ところが好事魔多し。TVはグルメ番組花盛り。あの煎餅屋が分かったといそいそと電話してきたのだ。番組で紹介されていた神楽坂の煎餅が将にそれだと言う。先代の勘三郎が好物だったところから勘三郎煎餅というとか。黙らすためにしこたま送ったのが昨年の暮れのことだった。
死ぬ前にもう一度』と言うから送ってやったのに、婆さんそれからますます元気で、逝く様子もない。それだけならめでたいと諦め?も付くのだが、叔母に半分わけた所、好評だったのでもう一回送れとぬかすのだ。いっぺんしめたろかい(笑)。
まぁ遺言じゃしょうがないので買いに行きましたがな、泣く子と婆ァには勝てん。神楽坂と言えば4年前に亡くなった、作家にしてドクター、永井明さんの庭である。エッセーにもたびたび取り上げられていたが、楽しそうな飲み屋がいっぱい出ていた。但し、店名を覚えていないし、朝日がメディカル漂流記のアーカイブスを読めなくしたのでもはや確認のしようが無い。
取り敢えず、昼間から飲むなら蕎麦屋と神楽坂の中ほどにある〇屋なる蕎麦屋に入った。(うーん伏字になってないかも)入り口に水車の模型なんぞが置いてある、良さ気な風情にだまされた。ビールとタコ唐揚げを頼むと唐揚げはできないという。嫌味たらしく『じゃ、季節外れの枝豆でいい』と再度オーダー。
ビールが来たので飲んでいると、枝豆も出来ないと言いに来た。『鍋使うと怒られちゃうから』と婆さんが意味不明な言い訳をする。判ったから出来るもんを出せというと、板ワサだけしか出来ないと恥ずかしげもなく答えた。板から外して切るだけで料理面されても困るので『なんも要らん』と憎々しげに言い放つ。我ながら性格悪くなったなぁ。
こうなれば得意技、天ザルでビール。そう、若い頃はこれにご飯を付け、まずカリカリの尻尾に塩を振ってビールのつまみにし、ご飯の上にはそばつゆに潜らせたてんぷらを並べ天丼を作る。そばを前菜代わりにすすり、天丼を食って蕎麦湯でしめる。フルコースの完成だ。しかも、安い店なら千円札で釣りが来た。もう若くは無いからご飯は止めておこう。
暫くすると、また違う店員が言いに来た『てんぷらも出来ないんです』久しぶりに切れましたぜ。最初に言え。鍋を使って怒るような店は暖簾出すな。自分の都合だけでもの言いやがってとビール代を叩きつけて店を出た。
最初からここに来るべきだった。日比谷公園の空気は暖かく半袖でもOKだった。強めのドイツダークビール、ドッペル=ボックで喉を湿す。やっと落ち着いてきた。日の当たる正面にある桜の木が『いいもん見せてやるから、そうカリカリしなさんな』と言いたげに二分咲きの枝を揺らせていた。
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