姫が今回心弾ませてボクの家にやってきたのは原宿・竹下通りに連れて行ってもらい、流行のファッションを確かめ、そのうちのいくつかを手に入れるためである。
冬休みに入って〝少女たちの聖地〟がどれほど込み合っているかは知らない。
知らないが、春休みでも夏休みでも、休みの日の竹下通りの賑わいというのは常に想像を絶していて、一度夏休みに入ったばかりのころに事前の偵察に出かけた時には朝のラッシュ時の満員電車にも負けないほどの混雑に遭遇し、身の危険すら感じたことがあって本当にびっくりした。
ともかく人波に続いて通りに入ったのはいいとしても、自分の意思では前に進むどころか列から離れて目の前の店に寄ろうとしても、流れの中から離脱するだけで力の限りの押しくらまんじゅうをしなければたどり着けなかったのだ。
遂にはハンドマイクを持った警察官が数人出てきて「落ち着いてください」とか「押さないで。ゆっくり」などと声を枯らす有り様だったのだ。
年の瀬のアメ横などもこれに類する賑わいだと聞くが、訪れる客層の執着度合いを比べたら、アメ横の大人たちと竹下通りの少女たちではどれだけの差がある事か。
さすがに姫の母親がその辺を気にして、竹下通りほどではないにしろそこそこに姫が憧れるブランドを扱う店が集まっている繁華街を探し出し、姫も渋々納得したのだった。
姫の父親も一緒に行くことになり、財布は一つあれば十分なのでボクはパスした。
一人残された妹君はいとこの若の家に行って一緒に遊ぶことになり、そちらに付き合ったのだ。
夕方、姫は笑いが止まらないといった風情で、満面のニコニコ顔で大きな袋を抱えて戻ってきた。
そしてボクの求めに応じて手に入れた品々を床に大事そうに広げて見せてくれたのだが、印象的だったのはそれを一言も発せず黙って眺めていた妹君の佇まいだった。
妹君には姫がお小遣いの中から12色ボールペンをお土産に買ってきたのだが、ほとんど関心は示さず、しかもこの直後に風呂に入る段になって母親に抱っこしてくれとせがんで怒られ、大きな声で泣き出してしまった。
いつもおねぇちゃんのおさがりを着て喜んでいる妹君だが、はしゃぎながら買ってもらったばかりの洋服を並べる姉の姿を見て、それなりの複雑な感情が湧いただろうことは想像に難くない。
自分はそういう境遇ではないのだと達観でもしているかのような沈黙の態度は5歳になったばかりの幼児のものなのか…
居間から風呂場までのわずかな距離であっても、母親に抱っこをせがむ気持ちは十分ボクに伝わった。
しかも、いつもまとわりついている母親とは日中一杯離れて過ごしたのだ。それだけだって十分に甘える資格はある。
ボクが思慮分別を欠いたことを姫に頼んだことが余計なことだったのだ。
姉妹双方に悪いことをしてしまった。反省している。
※見出し写真は昨日の午前中、両親と姫が出かけた後に色鉛筆でボクに描いてくれた絵