平方録

江ノ島“異景”

例年のことだけれど、春でも秋でも連休の最中には鎌倉駅周辺をはじめとした中心部には、出来るだけ近づかないことにしている。
人いきれの中に飛び込んでいくようなものだし、道路は渋滞して駐車場と化してしまう。
遠出をしないで家にいるときなどは、周りを取り囲む緑の尾根筋をたどるだけで新緑は美しいし、春先と比べてとても上達したウグイスのさえずりなどを聴き比べながら歩いて行くのは、とても気分が良い。
途中で、ちょっと観光コースから外れたところの寺などを覗いてみると、別世界のように落ち着いたたたずまいを見せてくれていて、何か随分得をした気分になるのである。

同じく観光客が殺到するのが江ノ島とその近辺の湘南海岸だが、島内の狭い参道や水族館に近づかなければ、さすがに大自然の包容力は大きい。
少しばかり大勢の人が出ていても広さに紛れてしまって、人いきれするほどではない。
午後からパトロールを兼ねて江ノ島に出掛けてみた。
だが、大型連休初日の2日は普段の休日よりも人は多かったが、江ノ島に渡る橋の車の渋滞は半分ほどだし、同じく歩行者専用の橋も大勢の人が歩いてはいるが、ぎっしりの人、というわけでもない。
遠出をしている人が多いと見える。

大型連休を前にして、人気の高いシラスを提供する飲食店などは、水揚げがないのでやきもきしていたようだが、ようやく獲れ始め、胸をなでおろしていることだろう。
島内はもちろん、周辺の店は午後遅くなってからも人の列が出来ていたほどである。
波もなく穏やかそのものの江ノ島の沖合にはヘリを甲板に引っ張り出したままの大型巡視船が水難事故に備えて待機しているし、スクールなのか、同じ形をした小型のヨットの群れが、弱い風をどうにかしてつかもうと悪戦苦闘している。
こういう風も波もなく穏やかな日にサーファーの出番はないのだが、往生際が悪いというか、波もないのにボードを浮かべている奴らがいるのはご愛嬌というべきか。

江ノ島の防波堤と岸壁は太公望と呼べるのかどうか、それほどゆったりとは構えていないようにも見えるが、とにかく釣り人が釣り竿を林立させている。
島の裏側の平らでだだっ広い岩場の上には子ども連れも含めた大勢の人が出て、釣りをしたり、小さな子どもたちは陽に焼けて肌を赤くしながら、潮だまりの中に入り込んで生き物を探している。
初夏のやわらかな海風は気持ちよく、太平洋を渡ってきた空気はとても美味しい。


ひとつだけ気になることがあった。
堤防や岩場付近には真っ青な海の色に交じって薄汚れたピンク色の帯が漂っている。
潮の関係なのか、漂うだけでどこかに流れていく様子もない。
空も海も青一色に染まっている中に、この薄汚れたピンクは極めて異質である。
どうやら赤潮が発生したらしい。近寄ると動物が腐ったような匂いがして、せっかく美味しい空気を胸一杯に吸い込んでいたものが台無しである。
原因はいろいろあるんだろうが.釣り人が使うオキアミの撒き餌はまったく関係ないんだろうか。

かつて、茅ヶ崎在住の直木賞作家の高橋治さんと海の話をした際に、釣り人の撒くあのこませを蛇蝎のごとく嫌って、非難していたのを思い出す。
「だいたいだな、魚が泳いでいればあんなもの撒かなくたって釣れるんですよ。釣れないから撒くんだろうけど、魚がいないところにいくら撒いたって釣れるわけないんだ。そんな当たり前のことが分からないのかねぇ」と。
加えて「僕は潜りもやるんだけど、岩場の下あたりはオキアミのこませが積み重なっていて、その辺り一帯は海藻なんか生えていないんですよ。磯焼けって云うんだけど、そういうことを分かっていないんだな」とも。

磯焼けで一帯の海藻が死滅すると、海藻を食べて成長するアワビやサザエ、海藻に隠れて暮らす小魚たちの住処を奪うことにもつながる。
しかし、現実には1キロも2キロもの海岸線の岩場がすべてそうなるかというと、そんなに長く続く岩場もないだろうし、その下が磯焼けするというのはどれだけのこませを使ったらなるのか、よく分からないところではあるが、まったく影響なしというわけでもないだろう。
とにかく、何のためにこませを撒くのか、釣り人は考えた方がよさそうである。

だいたい太公望っていうのは釣れても釣れなくても、日がな一日、じっと釣り糸を垂れて魚がかかるのを待つ人のことを言うんじゃなかったっけ。
そもそも釣りというのはそういうもんだろうに。
プロのカツオ漁船なら魚探で魚を探し、最初だけ生きたイワシを撒き餌にして、あとは散水の水でごまかしてごっそり釣り上げる。
プロだって、プロだからこそ、魚がいるところを見つけて、最小の撒き餌で最大の効果が発揮されるようにしているんだ。
むやみに撒かなくたって成果は上がるのである。無駄に撒き散らしては環境に負荷を与えるだけだ。




船首には機関砲、後部甲板にはヘリが出されたまま待機している巡視船。背後の山影は箱根連山=江ノ島沖




江ノ島裏手の岩場には大勢の行楽客


青い空、青い海の中に薄汚れたピンク色の赤潮の帯が漂う


行楽客が憩う岩場の間にも、動物の腐敗臭を漂わせるピンクの帯が入り込む
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