World Reimagined

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

イスラエルのパレスチナ攻撃とアメリカにおける抗議運動(2024年5月13日)

2024-05-13 16:09:08 | 時事

 イスラエルのパレスチナ攻撃を糾弾し抗議する動きが世界中で展開されている。中でも注目されるのは、大学のキャンパスを中心に広がりを見せるアメリカ合衆国における学生の抗議運動である。このような場合、支配層は大メディアを利用して、外部の人間が関与して扇動しているなどと運動のインパクトを矮小化しながら、民衆の関心を問題の核心からずらそうとするのが常で、この度も例外ではないが、この度の抗議行動は持続性を保っており、尚且つ拡大する様相を示している。学生の運動の性質は、マスコミが特に取り上げているコロンビア大学の「アパルトヘイトからの資本引き上げを要求する連帯行動」(Columbia University Apartheid Divest [CUAD])が掲げる「声明」に集約して表現されている。その一部を以下に訳出する。

・・・・・・・

CUADは、コロンビア大学に対し、イスラエルへの経済的・学術的投資をすべて放棄するよう求めることで、パレスチナの解放とイスラエルのアパルトヘイトの終焉を目指す学生団体の連合体である。私たちは、世界中の抑圧された人々との連帯と集団行動を通じて、連動するすべての抑圧システムの終焉を求める。

私たちのビジョン

私たちは自由なパレスチナを目指す。私たちは必然的に、植民地主義や帝国主義、そしてそれらを支えるすべての抑圧の連関システムから解放された世界を目指す。

私たちの価値

私たちは解放を信じる。すべての抑圧のシステムは相互に関連している: パレスチナ、クルディスタン、スーダン、コンゴ、アルメニア、アイルランド、プエルトリコ、朝鮮半島、グアム、ハイチ、ハワイ、カシミール、キューバ、タートル島(北アメリカ)、その他の植民地化された共同体の運命は相互に関連している。

私たちは、奴隷制の廃絶、トランスナショナル・フェミニズム、反資本主義、脱植民地化のために闘い、また反黒人主義、クィアフォビア、イスラムフォビア、反ユダヤ主義と闘うために、多世代の交流とアクセスが可能なスペースを作ることに尽力する。

私たちは互いの安全を守る。私たちは、刑務所、警察、利潤の追求、軍国主義、戦争、植民地主義、帝国主義が私たちの安全を守るとは信じない。私たちは、米国の人種差別的な移民法を武器にして、国境を越えた同志や仲間が声を上げることを阻止する米国移民関税執行庁を拒否する。私たちは、私たちのコミュニティを窒息させ、有色人種に対して圧倒的な残虐行為を行うイスラエル防衛軍に訓練された警察産業複合体の暴力を拒否する。私たちは、真の集団の安全は、私たちが死を生み出す機構から手を引き、生命を肯定する機構に投資するとき、つまり、すべての人がきれいな空気、きれいな水、食料、住宅、教育、ヘルスケア、移動の自由、そして尊厳を手に入れることができたときにのみ生まれると信じる。例外はありえない。

私たちは、パレスチナからタートル島(北アメリカ)にわたるまでの自決権、「土地の返還」、「帰還の権利」を信じる。

・・・・・

 トランスナショナル・フェミニズム、クイアフォビア批判、或いは「移動の自由」のような、民主党系リベラルも奉じるアジェンダーそれら自体は肯定できるものだがーも含まれているが、「反資本主義」「脱植民地」「反帝国主義」などの言葉からもわかるように、彼らの運動が、単なるリベラリズムの枠を越えた、西洋帝国主義批判を踏まえていることが伺える。アメリカにおいて、自国の帝国主義を批判する言論や運動は、少なくともベトナム戦争期にさかのぼる伝統があり、「東西冷戦」構造の解体後、やや下火になったものの、アカデミアを中心に命脈を保ってきており、ベトナム反戦運動や南アフリカのアパルトヘイト政権からの「資本引き上げ」(divestment)運動などを経て今日に至っている。CUADが組織化されたのは2016年であり、イスラエルのアパルトヘイト政権からの「資本引き上げ」要求も、過去20年に渡って行われてきているBDS運動の延長線上にあるもので、実際、CUADは2018年と2020年に、イスラエルからの「資本引き上げ」の要求を大学当局に行っている。同様の動きは、コロンビア大学のみならず、ほぼ合衆国全域にわたる50近くの大学や専門学校に拡がっており、いわゆるアイビーリーグと言われる著名な大学だけではなく、ジョージア州やバージニア州のような保守性の強い地域の大学でも抗議行動が行われ、筆者の出身校のニューメキシコ大学でも同様の動きが見られる。さらに、「反植民地主義」を掲げ、「利潤の追求」を批判し、「食料、住宅、教育、ヘルスケア」などに代表される「生存権」を追求する社会主義的な傾向が見られる。そのことも、バイデン政権が、この動きを強圧的に抑え込もうとしている理由だろう。イスラエル軍(IDF)が、ガザの病院や学校などを破壊し、現地に飢餓状態がもたらされているという現在の状況を考えると、「生存権」の問題は特別の重要性を帯びる。自国の帝国主義批判が運動の核心であるから、「朝鮮半島」に言及があるのは当然である。「反植民地主義」や「反帝国主義」を掲げ、反ユダヤ主義を批判する以上は、台湾やウクライナの問題についても、問題の根本は抑えているはずだ。

 彼らの要求事項の主なものである、大学当局に対する「資本引き上げ」要求だが、これは通常の不買運動のようなものにとどまらず、イスラエルとアメリカの軍産複合体の結託を批判するもので、自国のラテンアメリカ政策批判などとも結びついている。イスラエルが、冷戦期を通じて、グアテマラやメキシコの右派独裁政権に武器を輸出し、現地の反政府勢力の弾圧や住民の殺戮に加担していたことは既によく知られている。それらの武器は、パレスチナ人の殺戮に使われ、「効果が実証済み」という触れ込みで、ラテンアメリカ各国に売却されていた。アメリカにおける帝国主義批判の軸は、自国のラテンアメリカ政策と中東政策である。これに、マンハッタン計画以来、大学が軍需産業と武器開発に深く関わってきたという事実が結びつく。これらを、全体の連関の中で批判するのが、「資本引き上げ」要求の意味するところである。従って、「米国の人種差別的な移民法を武器にして、国境を越えた同志や仲間が声を上げることを阻止する米国移民関税執行庁を拒否する」というのは、単なる「移民保護」ではなく、自国の帝国主義的なラテンアメリカ政策や、それに伴う経済政策や移民政策を拒否するという意味に他ならない。よって、この度の、大学を中心とした抗議運動の広がりは、昨年の10月7日以降の展開を受けて、澎湃として沸き起こったものではなく、歴史的な背景を持つ、かなり高度に組織化された動きである。

 さて、以上の抗議運動は、あくまで非暴力運動なのだが、彼らは、「ハマスの『殺戮』も許容できない」という、主流メディアや既成のリベラル組織に典型的に見られる没歴史的態度にも激しく抵抗している。これは、前回論じた被抑圧者の「抵抗」と植民者の「意識」について重要な問題を提起するものだが、この点は、次回に論じる。