魚類と頭足類(イカ、タコ)の呼吸循環系の比較
魚のエラ呼吸と循環についてみてくると、同じ水棲動物のイカ、タコも気になります。以前タコとイカの記事に書きましたが、今回は特にイカについて少し詳しく魚と比較してみます。
イカもタコも、貝殻を作る働きを持つ外套膜が形を変えて内蔵を収める鞘のような形になったので、鞘型類(しょうけいるい)という分類名です。イカでは貝殻のなごりとして、外套膜内に柔らかな軟甲を持つものや石灰質の甲を持っています。
1.循環系
イカは3つの心臓を持っています。その1つの体心臓(systemic heart)は1つの心室と2つの心房で構成されていて、心室からは前後に大動脈が分岐して全身に血液を送り出しています。全身の毛細血管網を通って組織に酸素を供給した血液は静脈を通って左右にある2つのエラ心臓(branchial heart)に帰ってきます。エラ心臓はエラに入る静脈の一部が膨らんでポンプの機能を持つようになったもので、静脈血の血圧を高めてエラへ送ります。エラを通って酸素を結合した血液は左右の心房を通って体心臓の心室に入って、再び全身へ巡ります。
心臓と血液の酸素化はこの図のようになっています。
一方、魚では1心房1心室の心臓が1つだけです。酸素と栄養を全身の細胞に渡して、二酸化炭素を受け取った血液は心臓に戻り残った酸素をスポンジ状心筋に供給した後、エラで酸素を受け取って、また全身へと巡っていきます。一部の魚では心臓に冠動脈を持ち酸素の豊富な血液がエラから還流しています。
心臓とエラの位置関係を見ると、頭足類では血液はエラで酸素を受け取った後に心臓に流れますが、魚類では心臓からエラへと反対になっています。
2.頭足類の呼吸体制の進化
イカ・タコはコウモリダコ、アンモナイト、オウムガイとともに軟体動物の頭足類に分類されます。
古生代カンブリア紀の初期(5.4億年前)に貝殻を持つ軟体動物が出現し、その中のプレクトロノセラスが最古の頭足類とされています。
シルル紀末期にオウムガイ類が、更にデボン紀にアンモナイト類が分岐し、イカやタコの祖先の鞘型類が分枝しました。軟体動物ではエラで吸収した酸素を運ぶ血色素はヘモシアニン(Hc)です。Hcは血リンパ液といわれる循環体液中に分散していて、脊椎動物のように赤血球の中に収納されていません。
脊椎動物はカンブリア紀後期に原始魚類の顎口類があらわれ、シルル紀には硬骨魚類へと進化し、獲得した肺とエラを使いました。血色素はヘモグロビン(Hb)で赤血球の中に収められています。
このように同じ地質年代に、酸素を運ぶ血色素としてHbを用いる脊椎動物とHcを用いる無脊椎動物が出現しました。
原初の動物が誕生するとき、どのような環境や生物の体制が、鉄を含むHbあるいは銅を含むHcを選択する要因だったのでしょう、海水中の鉄と銅の濃度差? 海水中の酸素濃度? 海水温? 紫外線量? 分子の大きさ? 進化段階の差?・・・・
しかしHbを採用した魚類はシルル紀には肺を獲得してエラと肺を使うようになりましたが、Hcを選択した軟体動物たちは肺を必要としませんでした。このことは、エラと心臓が前後する位置関係とも関連するのでしょうが、Hcを利用した方がHbよりも水中の酸素の吸収と利用に有利であった可能性を示唆しているように思えます。
参考文献
・WWW.quora.com/Which-invertebrates-have-a-closed-circulatory-system
・佐々木猛智.貝類学. 1.5 頭足綱の系統と分類 東京大学出版会2010.
(Index page: http://www.um.u-tokyo.ac.jp/hp/sasaki/index.htm)
・ダナ・スターフ著 イカ4億年の生存戦略 エクスナレッジ社 2018
魚のエラ呼吸と循環についてみてくると、同じ水棲動物のイカ、タコも気になります。以前タコとイカの記事に書きましたが、今回は特にイカについて少し詳しく魚と比較してみます。
イカもタコも、貝殻を作る働きを持つ外套膜が形を変えて内蔵を収める鞘のような形になったので、鞘型類(しょうけいるい)という分類名です。イカでは貝殻のなごりとして、外套膜内に柔らかな軟甲を持つものや石灰質の甲を持っています。
1.循環系
イカは3つの心臓を持っています。その1つの体心臓(systemic heart)は1つの心室と2つの心房で構成されていて、心室からは前後に大動脈が分岐して全身に血液を送り出しています。全身の毛細血管網を通って組織に酸素を供給した血液は静脈を通って左右にある2つのエラ心臓(branchial heart)に帰ってきます。エラ心臓はエラに入る静脈の一部が膨らんでポンプの機能を持つようになったもので、静脈血の血圧を高めてエラへ送ります。エラを通って酸素を結合した血液は左右の心房を通って体心臓の心室に入って、再び全身へ巡ります。
心臓と血液の酸素化はこの図のようになっています。
一方、魚では1心房1心室の心臓が1つだけです。酸素と栄養を全身の細胞に渡して、二酸化炭素を受け取った血液は心臓に戻り残った酸素をスポンジ状心筋に供給した後、エラで酸素を受け取って、また全身へと巡っていきます。一部の魚では心臓に冠動脈を持ち酸素の豊富な血液がエラから還流しています。
心臓とエラの位置関係を見ると、頭足類では血液はエラで酸素を受け取った後に心臓に流れますが、魚類では心臓からエラへと反対になっています。
2.頭足類の呼吸体制の進化
イカ・タコはコウモリダコ、アンモナイト、オウムガイとともに軟体動物の頭足類に分類されます。
古生代カンブリア紀の初期(5.4億年前)に貝殻を持つ軟体動物が出現し、その中のプレクトロノセラスが最古の頭足類とされています。
シルル紀末期にオウムガイ類が、更にデボン紀にアンモナイト類が分岐し、イカやタコの祖先の鞘型類が分枝しました。軟体動物ではエラで吸収した酸素を運ぶ血色素はヘモシアニン(Hc)です。Hcは血リンパ液といわれる循環体液中に分散していて、脊椎動物のように赤血球の中に収納されていません。
脊椎動物はカンブリア紀後期に原始魚類の顎口類があらわれ、シルル紀には硬骨魚類へと進化し、獲得した肺とエラを使いました。血色素はヘモグロビン(Hb)で赤血球の中に収められています。
このように同じ地質年代に、酸素を運ぶ血色素としてHbを用いる脊椎動物とHcを用いる無脊椎動物が出現しました。
原初の動物が誕生するとき、どのような環境や生物の体制が、鉄を含むHbあるいは銅を含むHcを選択する要因だったのでしょう、海水中の鉄と銅の濃度差? 海水中の酸素濃度? 海水温? 紫外線量? 分子の大きさ? 進化段階の差?・・・・
しかしHbを採用した魚類はシルル紀には肺を獲得してエラと肺を使うようになりましたが、Hcを選択した軟体動物たちは肺を必要としませんでした。このことは、エラと心臓が前後する位置関係とも関連するのでしょうが、Hcを利用した方がHbよりも水中の酸素の吸収と利用に有利であった可能性を示唆しているように思えます。
参考文献
・WWW.quora.com/Which-invertebrates-have-a-closed-circulatory-system
・佐々木猛智.貝類学. 1.5 頭足綱の系統と分類 東京大学出版会2010.
(Index page: http://www.um.u-tokyo.ac.jp/hp/sasaki/index.htm)
・ダナ・スターフ著 イカ4億年の生存戦略 エクスナレッジ社 2018
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