もっと空気を

私達動物の息の仕方とその歴史

タコとイカ その3

2019-11-06 21:00:00 | 日記
さて、本題の呼吸循環系です。
イカやタコの呼吸循環器官は、3つの心臓(体循環用の体心臓1つと左右のエラ循環にエラ心臓が1つずつ)と閉鎖循環系を持ち、優れた運動能力があります。
(閉鎖循環系とは、血液が血管の中を流れているもので、昆虫や貝などが持つ解放血管系では末梢動脈から先の静脈がありません。)
エラ呼吸をする動物の代表といえば魚です。魚とイカやタコ、ほ乳類の呼吸循環器系を比較すると図の様になります。

魚との大きな差は、イカではエラの前と後に心臓があることです。
魚の場合は、心臓には全身に酸素を渡した後の酸素の乏しい血液が流れているので、激しい運動を続けると心臓が酸素欠乏状態になり動けなくなり、死亡することもあります。
ところが、イカ・タコではエラの前と後に心臓があって、エラ心臓が大きなエラに血液を送り、酸素濃度の高い血液が体心臓と全身に流れます。この循環系の構造は機能の上では私達哺乳類の心臓によく似ています。哺乳類では全身から帰った血液は、右側の心臓で肺に送られ、酸素を受け取ってから左の心臓を通って全身へと流れています。
この様に、頭足類はエラ心臓と体心臓を使い、哺乳類は右側と左側の心臓を使って、呼吸器への循環と全身への循環を分けているので、どちらにも適切な血圧で血液を送ることができて、心臓にも豊富な酸素を送ることができます。
このために、すばやい運動とその持続が可能な動物になたのでしょう。
面白いことに、早く動くために勢いよく換水すればするほど、エラにたくさんの水が流れて酸素がより多く吸収できるのです。ほ乳類でいえば、足を早く動かすほどたくさんの酸素が吸収できることになるわけです!
脳神経系の発達と水棲動物としては高い知能を持っているのも、十分な酸素を使えることと関係しているのかもしれません。
水棲動物では、他にこの様な効率の良い循環系を持つものはいません。

頭足類は約5億年前に骨を持たない動物(無脊椎動物)である、アサリやハマグリなどの軟体動物の祖先から進化してきました。私達の様な魚から進化した脊椎動物とは全く違う進化の道を歩んで来たのですが、その呼吸循環系が、水と空気を利用する上で、胸郭と外套膜、肺とエラ、右心室とエラ心臓、左心室と体心臓というように、機能的に類似した効率の良い構造になっているのはとても興味深く、驚いています。
私達は1心房1心室の魚類の心臓から進化したので、現在の2心房2心室の心臓に進化する途中では元の1心房1心室の心臓が幾度か折りたたまれる必要がありました。そのためにとても複雑な構造を持っていますが、イカやタコのように呼吸器用の心臓1つと全身用の心臓1つずつ(どちらも1心房1心室)を持つという進化もあり得たのかもしれません。もしそうなら、心室や心房の中隔欠損症、複雑な心奇形などが起きない循環系になったのでしょうか。
(参考 「イカの心を探る」池田譲、比較動物学 培風館、「タコの身体問題」ピーター・ゴドフリー=スミス、魚類生理学概論 恒星社厚生閣)

おまけ
10月8日から5日間は「国際頭足類デー(International Cephalopod Awareness Days)」です。公式Tumblrページによると、「タコは8本脚、イカは8本脚と2本の触腕の合計10本を持つ。従って、10番目の月の8番目の日は最良の選択である」とのことです、素晴らしい!

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