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厚生年金基金事務長奮闘記-18

2010年08月26日 | 厚生年金基金

第5章 資産運用の立ち上げ

1.経営指針達成の方策

一般に基金の世界では「経営指針」とか「経営戦略」を掲げて事業推進を行うなどということはあまり聞かない話しです。しかし、明確な意識、戦略、マーケティング等を持って事業が行われてはいなくても、例えば年金給付は確実に行われなければならないとか、効率的な資産運用の追及とか、中脱者への受給権通知は100%実施するとか、高齢加入員への年金説明会の開催とか、老後生活の福祉の提供とかが個々に行われているのは事実です。その意味では、基金は確実に運営されているとは言えますが、逆に順法主義の整合性維持のためにハイコストを負担している事例(年金支払通知の都度送付、現況届への市区町村長証明の強制、雇用保険との給付調整、平成10年の非恒久的な公的年金税制改正等)も目立つようになってきています。

また、年金資産の別途積立金の取り崩し、再計算等の財政状況開示、資産運用委託先決定、同シェア変更等々の場面における客観性・透明性確保について受託者責任に抵触します事例も出てきています。更に、基金には、規約に始まって各種の規程・契約が数多く整備され法制体系は整ってはいますが、如何せん従来手法によるものなので、官主導が強すぎたり、時代錯誤でしたり、なにも規定してない規程であったり、時代にそぐわなくなってきてもいます。そのような中で、受託者責任ガイドラインが示されて、5.3.3.2規制の撤廃を受け資産運用基本方針も改訂され、基金会計の時価会計移行を踏まえて新規に財政運営規程も制定される等々、新しい基金のフレームワークの決定が着々と進んでいます。

これら多様な事項を個々に判断する際に、基金事務局では、ベースになる考え方を「基金」に対する各役職員のイメージから発した各々の状況の読み取りに個々人の政治的・政策的な取捨を加えて形成しているものと思われます。ということは、事務局内の個々人とのボトムアップ的調整によって良くも悪くも平均化(民主主義?)されたスキームとなってしまい、レンズによって集約された太陽の光りの一点のような高エネルギーを秘めたものにはなっていません。



欠陥制度の退職給与引当金制度を支えたものは、高度経済成長によるネズミ講シ
ステムが有効だったことと、企業に株式と土地の含み資産を蓄積する会計と税制の
歪みであった。
労働債務の“簿外債務”(含み損)を株式と土地の“簿外資産”(含み益)でバ
ランスさせる、巧まざるサーカス経営、これが日本的経営の本質だった。

末村 篤:年金が企業経営を変える~年金から見た日本資本主義論~
㈱日本投資信託制度研究所「FUND MANAGEMENT」 '97.夏季号




そこで、基金を動かしていくうえに重要になってくるのが、上記<レンズ>の機能を果たす「基金の経営指針」であり経営戦略です。これはもとより基金の哲学、ビジョンが背景にあることは論を待たないことです。総論として、ある程度普遍性のある基金一般として考えられる経営指針を基金制度発足30年の歴史と経験を踏まえて「似たような経験の蓄積」(R.ジアモ)が行われてきました基金の現場から帰納的に導きだすと、ひとつの事例として次のようなことになるでありましょう。



基金の経営指針

1.基金設立趣旨達成のため、経営資源の有機的連結により年金受給権の
確保、並びに年金給付水準と福祉の向上を図り、加入員等の老後生活保
障機能を実現する。
2.この原資を確保するため、合理的かつ効率的な資産運用を推進する。
3.これにより、加入員、年金受給者等、並びに母体企業(株主)に、老
後生活保障を低コストで提供する。



当然、経営サイドからすれば一家言があって良いのですが、残念ながら現今の本邦経営者にこの問題について発言する人物は今のところ見当りません。というより、残念なことに本邦経営者に年金問題について認識している人が少ないということ。退職給付を「功労金」と位置付けたまま「労働の対価」とは認識せず、退職手当引当金を引き当てていれば足りるという認識です。引当金という認識から年金債務という認識への移行には大きなギャップがあり、時代の変化がそのまま写しだされているようです。

振り返ってみれば、退職金の年金化(適格年金でしょうと厚生年金基金でしょうと)は、単に経営者が節税効果や経費の平準化効果を享受できただけには終わらず、年金債務を背負ったということです。問題の所在は認識されつつあるようですが、とてもビジョン形成にまでは至っていないようです。そうではあっても、今後、1、2年で導入される国際会計基準等のグローバル・スタンダードにより本邦経営者はそれを強制されることになります。後追いでは事業は成功しません、直ちに経営者のビジョン形成、ビジョン呈示を期待したいものです。たった今の本邦で、トップダウンが示されない経営土壌であれば、現場の基金事務所からボトムアップの上記のような<基金の経営指針>で対処せざるを得ないでありましょう。緊急とはいえ、このことは余りにもおこがましいことなのか、それとも問題がそういうことを内包しているのでしょうか。多分、僭越云々というレベルを遥かに超えたところに問題は所在しているのでしょう。

それは、我が国が戦後の復興を果たし国民の個人資産1200兆円を積み上げた時点で発生した従来手法の頓挫から新手法への移行、新しい社会経済構造の構築、我が国の文化の再建という一大イベントです。この壮大な企画を実現する端初を「企業年金」に見ている論者が少なくとも二人(加藤寛「日本の構造改革と企業年金改革」ライフデザイン研究所『平成9年版企業年金白書』・末村篤「年金が企業経営を変える」日本投資信託制度研究所『FUND MANAGEMENT』№9.10)はいるということは僭越云々を案じることではないのでしょう。問題が問題である認識を持てばおこがましさを反転できるでありましょう。






仮に、おこがましいという感覚が基金事務局に残存しているとすれば、それはサラリーマン根性、傭われ人、ゼネラリストの感覚であり、そういう者逹の思考回路の内部にも延長線の上にも、この問題に取り組む足掛かりは無いでしょう。先に筆者が述べてきました「運営から経営」というのは、「ゼネラリストからオーナーへ」ということでもあり、それはこの問題への関わり方を<我が身に近付けて>行うと言うことです。つまり、意識改革が必要なのです。住み分け、分の弁えなどという謙譲の問題ではなく、このことは国民一人一人の個人の重要課題であり、例え政府だとか、ましてや官僚、或いはオーナーなどに譲ってはならない事柄です。一人一人が自分の考えを、ビジョンを、哲学を持つべき事項であり、そのために先ず自主性とか主体性というより「個の確立」が求められるのです。

この意味では、日本には長いこと己れ自身で物事を考える(哲学)という思考習慣が育っていなかったと言えるでありましょう。お仕着せの哲学もどき(統制経済、終身雇用・年功序列・国民総サラリーマン等々)の下、日々の食の確保に汲々とし身を投げ出して(ゼネラリスト・単身赴任・うさぎ小屋等)働いてきて、ようよう国民資産1200兆円となったとき従来手法に待ったを掛けられ、新たなビジョンが要請されるようになり、いよいよ<哲学>の出番になったということでしょう。しかも、その哲学は伝統的な機能・演繹の二元論ではなく、「似たような経験の蓄積」(R.ジアモ)の果てに生じる統合された直感によって構想される類いのものでしょう。

さてさて、本論「経営指針達成の方策」に入りましょう。厚生年金基金の経理は、複式簿記(平成10年度からは時価評価)で行われます。健康保険組合を初めとして一般に日本の官庁簿記は単式簿記(俗に小使い帳方式)で行われています。このことが財政運営の上で、運営主体の独立性確保に際して大きな影響力を生み出してきます。例えば、健康保険組合の老人保険拠出金のような国家経理が直接一民間健康保険組合に侵入するのを許さざるを得ないようになっています。

ここでは官庁簿記は別のことにして、基金で行われている複式簿記の貸借対照表と損益計算書による経理の考え方について触れてみます。

基金は一般的に、貸借対照表の借方の資産を守り、貸方の債務を果たすことで、加入員等の老後生活を保障することを設立趣旨としています。つまり、資産の保全と債務の遂行のために基金は掛金を徴収し、年金を支払うことになります。これを全うするために、受給権を保護し、受託者責任を果たさなければなりません。このことは、基金は常に資産と債務のバランスを視野に入れました<最良執行>を求められているということになります。基金は<最良執行>を達成し、事業主と加入員等にローコスト・ハイリターンの老後生活保障を提供することになります。

これを達成するために基金事務所ではミクロの積み上げが重要になってきます。とは言え、ミクロを単発で個々バラバラに行っていては基金の顔が見えて来ないことになりますし、そういう基金の多いことも実態ではありますが、そこで、重要になってくるのが「経営指針」に基づく資源の集中化・集約化、経営資源の有機的連結による資本のシナジー効果を高めることであります。具体的には、<資産運用>を中心にして衛星的に<給付改善>と<福祉事業>と<広報事業>を配置し、これらの有機的連結によってローコスト・ハイリターンの老後生活保障を実現することになります。

一例として、業務の機械化により基金の自主性を確保しローコストを実現しインフラの武装集団に変貌させます。実務的には、Ⅱ型の業務委託をⅠA型に移行し、総幹事委託から指定法人委託に切り替えます 次いで、<給付改善>の一環としてハイコストを内包している代行型を加算型に変更します。その上、母体企業の財務体質を悪化させている退職金制度を基金に取り込み、母体企業の財務体質改善に寄与すると共に基金の資産規模を増大させます。その延長線上に、単独設立を関係会社の事業所編入により連合設立へ移行し、基金の資産規模を一層拡大し資産運用効果を増大させます。

<福祉事業>の原資は原則資産運用の利差益とし、各種補助金を始めに高齢加入員向けの老後生活設計作成の機会提供、OB会運営、遺児育英資金提供等々を行い、加入員等の視線を自然に基金に向けさせるよう仕掛けを作ります。更に、<広報事業>の展開において、経営指針の理解徹底を期してポリシー溢れる編集を企画し、ディスクローズを高めつつ、<我身に近い>、「同心而離居」なものを醸成していき、年金額の嵩に変えられない或るものを作り出します。年金受給者がここの基金に加入していて良かったと思ってくれるような、そういう或るもの。最後に、<資産運用>の最良執行を図るために、猛烈な金融関係の学習と運用改善の実施、コストダウンの追及を行い、運用実績を高めていくこと。



劣悪な市場と天動説経営を続ければ、ジリ貧の悪循環から抜け出せないことは明
らかだ。年金を中心とする国民の資産運用の観点から、金融・證券市場と企業経営
を捕らえ直せば、日本の現実、日本的経営と日本型資本主義は「革命的」な転換を
遂げねばならないことが分かる。

末村 篤:年金が企業経営を変える~年金から見た日本資本主義論~
㈱日本投資信託制度研究所「FUND MANAGEMENT」 '97.夏季号



とは言え、これらのミクロの事象を個々バラバラに戦略もポリシーもないまま行うのではなく、加入員・年金受給者等に意味付けを与えつつ、同時並列的に有機的連結を維持しつつ、包括的に再々継続的に事業実施をすることで「似たような経験の蓄積」を高めて基金理解のインセンティブ(誘因)を醸成することが必要です。そうして始めて、当初の経営指針は達成されるのです。





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