花日和 Hana-biyori

『赤い館の秘密』

『赤い館の秘密【新訳版】』 A・A・ミルン/訳 山田順子/創元推理文庫


田舎の屋敷で起こった殺人事件の謎に迫る推理小説。「くまのプーさん」のミルン唯一の探偵推理ものだそうです。正直、ミステリは苦手なのほうなので最初は読むのに苦戦(そんなにややこしい話でもないのに)していましたが、中盤から引き込まれ楽しく読み終えました。

あらすじ> ある田舎の屋敷で一人の男が銃殺された。被害者は、館の主マーク・アブレットを15年ぶりに訪ねてきた、マークの兄・ロバート。遺体の発見者はマークのいとこで秘書のマシュー・ケイリーと、たまたま館を訪れたアントニー(トニー)・ギリンガム。状況から容疑者となったマークは行方不明になり、興味を持ったギリンガムは、館の客人で友人のウィリアム(ビル)・ベヴァリーをワトスン役に事件を調べ始める。

* * * ギリンガムとベヴァリーの仲良しぶりが楽しい

内容は、王道推理小説というべきでしょうか。ミステリー好きでたくさん読んでいる人には予測がついた結果なのかもしれませんが、私はちゃんとあっと驚きました。動機や行動にも納得したし、その皮肉な構造が面白かったです。

なにより探偵役のギリンガムとベヴァリーの仲良しぶりが微笑ましくてよかった。人が亡くなっているのに完全に楽しんで謎解きに取り組んでいる様はほのぼのするほどでした。ギリンガムはけっこういいようにベウァリーを酷使したりもするのですが、ベヴァリーに対する賞賛を惜しみなくしてうまいなコイツ…となります。ベヴァリーのほうでもギリンガムをかなり尊敬していて好きだとわかる描写がたくさんあり、楽しくニコニコできました。

例えば、ギリンガムが館に滞在すると分かったときなどのベヴァリーの反応。

「あなたもこの館に滞在することになったんだよね?」
ベヴァリーは心からいった。
「よかった。すてきだ」

「本気かい?」ベヴァリーはむしろおもねるように訊きかえした。ギリンガムに敬服しているので、彼にいてほしいといわれたことが誇らしくてたまらない。


ギリンガムがベヴァリーを褒め倒すセリフの一例がこちら。

「そのとおり。ビル、きみは天才だ」 ベヴァリーの顔がさっと紅潮した。

「すごいなあ」ギリンガムは感嘆した。「きみは、数いるワトスンのなかでも最高のワトスンだよ、ビル」ギリンガムは立ちあがり、ベヴァリーの両手を取って惜しみなく称賛した。「わたしたちふたりが心をひとつにすれば、できないことはないね」



事件を解明する最中、ふたりが明らかに楽しんでいますねというセリフがこちら。

ギリンガムは顔をほころばせてベヴァリーをみつめた。
「おやおや、ビル、きみって、食えないやつだな」
「だって、これはぼくたちの事件だ。少しばかり胸躍る経験をしたってかまわないだろ」

ギリンガムはまた低く笑い声をあげ、ベヴァリーの腕を取った。
「きみって、じつにすばらしい相棒だよ、ビル。きみとわたしとでなら、なんでもできそうだ」


まだまだありますが、これくらいにしておきましょう。並べてみるとなんだか素敵なコレクション的なものになりました。電子書籍ってマーカーの色ごとに一覧でみられるのが便利ですね。

 * * * 作者あとがきは必見

ミルンさん、実は相当な探偵小説好きで、発表当時(1921年)かなり好評を博したようです。しかしプーのほうが世界的に人気が出過ぎて、推理小説は要望はあったものの書けなくなったとのこと。ここに寄せたあとがきでいきさつを語っていて、さらに「理想の探偵小説」について熱く語っているのが面白い!ミステリ読みではない私でも、その熱い思いが伝わってきました。
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