読んであげて 毎日新聞2016年6月9日 大阪朝刊より引用
文(ぶん)・安田夏菜(やすだ・かな) 絵(え)・中西(なかにし)らつ子(こ)
<おたまじゃくし?>
「おお、おまえ、なんで人間語(にんげんご)をしゃべってんねん!」
驚(おどろ)いて、口(くち)をあわあわさせている定吉(さだきち)。
池(いけ)のカエルや木(き)の上(うえ)のスズメが鳴(な)く声(こえ)は、ケロケロチュンチュン、ふつうに聞(き)こえます。けれど、おたまじゃくしの声(こえ)だけは、人間(にんげん)の言葉(ことば)のように聞(き)こえるのです。
「いえ、わては人間語(にんげんご)なんてしゃべってまへんで。あんた、さっき、そこでころんでゴンと頭(あたま)を打(う)ちましたやろ。その拍子(ひょうし)に、わてと『気(き)』が通(つう)じて、言葉(ことば)がわかるようになったんとちがいますか」
「そんなことが、あんのかいな。びっくりやな」
「まあ、これもなにかの縁(えん)ですやろなあ。それにわて、あんたに言(い)いたいことがおましたから、ちょうどよかったですわ」
「なんやねん」
すると、おたまじゃくしが大(おお)きな声(こえ)で言(い)いました。
「あんた、さっきわてのこと、ただのおたまじゃくしと言(い)いましたやろ」
「ああ、言(い)うたで。わては、めずらしい生(い)きものを探(さが)してるんや。どこにでもいる、めずらしくもないおたまじゃくしなんかに、用(よう)はないわい」
「今(いま)、めちゃくちゃムッとしましたわ。あんたかて、どこにでもいる、めずらしくもない、ただの丁稚(でっち)どんとちがいますのんか?」
定吉(さだきち)は、ぐっと言葉(ことば)につまりました。
「……えらい口(くち)のまわる、おたまじゃくしやな。たしかにわては、ただの丁稚(でっち)やけどな。いちおうは人間(にんげん)や。おたまじゃくしなんか、大(おお)きくなっても、ただのカエルやないか」
「ふふん、それは考(かんが)えちがいをしているね」
「な、なんやねん。その自信(じしん)まんまんな態度(たいど)は」
「あんた、わてをカエルの子(こ)と思(おも)うてる。それが大(おお)きなまちがいですわ」
「アホなこというな。おたまじゃくしはカエルの子(こ)って、昔(むかし)っから決(き)まってるわ」
「ハハハ、子(こ)どものくせに頭(あたま)が固(かた)いでんなあ。最初(さいしょ)っから、こう、と決(き)めつけてるから、ほんまのことが見(み)えませんのや。なにをかくそう、わては、おたまじゃくしとちがいまっせ」
「えっ、ほんならいったい、なんやねん?」
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