二人がのんだコーヒ茶碗が
小さい卓のうへにのせきれない。
友と、僕とは
その卓に向かいあふ。
友も、僕も、しゃべらない。
人生について、詩について、
もうさんざん話したあとだ。
しゃべることのつきぬたのしさ。
夕だらうと夜更けだらうと
僕らは、一向にかまはない。
友は壁の絵ビラをながめ
僕は旅のおもひにふける。
人が幸福とよべる時間は
こんなかんばしい空虚のことだ。
コーヒが肌から、シャツに
黄ろくしみでるといふ友は
「もう一杯づつ
熱いのをください」と
こっちをみている娘さんに
二本の指を立ててみせた。
金子光晴
写真の喫茶店はコーヒーカップ、大中小が選べます。
いつも、中カップをオーダーしますが片手で飲めないくらい重く
飲んだ後はいつも満腹。
コーヒーは二杯目を注文したくなるくらいの小ぶりのカップで飲むのが
通かもしれませんね。
詩は大好きな金子光晴の「山之口獏君に」。