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病気の味

ドイツで暮らしていた時の話だ。レストランでステーキを注文した所、付け合わせは何にすると聞かれた。かの地ではだいたいジャガ芋がメインで、フレンチポテト(これが旨いんス)、マッシュポテトかベークド。たまに玉ねぎと炒めたもの(いわゆるジャーマンポテト)やイモだけのコロッケというところだ。

たまには知らんもんをとメニューを見るとワイルドライスとある。ガキの頃に冒険小説か何かで、インディアンが小船を沼に浮かべて水面から伸びた穂先だけを摘んでいくという描写があり、それがワイルドライスとの出会いだった。野生の米ってどんな味だろうと子供心に思ったものだ。それが今メニューにある・・・何の躊躇も無くそれをオーダーする。

しばらくして部厚いステーキとぱらっとしたワイルドライスが鉄皿に盛られ、目の前に置かれた。見た目は長粒米を2倍ほど長くした米で国産米より細め、3分突きの玄米のような褐色をしていた。スープで炊き込んであるいわゆるピラフだったのでブイヨンの色が着いたのかもしれない。

肉汁とステーキソースの残滓を絡めて食べると、ご飯の柔らかさはなく芯のあるピラフみたいだったが、なかなかの美味だった。その後、色々なステーキ屋に行ったが、付け合わせにワイルドライスが出たのはその店だけ。恐らく、そんなにポピュラーな食物ではなかったのだろう。

最近調べたところ、ワイルドライスはマコモの実とあった。え、マコモ?中華の食材じゃないか。実家の近所、夙川の名店「翠香」ではマコモタケのドーチ炒めがぼーず家の定番である。横浜の中華街では八百屋でナマのマコモを見たが、破竹と根曲がり竹の間位で筍に見えた。

ところが、マコモは竹の仲間ではなくイネ科の植物だそうで、可食部はなんと菌に侵された病巣だと言う。普通のマコモだと食べるところはないのだ。病巣を食ってたのかと一瞬ゲッとなったが、ファワグラは脂肪肝、ペキンダックは病的肥満鳥の皮だ。案外病巣は美味いのかもしれない。

ムツゴロウこと畑正憲さんは自分の切り取った盲腸を食べてみたいと言っていたが、どーされたんだろう。大腸の末端だもんなぁ。いくら自分のもんでも余り食って見たくなるもんじゃないと思う。もしも末期の脳腫瘍になったら死ぬ前に、仕返しに食ったろかという気になるかもしれないが・・まぁ、死ぬ前に妙なもん食う必要も無いか。試食はレクター博士に頼むとしよう。
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