機織川のほとり ここ新山さ 金蔵ていう正直ものぁいだっけど
いつだったか 宮内のまちがら商いの帰りみち
別所前あたりで 腕白やろこめら 大きな鶴一羽いじめったけど
金蔵 もございがって 財布はだいて その鶴助けだんだど
この「鶴の恩返し」の民話が生まれた山形県南陽市を訪ねた。
「夕鶴の里 資料館・語り部の館」という瀟洒な建物があり、ボランティアの語り部が昔ながらに物語を語ってくれるそうで、地元に伝わる民話を大切にし、広く伝えようという意思を感じさせる。
せっかくだったが語り部は頼まず、人形を使った映像で見て聞いたのだが、改めて見返してみると現代人が忘れてしまったような、心にしみじみ染み透る話に引き込まれてしまった。
帰りがけに、ここで編纂した民話集を買ってしまったほどである。
この物語に登場する金蔵は「機織りをしているところを覗かないでくださいね」という約束を破ってしまったばかりに、鶴に去られてしまうのだが、助けてもらったお礼に鶴が織った布は人手を経て再び金蔵のところに戻り、金蔵は出家する。
その珍しい布を納め、金蔵が出家した先が「鶴布山 珍蔵寺」。名前そのものが民話に由来したものになっている曹洞宗の禅寺で、室町時代の創建であるという。
雪深いことで知られる地方だが、例年の3分の1か4分の1しか積雪はないとはいえ、境内はひざ下までズボリとはまってしまうほどの雪の量である。
本堂に掲げられた「鶴布山」の額がやたら印象的であった。
ここから上杉鷹山で知られる米沢はすぐ隣である。
鷹山公と雪深さを除けばABCが有名だという。
Aはアップル、Bはビーフ、Cがカープ。そのCを食べに行ってみた。
付き出しから凝っていて、コイせんべいにコイボーン、ボーンは言わずもがなの骨、これは山形が産んだイタリアンの名シェフ奥山某の監修だという。そして卵を散らした吹き寄せ。
メーンに移って鯉こく、あらい、塩焼き、鯉節、薄造り、うま煮、鱗せんべいーというフルコース。
鯉を正面切って口にするのは初めてだが、偏見は消えましたな。
白味噌のみを使った鯉こくは上品でコクのある西洋料理のスープを思わせ、薄造りはふぐ刺しを連想させるほどに見た目も美しく、味も鯉の刺身とはこういう味なのかと知れるほどに脂もそこそこに乗って、「へ~」「ほ~」の連続でありました。
このほかにも、個人的には去年から続くルーツに関する事柄で、これについてはいつか改めて書くことになると思うが、事実は小説よりも奇なりーを地で行く劇的な展開を見せつつあるのだ。
不思議な空間に足を踏み入れた思いである。
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「鶴布山」の金色の文字の額が印象的な珍蔵寺
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鯉こく
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あらい
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珍しい塩焼き
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薄造り
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うま煮