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私達動物の息の仕方とその歴史

低酸素への適応ー哺乳類での発見

2020-09-08 17:00:00 | 日記
職場の移動がありしばらく休んでいましたが、また再開します。
今年になって、哺乳類の低酸素への適応について新たな発見が2つありました。

筑波大学と理研のグループからは、マウスとラットの遺伝子を改変して視床下部の特定の神経がCNQという薬剤に反応するようにすると、冬眠様の状態に誘導することが出来たという発見です。冬眠状態は、リスや、ヤマネ、コウモリ、クマなどの多くの哺乳類が、冬期を乗り切るために、著しい低酸素消費(低代謝)と低体温の状態になることです。
これまでの研究では、冬眠するとリスやヤマネなどでは酸素消費率(代謝率)が活動状態の3~4%に低化し、呼吸は数十分に数分間、体温は環境温度近くにまで低下します。大型のクマでは体温低化は5℃程度ですが、代謝は通常の20%まで低下します。

この様な低酸素消費の状態では心拍数も著しく下がり、活動状態と比較すると低酸素状態、低循環状態となっています。しかし冬眠から目覚めた後は、低酸素の影響もなくて臓器機能も活動性、記憶なども正常に戻ります。
これらの動物では冬眠が始まるときには、先ず酸素消費率(代謝率)が低化してそれに伴って体温低下がおきます。ほ乳類は37℃前後の体温を維持するために、常に大量の酸素を消費し代謝を維持する機構が働いていますが、冬眠が開始されると全身の細胞内で代謝が低下し酸素消費も減少して、この体温維持機能は働かないようになります。
このメカニズムとは反対に、手術で心臓の拍動を止める時に、低酸素、低循環状態から脳を保護するために脳へ送る血液温度を下げる方法があります(脳分離体外循環)。この時に20℃まで下げると脳の代謝は正常の1/4程度になります。冬眠とは逆に低体温とすることで代謝率を下げていますが、同じように低酸素状態を耐えることができます。
今回の冬眠誘導神経の研究で、ヒトを含めて冬眠しない哺乳類を特定の神経刺激で冬眠状態とすることができるのであれば、緊急的な低酸素の状況下で安全に生命を維持できる可能性につながります。

ところで、低酸素への適応という点で、忘れてはいけない動物としてハダカデバネズミがいます。このネズミは酸素濃度5%(酸素分圧では高度1万4千メートルに相当、ヒトでは生存不可能)の環境で、5時間もたえました。さらに、酸素が全くない環境では18分間ダメージなく耐えられました。
この時、脈拍が通常の1/4となり、心筋と脳細胞ではブドウ糖代謝が果糖代謝に変換されてエネルギー代謝が維持されていました。このネズミでは低酸素が引き金になり、循環と代謝の抑制、糖代謝の切り替えが起きて低酸素・無酸素という危機を乗り越えています。

私達ヒトでは、これまで世界中で数人のダイバーが呼吸停止の訓練を集中的に行い、高濃度の酸素を吸入して、最長で約24分間水中で無呼吸状態を保ち無事に回復した記録が残っています(2016年、スペイン人、アレックス・セグラ氏)。そのような訓練と酸素吸入という準備がなければ、呼吸が止まって5分を超えると救命率は25%以下になります(ドリンカーの救命曲線)。生存しても脳に障害が残るといわれていて、突然の窒息では障害を残さずに回復するには呼吸が止まってから5分以内の猶予しかありません。

もしヒトでも冬眠状態への誘導と回復、あるいはハダカデバネズミのように循環と代謝の切り替えと復元が後遺障害なく行えるようになると、一瞬も止むことない酸素への依存という束縛から多少は自由になることができるのかもしれません。


参考:Nature 2020/6/10電子版、Heldmaier G. RESPNB (2004)、
Science 2020/4/21 電子版。

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