2017.05.10
酸素マスクの使い方を、まともに聞ける精神状態ではなかった。
息苦しさが襲ってきてしばらくは、過呼吸か息が出来てないのか、自分が
どういう状態なのかわからなかった。
とにかく、ハァハァハァと、断続的に息をしているのだ。
いままでテレビの世界で見てきたような事、古くは、故 丹波哲郎氏の
著書、それを題材にしたドラマ、タモリ氏がストーリーテラーの
オムニバスドラマ、このシーズンになると必ずと言っていいほど放送
される特集(ここ何年かはやらないが…)、その世界を見てきた人が
一部始終を語る番組、など、
およそ自分自身には関係のない、自分の身には決してふりかからない
出来事と、根拠のない自身でそれらを客観的な立場で見てきた。
この時、それが自分の身にいま、降りかかっているのだと確信した。
このまま意識が無くなるのだろうか、それとももうすぐ息が出来るように
なるのだろうか、意識が無くなったらそのまま目が覚めないのだろうか、
看護師さんが起こしに来てくれるのだろうか、人の命が終わる瞬間とは
こういう事なのだろうか、と、初めて死を意識した。
(本気で死を意識したのは、入院直後のベッドの上と、この時と、
再発後、移植のあとのアナフィラキシーショックである。
これについては第2章で書くことにする)
それから何日間かは酸素マスク装着状態で、食事以外息苦しい時は、
ずっとである。
血中酸素濃度計、いわゆるパルスオキシメーターで定期的に測定する。
世の中には便利なものがあるものかと、その機械を見ていつも思って
いた。
指をそれに挟むだけで、体の内部の状態がわかるのだから相当すぐれ
ものだと。
いまでこそ、このコロナ禍では、ドラッグストアで売っており、常時
持ち歩くくらいにまで進歩しているが。
呼吸も落ち着き、酸素マスクも付ける頻度が減ってきていた。
念のため枕元に常備しておくことになった。
あしたはまた、採血と次の輸血だ。
2017.05.10
いつも通りの採血と血圧測定、検温である。
血小板の数値があまり上がらないので、再度の成分輸血がその日の
午後からあった。
やはり副作用が出て、顔にポツポツ、足にも広がった。
そのあとの抗生剤で1時間ほどで治まる。
いつも通りの午後だが、やがて軽い寒気を感じるようになる。
寒気を感じると決まってすぐに体温が上昇し、高熱になる。
この時も同じだった。
ただ、1回目の経験があるせいか、気持ちはわりと落ち着いていた。
自身で体温計を取り、測る。
目盛りは39度を指していた。
ナースコールを取る。
前回の如く解熱剤と抗生剤を点滴投与する。
1時間もすれば全身汗びっしょりになり、体が楽になった。
目が覚めたら夕食前だった。