画像は朝走り出す前のお天気の雰囲気なので本文とは関係ありません。
今日は手術適応についてお話ししてみます。整形外科医として病院で仕事をしていて患者さんと手術の話をしなくてはいけない時があります。
一般的には患者さんの方から手術してくださいと言うことは少ないです(整形外科の場合0ではないのですが・・・)。整形外科の診療で問題になる訴えはやはり痛みが一番です。当たり前ですが皆さん何とか痛みをどうにか解消したくて病院にきます。ただし手術はしたくないという人がほとんどです。当然術後の痛みもありますが、本当に今の痛みが手術で良くなるか分からない、一定期間仕事を休まなくてはいけない、家の人の面倒見る人がいなくなる、などの問題がありますので当然手術以外の方法で良くなるのであればそちらを望む方の方が多いと思います。
整形外科医になって手術適応というのはずっとこれでいいのかと考え続けています。その人の背景は大きく影響するので本当に手術をした方が良いと思っても積極的に勧めることは難しいです。患者さんも手術して手術前の予想通りの事しか起きなかったという人はほとんどいないのではないでしょうか?もちろんやってみてもっと早くやれば良かったという方もいますし、予想外の症状が出て大変な想いをする方もいると思います。
医師側から見てみると手術した方が良いと言えるのは一般的に教科書や文献、ガイドラインなどから当てはまるものを勧めるところから勉強していきます。もちろん私もそうしてきました。ですが、実際の現場ではそれがあてにならないことが多々あります。同じような変形をしていても年齢や活動度によって一方は手術を勧めるが、一方は手術を勧めないなどということもあります。医師によって手術適応の基準値も変わってきます。ですから何もかも医師にお任せでなく自分自身で決めようとする意志は必要になってきます。手術なんて誰だって本当はやりたくないです。一生に一度の決断でもあるわけです。だからこそ御自身の意志が必要なのです。ずれている骨折などで待てないので絶対やらないといけないこともありますが、相当にこちらが手術をした方が良いと思っていても絶対でない以上、なぜした方が良いのかをお話しした上で理解してもらって手術を勧め、決定してもらうというのが理想です。その上で実際はこちらがどの程度積極的に話すかで手術した方が良いと感じるか、そうでないかもありますので実際には医師によって手術適応が少しずつ変わります。私自身も以前と勧め方、話し方が変わってきていると思いますし、私自身の背景や整形外科手術技術一般も変わるので今後もおそらく少しずつ変わるのではないかと思っています。
さらに整形外科医の手術適応として難しい問題があります。手術の目的と痛みを取ることに関してですがイコールではないのです。手術の目的は大雑把に言うとズレを戻す、変形を和らげる、切れた腱や靭帯を縫い付ける、圧迫された神経を解除するなどです。これらの事は骨格的に崩れたことに対して一部を変えることで相当量の正しい方向への変化が得られる場合であるとも言えます。
しかしすごいO脚で歩いていたり、腰が曲がっていたりなど変形していても必ずしも痛がっていない方がいることは皆さんも見かけると思います。おそらくここには変化量と変化速度の問題があります。急激に変形したものは破壊の衝撃に耐えきれないので、痛みに関する物質の量が多く出るため脳に信号が多く伝わり、痛みとして感じます。また人の身体には痛み刺激が繰り返されると、それを痛みとして感じないように抑制する機構が働くため少ない変化量では痛みは感じないですが身体にはダメージが蓄積されていきます。
整形外科医は骨格的崩れを手術によって改善することで痛みを減らすことを考えます。しかし、手術による骨格的崩れの改善と痛みの改善がイコールではないという問題があり、さらに手術というのはメスを入れる作業になるので損傷するものがあります。ですから患者さんは手術に対しての骨格的改善がどうなるか分からない、損傷されるものによってどういう症状が出るか分からないの問題から術後の感覚的イメージができないのです。
ですが骨格的崩れが痛みに繋がる最初の要素であるのだとすると、それを改善すること、その手法があることで手術前から何らかの痛みの改善が感じられれば自分にとっての良い方向性が分かりやすいですし、術後目指すことも少しは分かるのではないかと思います。患者さんの感じている痛みを改善することと術後の骨格が変わることに対しての繋がりが分かる手法があれば良い訳です。もちろんそれがあってもまだまだ難しさはあるのですが。
そんな訳で自分の中での手術適応も徐々に変化してきています。手術適応と言っても1か0かみたいな話ではないと思っています。その方の人生を考えて、手術した方が良い人生を送れることをイメージしてより正しく手術適応を伝えられるようにしていきたいですね。
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