平方録

シコのから揚げと高清水…そしてサクラ

ユキヤナギが咲き始め、日当たりの良いところに植えられたモクレンの蕾がほころび始めて、中から白い花びらがのぞき始めている。
わが家の周辺ではウグイスの鳴き声は日常になってきたし、他の野鳥たちのさえずりも活発になってきた。
まさに春爛漫に近づきかけているのだが、冬将軍の往生際の悪さにも困ったもので、真冬並みの寒さが戻ってきてしまった。
幸い晴れているからいいのだが、これが雨雲でもかかっていてポツリポツリと天から落ちてくれば、地上は真っ白に染まるところである。

晴れているから光は満ち溢れているのだが、やはり空気は冷たい。
今週は雨も降ったし、あまり身体を動かせなかったので江の島までぶらぶら歩いてきたが、ダウンジャケットを羽織って真冬と同じ格好なのが何か間尺に合わないような気がしたけれど、致し方ない。

江の島に渡る弁天橋の上は思いのほか人の姿が多く、さすがに江戸時代から続く観光地だが、聞きなれない言葉が飛び交っていて、鎌倉の隣に位置するだけあって世界的である。
歩数も1万歩に近づき、目的は身体を動かすことだったから、帰りはバスにしようと時間を確かめたら、25分後に1本あることが分かった。
バス停の近辺はサザエのつぼ焼きやらシラス料理など、海産物をメーンにした料理を出す店が並んでいて、いつもながら賑わっている。

それらの店の1軒に淡いピンク色の八重の花を咲かせているサクラがあって、その下にイスとテーブルが置かれている。
道路に面したところではサザエのつぼ焼きやら焼きトウモロコシなどが良い香りを放って、観光客を誘っているのだが、シコイワシのから揚げ300円という札を見つけてグラッとしてしまった。
時は正午少し前である。

サクラは満開ではないか。空は真っ青ではないか。空気は冷たいけれど光にあふれているからサクラの下で一足早い花見もオツである。
そう思うとあとは行動に移すのみ。花見には酒だろう。店のお兄ちゃんに聞くと高清水があるという。それで決まりである。
聞けばサクラは寒ザクラだという。この辺りの説明はすとんと落ちなかったが、八重桜にしてはピンクの色合いが濃すぎもせず、かといって薄すぎもせず、ちょうどよい色合いで、あえて表現すれば清楚である。青空によく映えて美しかった。眼福ってやつである。

小さく満足しているところに、まず高清水が到着する。残念ながら1合である。
何が残念なのかよくわからないが、ともかく1合にしたんである。
そこにシコちゃんがから揚げ粉をまとって到着する。素揚げでもいいような気がするが、から揚げ粉に加えて塩もたっぷり振りかけたと見えてしょっぱいのが玉にキズだが、内臓のホロ苦さがとてもいい塩梅である。
15、6匹も経木の皿に乗っていて、1合の高清水ではすぐなくなってしまいそうで、飲むというより、舐める感覚なのが、われながらいじらしい。
売り切れているわけではないから、注文しさえすればテーブルに届くのだが、そうはしなかったというだけの話である。

満開のサクラの下で、高清水とシコイワシで舌鼓を打っているんだ、どうだうらやましいだろう、と雪国の友人に写真付きのメールを送ったら、こちらは猛吹雪だ、というメールが返ってきた。薄暗くて黄昏時のようだとも。
ボクも陰気な空は大嫌いなので、それ以上刺激するのはやめて地理的条件に感謝しつつバスを待ったのである。
友人は春を待っているのだ。首を長くして……。すぐ来るさ。



青空に映え、テーブルの真上にかぶさる江の島の八重桜


シコイワシのから揚げと1合の高清水
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