世界史をつくった海賊 (ちくま新書) | |
竹田いさみ | |
筑摩書房 |
竹田いさみ先生の「世界史をつくった海賊」を読みました。
面白かったです。勉強になりました。
大した産業を持たず、貧乏な弱小国家だった16世紀のイギリス。
南米の潤沢な銀を手中にし、我が世の春を謳歌する最強国家スペイン。
何とかイギリスをスペインに並ぶ強国にできないか。
エリザベス女王はある決断をします。
「銀がないなら奪っちゃえばいいじゃない!」
しかし強国スペインに表立って盾突いては、あっという間にたたきつぶされてしまいます。
そこで海賊を使うことを思いつきます。
キャプテンドレイクを代表する海賊たちに資金と私掠許可証を与え、スペイン船を次々と襲わせます。
財宝をがっつり奪うのはもちろん、最新式の船を奪って海賊艦隊を近代化していきます。
当然スペイン国王は激怒しますが、エリザベス女王は素知らぬ顔で「海賊達にも困ったものですね。協力して取り締まりましょう!」とか言って友好国の立場をアピールします。
その裏では海賊航海の利益の半分はエリザベス女王がとり、イギリス国庫の貴重な財源としていました。
海賊行為で潤ってゆくイギリスと疲弊してゆく被害国スペイン。抜け目ないエリザベス女王は将来の衝突を予見し、奪った銀を駆使してスペイン国内に強力なスパイ網を敷きます。
そして1588年、ついに堪忍袋の緒が切れたスペイン無敵艦隊が天誅を与えるべくイギリスに向け出航します。
しかしスパイ網から十分な情報を得ていたイギリス海軍と海賊軍の連合艦隊は、研究を重ねスペイン艦隊の弱点を丸裸にしていました。
船体同士を鎖でつないで停泊する深夜のスペイン艦隊に、火のついた船を突っ込ませて大火災を巻き起こすなど、三国志で諸葛亮孔明が放ったような奇策を次々と繰り出し、スペイン艦隊を大混乱に陥れズタズタに分断することに成功します。
スペイン無敵艦隊は艦隊だからこその最強。それぞれの艦が孤立してしまっては、百戦錬磨の海賊艦隊にとっては美味しい獲物にしかなりません。慣れた手順で哀れなスペイン艦をぷちぷちと潰していき、壊滅に追い込みます。
国家の英雄となる海賊たち。
しかし皮肉なことに、スペインが弱体化しお宝を奪う相手がいなくなると、海賊航海の旨味がなくなっていきます。
奴隷ビジネスへの参入を試みてもみましたが、アフリカへ奴隷を捕まえに行った部隊が現地人の吹き矢で全滅するなどイマイチうまくいきません。
イギリスを強国にのし上がらせる原動力になった海賊たちは、次第にその存在意義を失い、遂にはこれまでさんざん貢献したはずのイギリス国家から疎まれる存在となります。
しかしたくましい海賊たちはへこたれません。「これからは世界貿易だよねー」とあっさり職業替え、東インド会社などの貿易会社を設立し、近代経済の礎を築いていきます。
海賊は無法なならず者などではなく、国家戦略を拓くエリート集団だったことが全編にわたり述べられ興味が尽きません。
これでもかと次々提示される驚愕の事実や斬新な視点に、知的好奇心が燃え燃えに滾る絶対おすすめの名著です。