昼間の富士山や早朝の富士はよく写真に撮るが、夕方の富士を写した写真は多くない。
人恋しい夕方は富士の見える場所に出かけるよりも、赤提灯やネオンの灯に魅かれるからだろう…なんて書くと相当な呑兵衛のように聞こえてしまうかもしれないが、目の端にチラッと富士山を認めたとしても足が縄のれんをくぐろうとするのだから仕方がない。
昨日は午前中用事があって外出した帰り道、25分ほど歩いたのだが、冷たい北風にさらされて閉口した。
いよいよ木枯らし1号かと思ったが、風速は木枯しと呼ぶ要件の8m以上に達しなかったと見えて、何の音沙汰もない。
家に戻った後は北風を遮る南側のベランダに椅子を出して短パンに履き替え、音楽を流しながら日がな一日、本を読んでいた。
晴耕雨読じゃなくて‶寒風晴読〟ってところだ。
そして日が傾きかけ、短パンでは少し涼しいと感じるころになって、それまで揺れていた木々のこずえが静かになっていて、北風が止んでいることに気付いた。
それで4時を少し回る時刻だったが、ぶらりと散歩でもしてくるかという気になったのである。
お山がどういう風に見えているだろう…そういう期待もちょっぴりあった。
16:16 竜田姫の纏う淡い金色の衣に包まれる富士の山
秋の富士 日輪の座は しづまりぬ (飯田蛇笏)
16:19 夏至の頃は山の頂よりもずっと右側の丹沢山塊に寄った辺りに沈んでいた太陽は、今では富士の頂を通り越し、箱根連山の南の端から伊豆半島にかけての山なみに隠れるようになってしまった
にょっぽりと 秋の空なる 富士の山 (鬼貫)
小春富士 夕かたまけて 遠きかな (久保田万太郎)
16:38 日没12分前 谷を隔てた別の場所から眺めると、既に金色の光は消えて赤紫の色が勝り始めていた
身ぶるいを つく程清し 秋の不二 (正岡子規)