残り5篇もつくりが凝っていて、すぐれた短編というとO.ヘンリとかモーパッサンくらいしか思い浮かばない私には、難解でありつつ新鮮な、歯ごたえのあるものばかりでした。
なかでも、「死を悼む人々」は、夫を亡くしたエメリンという30代の女性が父親に翻弄される物語で、しかしラストの彼女の決意には凄みがあり壮絶でした。
それと、この中で「おれの眼を撃った男は死んだ」というセリフがはっきり出てくる場面があり、あ、タイトルはここからか!と最初の話で驚いたとまくしたてたのが恥ズ。となりましたが、しかし冒頭の話も遠からずなんだよな…あらすじは違うけれど女性が身内の男性に利用されるという構造は似ているし。作者のなかで、このようなテーマ性を持っているのかなと思いました。
* * *
「われらはみなおなじ囲いのなかの羊、あるいは、何世紀ものうち最も腐敗した世界」も、独特の雰囲気で引き込まれました。舞台は16世紀のイギリス。孤児であり、かつて修道士だった年老いた書店主の男が、19歳のころ(1530年代)の修道院でのできごとを回想する物語。ヘンリー八世によるカトリック教会の弾圧を背景に、劇的な運命が描かれています。たまに現在にもどって、孤児の少年を看病する描写があるのがまた鮮烈でした。考えてみると、これも父と子の物語でもありますね。
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