平方録

運慶という「天才彫刻家」に圧倒されてきた

上野の国立博物館で始まった「運慶」展を見てきた。

ボクは仏像彫刻が好きで機会があればよく見に行く。
寺を覗けば本尊に手を合わせたりもするのだが、彫刻として魅入られてしまいその場を去りがたいというような思いにさせられる仏像に出会ったりするのがたまらない。
これには2つの特筆すべき経験があって一つが国立博物館で展示されて大勢の人と一緒に見た奈良・唐招提寺の鑑真像であり、もう一つがぶらりと立ち寄った奈良・興福寺の客のいない国宝館で出会った阿修羅像である。

鑑真像は確か平成の大修理のさなかにやってきたように記憶している。
本堂に収まってしまえば見ることはできなくなるという触れ込みだったように記憶しているが、それが何と会場の真ん中のガラスケースの中に入れられたまま四方から眺められるように展示されていたから、人込みさえ気にしなければガラスケースにへばりつくようにして見ることが出来たんである。

中学生の時に井上靖の「天平の甍」を読んで感激して以来、唐招提寺と鑑真には一方ならぬ関心を抱いてきたのだ。
それがガラスケースの中とはいえ、極間近まで近寄れるのである。
等身大よりもやや小ぶりの座像だったのだが圧倒的な存在感で、発散されるオーラと言うのか、顔に刻まれたしわの1本1本が胸に迫ってきて泣きたくなるような気分を味わい、その場を去りがたくて他の展示物などロクに見ないで鑑真のそばに居続けたのだ。

阿修羅像は境内の国宝館でたくさんの仏像に交じって安置されていて、あまり目立ちもしなかったから他の仏像と同じように視線をやりながらゆっくり通り過ぎようとしたら足が動かなくなってしまったのだ。
というか、いったんは通り過ぎたのだが、どこからか「えっ行っちゃうのかい」というような声が聞こえたようで、また戻ってじっとタメツスガメツ見入り、もういいだろうとその場を離れようとするとまたあの「えっもう…」という声が聞こえて、それをだいぶ長い時間繰り返したのである。
阿修羅像も小ぶりの仏像で、目線よりやや高いところに置かれているとはいえ、これもまた実際よりも随分と大きく見えるのが不思議である。
鑑真像にはそのつもりで前に立ったのだが、阿修羅像は何気なく出会ったに過ぎない。
それだけに足が止まってしまったことに驚いたものだ。

前置きが長くなってこのままでは運慶にたどり着かない。

運慶の現存する作品は31点が確認されているようで、そのうちの21点もが展示された豪華版である。
それはそれで異存がないし、ありがたいのだが、ボクにはいささか多すぎた。
じっくり見るには時間が少なすぎるというか、そんなに気力が続かないんである。
まともに仏像と対峙できるのはせいぜい5、6体が限度のようである。少なくともボクはその程度だ。

その中で足が止まってしまったのが「無著菩薩立像」と「世親菩薩立像」の2体だ。
2mに迫る堂々たる大きさの像で、それだけで存在感を発しているのだが、その表情の描写は写実的でいてそれにとどまらず、深い精神性を漂わせてもいるようで静かに訴えかけてくるものがあるのがすごい。
しかも鑑真像のように四方から眺められるように展示されているから、後ろに回ってみれば背中も何事かを語っていて、これまた圧倒的な存在感なのだ。
よく見れば着物のしわのより具合や果ては着物の質感までが浮かび上がってくるような驚くべき像である。
これが木彫りなのかと呆れるほどなのだ。

ロダンは言うに及ばずミケランジェロも釘付けになって動けなくなってしまうのではあるまいか。
それと「八大童子立像」という作品群が並んでいて眺めていくと、童子の像と言いながら表情が随分と更けているなぁと思っている中に2つだけ、あぁこれは子供のあどけない表情に近いなぁと思ったのが2体あり、それも運慶作と分かって表現力の確かさに痛く共感し、感心させられた。

仏像の前に立つと自然と頭が下がり手を合わせる気持ちになるのだが、今回は仏像だらけというか、右を見ても左を見ても前も後ろも仏像ばかりで、手を合わせるより先に彫刻作品として見て回ってしまった。
無著さんと世親さんには興福寺に戻って北円堂が完成した暁に出かけて行って、もう一度お目にかかってこようと思う。その時は手を合わせて拝んできたい。
阿修羅にも再会したくなった。



左端が無著菩薩立像


平成館と本館との間に顔をのぞかせるスカイツリー


雲間から中秋の名月が……
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