エラと酸素吸収 その1
エラの最も微細な構造は、血液をたくさん含んだ毛細血管が編み目のように密集して薄い膜状になったラメラです このラメラを流れる水と毛細血管の中の血液が反対向きに(対向流)流れる構造のために水中の酸素の80%を吸収することができています。
(キャンベル生物学より転載)
このように微細なエラの面積と魚体重の関係は詳細に調べられています。
例えば、1Kgのカツオのエラ面積は1.85m2と報告されているので(Roy)、同じ1Kgの哺乳類の肺胞面積3.3m2の約56%になります(KSN)。
空気に比べて水中の酸素含有量は40分の1と少なくて、カツオの場合は酸素を取り入れる面積も哺乳類の半分程度と小さくなっています。しかし,エラの酸素吸収効率がいいので必要酸素量を吸収するには十分です。
ちょっと簡単な計算をしてみましょう。
前回書いたように、表面の海水は酸素を良く取り込んでいるので、26℃に補正すると、1Lの海水に約5ml酸素が溶けています。
500gの安静時の魚の換水量は毎分200ml程度(魚類生理学)なので、1Kgでは400mlとしましょう。エラの酸素吸収率は前回書いたように約80%とすると、1Kgの魚の酸素吸収量は毎分 5ml×0.4L×0.8=1.6mlとなります。
さて、
魚の安静時(?)酸素消費量(1分間に消費する酸素量:ml/min)は水温で変わりますが高めの26℃でも
VO2(ml/min)=1.44×W(Kg)0.811の関係式が報告されています(山元)。 Wを1Kgとすると、1は何乗しても1なのでW(Kg)0.811=1となって、酸素消費量は毎分1.44ml。
エラからの吸収量は1.6mlだったので、これで必要な消費量に足ります。運動時は消費量も増えると同時に換水量も増えて酸素の吸収量も多くなるでしょう。
ニジマスでは運動時に安静時の8倍ほどになるとのことです。この時、酸素吸収量も増加しますが、もし水中の酸素濃度が概ね2ml/L以下になると酸素吸収量も足りなくなり酸素不足から斃死する原因になるようです。ヒトも空気中の酸素濃度が16%以下になると頭痛や吐き気が表れ、さらに濃度低下すると、失神して死亡にいたります。
ちなみに魚類からほ乳類までの酸素消費量と体重(kg)の関係は、温度にも依存しますが、概ね以下のように報告されています(魚類生理学、山元、KSN)。
魚類 1.1~1.44x(体重kg)0.811
両生類 0.11x(体重kg)0.66
爬虫類: 1.13x(体重kg)0.83
鳥類 11.3×(体重kg)0.72
ほ乳類 10.1×(体重kg)0.75
酸素消費量について、同じ1kgの体重で比較すると両生類が0.11ml/分と最も少なくて、その10倍が1.1mlの魚類と1.13のは虫類、さらに10倍が11.3mlの鳥類と10.1のほ乳類となって、鳥類と哺乳類という内温(恒温)動物の酸素消費量がきわめて大きいことがわかります。(魚類や両生類の測定はかなり難しくて、限られた動物で測定した関係式です)
動物の体に吸収される酸素の拡散経路と水について少し考えてみましょう
哺乳類では、空気中の酸素→肺胞表面の水→肺胞の細胞→血液とヘモグロビン
魚類では、 空気中の酸素→川や池・海の水→エラの細胞→血液とヘモグロビン
このように空気中の酸素は細胞の膜以外はすべて水の中に溶けたものが拡散して血液に到達している。
水に溶けた酸素の濃度や分圧が血液中の酸素量を決めることになるので、魚類でも哺乳類でも血液中の酸素濃度や分圧は同じになります。実際、例えばニジマスの静脈血の酸素分圧は32mmHg、動脈血は133mmHgです(魚類生理学)。ヒトでは、それぞれ40mmHgと100mmHgとほぼ同じです。
十分に空気に曝されて大気中の酸素と平衡になった水中では、酸素の分圧は大気中と同じになり、0.21気圧(160mmHg)です。
両生類、は虫類、鳥類も同じように体液中に溶存した酸素を利用しています。
空気と水の違いは、分圧は同じでも水に含まれる酸素量は空気の40分の1と少ないので、十分に換水しないとすぐに酸素欠乏になる点です。
次回はエラや体温調節で働いている奇網、鰾(うきぶくろ)に共通する対向流交換系
について細かくみてみます。これは魚の体に備わっている巧妙な仕組みです。
参考文献
魚類生理学の基礎 恒星社厚生閣 2013年
キャンベル生物学 原書11版 2018
K. シュミットニールセン スケーリング 動物設計論 1995
Roy 日本魚類学雑誌1986
山元 水 産 増 殖38巻1号1990
エラの最も微細な構造は、血液をたくさん含んだ毛細血管が編み目のように密集して薄い膜状になったラメラです このラメラを流れる水と毛細血管の中の血液が反対向きに(対向流)流れる構造のために水中の酸素の80%を吸収することができています。
(キャンベル生物学より転載)
このように微細なエラの面積と魚体重の関係は詳細に調べられています。
例えば、1Kgのカツオのエラ面積は1.85m2と報告されているので(Roy)、同じ1Kgの哺乳類の肺胞面積3.3m2の約56%になります(KSN)。
空気に比べて水中の酸素含有量は40分の1と少なくて、カツオの場合は酸素を取り入れる面積も哺乳類の半分程度と小さくなっています。しかし,エラの酸素吸収効率がいいので必要酸素量を吸収するには十分です。
ちょっと簡単な計算をしてみましょう。
前回書いたように、表面の海水は酸素を良く取り込んでいるので、26℃に補正すると、1Lの海水に約5ml酸素が溶けています。
500gの安静時の魚の換水量は毎分200ml程度(魚類生理学)なので、1Kgでは400mlとしましょう。エラの酸素吸収率は前回書いたように約80%とすると、1Kgの魚の酸素吸収量は毎分 5ml×0.4L×0.8=1.6mlとなります。
さて、
魚の安静時(?)酸素消費量(1分間に消費する酸素量:ml/min)は水温で変わりますが高めの26℃でも
VO2(ml/min)=1.44×W(Kg)0.811の関係式が報告されています(山元)。 Wを1Kgとすると、1は何乗しても1なのでW(Kg)0.811=1となって、酸素消費量は毎分1.44ml。
エラからの吸収量は1.6mlだったので、これで必要な消費量に足ります。運動時は消費量も増えると同時に換水量も増えて酸素の吸収量も多くなるでしょう。
ニジマスでは運動時に安静時の8倍ほどになるとのことです。この時、酸素吸収量も増加しますが、もし水中の酸素濃度が概ね2ml/L以下になると酸素吸収量も足りなくなり酸素不足から斃死する原因になるようです。ヒトも空気中の酸素濃度が16%以下になると頭痛や吐き気が表れ、さらに濃度低下すると、失神して死亡にいたります。
ちなみに魚類からほ乳類までの酸素消費量と体重(kg)の関係は、温度にも依存しますが、概ね以下のように報告されています(魚類生理学、山元、KSN)。
魚類 1.1~1.44x(体重kg)0.811
両生類 0.11x(体重kg)0.66
爬虫類: 1.13x(体重kg)0.83
鳥類 11.3×(体重kg)0.72
ほ乳類 10.1×(体重kg)0.75
酸素消費量について、同じ1kgの体重で比較すると両生類が0.11ml/分と最も少なくて、その10倍が1.1mlの魚類と1.13のは虫類、さらに10倍が11.3mlの鳥類と10.1のほ乳類となって、鳥類と哺乳類という内温(恒温)動物の酸素消費量がきわめて大きいことがわかります。(魚類や両生類の測定はかなり難しくて、限られた動物で測定した関係式です)
動物の体に吸収される酸素の拡散経路と水について少し考えてみましょう
哺乳類では、空気中の酸素→肺胞表面の水→肺胞の細胞→血液とヘモグロビン
魚類では、 空気中の酸素→川や池・海の水→エラの細胞→血液とヘモグロビン
このように空気中の酸素は細胞の膜以外はすべて水の中に溶けたものが拡散して血液に到達している。
水に溶けた酸素の濃度や分圧が血液中の酸素量を決めることになるので、魚類でも哺乳類でも血液中の酸素濃度や分圧は同じになります。実際、例えばニジマスの静脈血の酸素分圧は32mmHg、動脈血は133mmHgです(魚類生理学)。ヒトでは、それぞれ40mmHgと100mmHgとほぼ同じです。
十分に空気に曝されて大気中の酸素と平衡になった水中では、酸素の分圧は大気中と同じになり、0.21気圧(160mmHg)です。
両生類、は虫類、鳥類も同じように体液中に溶存した酸素を利用しています。
空気と水の違いは、分圧は同じでも水に含まれる酸素量は空気の40分の1と少ないので、十分に換水しないとすぐに酸素欠乏になる点です。
次回はエラや体温調節で働いている奇網、鰾(うきぶくろ)に共通する対向流交換系
について細かくみてみます。これは魚の体に備わっている巧妙な仕組みです。
参考文献
魚類生理学の基礎 恒星社厚生閣 2013年
キャンベル生物学 原書11版 2018
K. シュミットニールセン スケーリング 動物設計論 1995
Roy 日本魚類学雑誌1986
山元 水 産 増 殖38巻1号1990
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