物語など平安時代の日本の文学ではカギ括弧も句読点もなかった。源氏物語なんかは特に誰が何を言っているかも分からない。誰がこの人に何を言っているんだろうなって推理していくようなところから始まる。

調べてみたら句読点が導入されて定着していったのは明治中期頃のことだそうで、まだまだ歴史としては新しいのかなと。

読み直してみて本当に良かったと思いました。ありがとうございました。

 

●yuiさん

最初は読みづらかったので、集中して読もうと。中身としてはドロドロと人間臭いが、どこか淡々とした文章、雰囲気。

アクションものを文字でここまでリアルに想像させる、奥さんのとの関係も全部理解させる、その力ってすごいなと。当初は麻薬とお金の話だったけれど麻薬の方がちょっと薄れて、お金そのものの行方を追う展開になっていったので、どうなるんだろうとハラハラと読んで無事着地したという感じです。

あと、アメリカで退役軍人というのはやっぱり特殊な存在なんだなと、また改めて感じさせられました。

 

●八方美人男さん

私は確か、「血と暴力の国」を読んでいた記憶もあったが、全く覚えていない。こんな話だったんだというのを思い出しながら読んでいました。

なかなかやるせないというのが読み終えたときの印象。最初は数百万ドルのお金をめぐる話のようで、私的に逃亡者のモスを応援していた。しかし彼は守ろうとしていたものがことごとく守れいままで。どうにも言い表せない悲しさがある。

確かに心理描写はほぼ一切ない。“何をやっているのか”という表現をすごく意識しているのかなと。例えば77ページのシガーはズボンにさした拳銃を抜き、体の動きを変え…などそこまで細かく書く必要があるのかというところをあえて描き続けるところがすごく印象的。そういった描写を続けていくことで心理描写を入れないままその雰囲気を出していく。

モスが死んだ要因、あの辺りの決着のつけ方が、いわゆる読み物的な決着のつけ方ではないところもすごく印象に残っている。

保安官と殺人者と逃亡者の3人が主で、誰を中心に読めばいいんだろうな、というのがあまりよくわからなかった。よくよく読んでみると、各章の中に語りがあって、やっぱり保安官の話なのかなという感じがする。

句読点のことは私はあまり意識していなかったけど、そう言えばベルの一人語りのところは確かに読点がないんだなと。言われてみて今気づいた感じです。

 

#2へ続く

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