青年の前に1人の老人がいた。青年と老人の間には1つのコインが落ちていた。老人は訊いた。
「そのコインの表はどっちかな?」
青年はコインを手に取り、探るように見つめた。コインには見たこともない絵柄が描かれていた。青年は言った。
「わかりません」
すると老人は、老人らしい笑い声をあげながらこう言った。
「ワシにもわからんわい。しかしそれはどうでもいいことじゃ」
青年は怪訝そうな顔をした。そして訝しがりながら、老人に訊いた。
「しかし、表と裏がわからないのは困りませんか?」
老人は少し驚いた顔をした。
「なぜじゃ?」
「だって、呼ぶときとか困るし、気になるじゃないですか」
すると、老人は少し微笑みながらこう言った。
「それはワシが作ったコインじゃ。しかしどっちが表かは決めとらん。どうでもいいと思ったからじゃ。しかし、君にとってはそうじゃなかったみたいじゃな」
青年は少しやりきれない思いを抱いた。それと同じくらい、納得感も感じていた。