平方録

干物定食と江ノ電、そして肌すべすべ温泉

黒潮が沖を流れる海辺の町特有の照葉樹の木々が生い茂る尾根筋の細い道をたどり、住宅地を抜けて歩くこと小1時間。
建物の裏を江ノ電がすれすれに通るところにその店はあった。
しもた屋風のそこは「前は何だったっけね?」と聞くと「仕立て屋さんでした」という。
そういえばそんなような店があったなぁと、おぼろげながら思い出した。

12時半を過ぎていたから先客は2つのテーブルをふさいでいて、別に先客が食べ終わったあとの食器が片づけられないままのテーブルが一つ、畳敷きの小部屋が一つと、江ノ電をすれすれに見ることのできるカウンター席が空いていた。
ボクと妻が座ったのは食器が片づけられていないテーブル席だったが、そこだけ空間が広く、しかも裏の戸を開け放してあったので部屋の奥からではあるが、江ノ電が軒を舐めながら走るところがよく見えたのである。
残暑のような暑さがぶり返した良く晴れた気持ちのいい日で、その暑さの中を汗をかきかき歩いてきた身にはそのテーブルの辺りのひんやりした空気も好ましかったのだ。

「稲村ケ崎においしそうな干物の朝飯を提供する店があるらしい。今度連れてってもらいたい」というリクエストが友人からあったのだ。
そんなことならお安い御用とばかりに偵察に行ってきたんである。
昼は干物の種類が増えるが朝飯の干物はアジの開きかサバ干しの2種だけだそうだが、朝食らしく生卵や納豆のトッピングができる。
干物だけなら600円ほどだが、朝7時から結構客が来るんだそうな。

テレビで紹介されたらしく、地元客にとどまらず地方からわざわざてべに来る客もいるそうで、たかが干物じゃないかとびっくりしたが、ボクの友人も地方暮らしである。
「今朝は夜行バスで着いたばかりで腹ペコだという客がありましたよ。岐阜と名古屋から来たって言ってました」という。
論より証拠。ボクたちが食べている間に如何にも旅行者風の若い女性2人組が2組と、帰り際に自転車にまたがってやってきたカップルが「ここよここよ」と言いながら到着する盛況ぶりである。

魚の干物なんて普段の食生活ではめったに口にしないような若い連中が物珍しげにやってくるというところに、何かいびつさを感じてしまうのだが、ジジイはすぐ訳の分からないことを言う。大きなお世話なのだ。
何てったっておテレビ様がおいしいとおっしゃってるんだから体験あるのみなんだろう。
まぁそれはそれでいいけれど、その行動力で総選挙の投票にも行けよ! でもアベなんちゃらの一味には絶対投票するんじゃないぞ! 

妻はサンマの開きを、ボクは塩サバ干しを注文した。妻は生卵もつけた。
店のお兄ちゃんは人懐っこい奴で、生卵の小鉢が2つついてきた理由を丁寧に説明するし、かいがいしくお茶を何度も入れに来た。
サンマもサバも脂が乗っていておいしかった。塩辛くはなく、焼き加減もちょうどよい。
わが家で魚を食べる場合は新鮮なものを丸ごと買ってきて自分で刺身に捌いたり、ハラワタを取って塩焼きにしたり、カレイやメバルなどが手に入れば煮魚にもするが、干物は買ったためしがないのだ。
外食するにしても干物定食は頼んだことがない。
そういう意味では記念碑的な日であったともいえるかもしれない。

このあと数日して、店のお兄ちゃん推奨の歩いて2、3分のところにある温泉に浸かりに行くのだが、最近リニューアルが完成したばかりの「黄金の湯」は家に戻ってもしばらく肌がすべすべを保っていて、こちらもびっくりした。
この温泉はかれこれ20年前からあったわけで、灯台下暗しとはよく言ったものである。
また行こうっと。




夏の名残の雲を見ながら稲村ケ崎へと歩く


尾根道の照葉樹のトンネルを抜けて進むと風が心地よい


ど~ん! これがサバ塩干物定食


どど~ん! アップするとしたたる脂が香り立ち、早く箸を立てよと身が催促をする


開け放たれた裏の戸口からは涼しい風が入り込み、江ノ電がゆっくり軒を舐めながら通り過ぎて行く


近くには美肌の温泉も
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