●おわりに
「百聞は一見に如かず」と言いますが、この度の米国401(k)調査旅行は、文字通り現場の一見により多くのことが背景・事情・哲学等と共に明らかになり、国内で流布されている多くの誤報・デッチアゲ・考え違いも明らかになりました。
1週間、非常にエキサィテングに過ごし、啓発・触発されたことが無数にあります。中でもアメリカという国が人に強烈なエネルギーを与える国ですという発見は、まもなく60歳になろうとしている筆者を20歳の若者のように感激させました。それらは、未だに唸りを発していて、この旅行記に納めまとめるのに1ケ月も要してしまいました。
筆者にとって、この旅行は、1/4世紀に渡る基金業務の経験、1,000冊になる金融関係読書、年金ビジョンの論理成立等のフィナーレを飾るに相応しい、楽しくエキサィテングなイブェントとなりました。
出所:「米国401(k)調査備忘録」平成11年
第5章 資産運用機関の勝手格付け
平成9年 12 月(年発第5970 号年厚生省年金局長通知)、5.3.3.2規制が撤廃され、厚生年金基金の資産運用は「自由化時代」を迎えましたことはご同慶の至りです。
反面、過去の付けが大きな積立不足となり、各基金を襲っている事実も厳然たる現実です。文字通り呻吟されている基金の選択肢として、巷間①<給付引下げ>、②<解散>、それに③<資産運用の効率化>が取りざたされています。
①は労使共々の同意を取り付けるのがなかなか困難ですのでセカンドベタ-な選択でありましょう。②は、全くの負け犬の発想でしょう。この結論の前にやることがあると考えますがいかがでしょうか。残る道は、唯ひとつ。③<資産運用の効率化>ということになります。
とはいえ、<資産運用の効率化>などというのは、お手軽にコンビニの棚に並べられているようなものとは、いささか違うようです。この点について資産運用を行なう者について、年金局長も「熱意を有するもの」(平成10 年10 月・年発4187 号)を充てるよう留意しています。
具体的には、これでは余りに文学的に過ぎ意味不明ですが、現場の基金の経験では、長い期間にわたる基金業務の従事、内外金融機関・金融手法の調査、欧米金融事情調査、金融関係読書1,000冊、それに会話の出来る英語力にPC操作等々が必要になりましょう。
とは言え、これを100%達成するのは至難の業です。しかし、いわゆる<上がり意識のサラリーマン>では対応出来ませんし、それでは受託者責任の観点からも責任を果たすことができないでしょう。
或る高名なコンサルタントが言うように、そういう人は「猛烈に勉強するか、去るか」です。
さわさりながら、現実のドブ泥は避けようもありません、現有勢力で戦いを挑むことになりましよう。ほっておいたら各基金間で7、8%余の収益格差が定例のようになりましょう。資産配分の戦略化を企画し、効率運用を目指して運用機関の選択・解約もしなければなりません。
しかし、現実の各基金の資産運用は、基金の置かれた状況により千差万別、運用手法のステージもバラエティに富んでいるようです。お任せ運用から懸命に脱出を試みているレベルから政策運用のレベル、戦略アセット・ミックスを通じて運用機関に指示を出すレベル、更に高度な数値データを駆使した運用等といった具合です。
悲しいかな、資産運用に関しては、日本には英国の2、300年にわたる「経験」も、米国のノーベル賞多発の「理論」もないのですから、それらを右と左に見据えつつキャッチ・アップを目指すのが精一杯と言うところでしよう。だが、後発組の有利さというのも無視しえません。必ずや猛烈なスピードで追いつくことでしよう。
ちなみに、日本では資産運用の理論研究(伊藤清氏以降、東工大、東大、一ツ橋等の大学院
で盛んに研究されている由)も急激に進んでいるようですし、年金基金に蓄積された資産運用ノウハウ・インフラも無形財産として着実に積み上がりつつありますから、案外キャッチ・アップは早くなるかもしれません。
基金の現場では、切磋琢磨の試行錯誤を繰り返しながらドメスティックなものを作り上げるのが仕事になるのでしょう。しかし、資産運用の基本方針を定め、資産配分を決め、業者に運用を委託するという段階で、<運用機関の選択・解約>という問題が発生します。ここで、受託者責任に悖るような非常に悩ましい場面に出くわします。これらグレーな問題に、弱小・弱体な基金事務局はどのように対処したらよいのでしょう。
この対策として、我々の基金では、英国の資産運用経験と米国の金融理論の成果をミックスした「資産運用総合評価表」(添付事例の様式第1 号を参照)を使って、母体企業等の理解を促進し運用機関の選択・解約を実行しています。「英国の資産運用経験」というのは、定性・定量評価に際して定性評価のウェイトを80%にしたこと、「米国の金融理論の成果」というのは格付けの手法を利用すること、これら2つを組み合わせて基金が<運用機関の勝手格付け>を行なうところがコロンブスの卵となっています。
厳密な、或いはアカデミックな観点からすれば、全くの<まがい物>にしか過ぎないものではありますが、現場の基金のレベルでは、或る程度の客観性、合理性、透明性が確保され、説明資料としてはかなりの効果を発揮します。これを使って、ここ数年、我々の基金では運用機関の4社解約、6社採用を果たしております。
「評価表」の示す事実が、重い腰の現実をおもむろに打ち砕くようです。ちなみに20%のウェィトの定量評価に際しては、過去5年から3年の時間加重利回り、複合ベンチマーク対比の超過収益率、インフォーメーション・レシオ等々の数値を参考にしております。
現在では、国際会計基準等が入ってきて経営サイドも一般世論も年金に関する認識はかなり改善されつつありますが、現実のこととして弱小・弱体の基金がこの「資産運用総合評価表」を手段・ツ-ルとして使うことで、母体企業並びに運用機関等と対等に議論が出来るようになり、コミュニケーションが一段と改善するものと考えられます。併せて、資産運用プロセスの透明性が担保され受託者責任も一部保全されるものと考えられます。
以上、ひとつのドメスティックな手法の事例としてご覧いただけたら幸いであります。
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