◎雨宮/自分が着る立場から、呉服店選びの資料、ガイドブックがあればいいな、という着る人目線で多くの呉服店を取材して感じた「いい呉服屋選びの条件」は3つです。①第一にきものを着ているお店です。昔のようにきものを着ると言うことが受け継がれていませんから、あれがいいのか、これがいいのか悩みます。ですからプロから丁寧に着る人の実感をもとにしたアドバイスを受けたい。②同年代の店員さんがいるお店。1人でよいのですが、自分と同世代の店員さんがいると、安心です。理想はベテランの大女将と若女将のいるお店ですかね。③雰囲気のいいお店。きものは高額ですから、いい雰囲気で、きものを選び、買いたい。有名店でも傾いているような、電灯が半分消してあるなんていう、小汚い感じのお店はいやですね。
◎あづまや/私は業界に17年間います。団塊ジュニア世代でバブル崩壊直前で、きものに限らず勢いがありましたね。しかし半襟1枚も分からずに修行にゆきましたから、社長に「おまえ本当に呉服屋の息子か」と言われました。不思議なことが多くありましたが、業界で食べて行くには我慢しなけりゃいけないのかなと思い、当時はやっていましたが、自分のお店に戻り、「自分が嫌なことはやらない」を貫いてきました。そんな時「きものを着ない人からは買わない」のお客様の一言で、毎日着るようになって、着る人と売る人のギャップを感じました。自分が着たいきものがない。男物は紺やグレー、茶で面白くもない。私は小柄なので女性物を時に仕立てますが、こんなんでいいのかな、そんな思いでした。私が店に戻って催事の勧誘訪問や電話を一切やめました。催事そのものもやめ、店頭で勝負しています。実際来店され、商品を見ているお客様に近づくと後じさりされているように、実際1歩後退、ということはあります。それだけ警戒されているんですね。でも最近はインターネットがあるので事前のお店を調べていらっしゃいます。来店されるので、やりやすくなりました。情報を、例えば「ネットにある木綿を見せて」ときっかけを作って下さる。楽になりました。チラシも値段ではなく、こういう物扱っています。こんなご相談下さい。としてからお客様も足を運びやすくなったように思います。いろんなお店がありますから、たくさんお店を見て選んで下さい。
こういう機会ですから本音で質問しましょう。まず最初に、「呉服屋さんは怖い」「敷居が高い」「まきまきされる」という言葉がネットでは飛び交っていますが、お2人はどのように受け止めていますか。
◎ひつじや/基本はお店はお客様のためにあります。お役に立とう、呉服屋を35年やってきたのでいろんな引き出しがありますから、活用して欲しいと思うのですが。かみ合わない。入店して何か見ている方に「いらっしゃいませ」というと「見てるだけですから」と怒る。やっと心が開けて、例えば「礼服の帯締め、帯揚げは-」とのお尋ねで「やはり白地に金銀が入ったもので-」というと、「何で、誰が決めたの。色物じゃだめなの」。何を決めつけているの、という感じで、訳の分からない反発をされ、それはそれでお客様がいいというのだから、恥をかくのはお客様だからいいんですが、「あそこで買った」と言われるからいい加減にもできず、どうやって理解して貰うか、時々面倒になっちゃう。昔は、お客様にきちんとした社会常識があり、物差しがあった。いまは、素人同士、呉服屋もお客様も素人で、お客様が素人なのはいいが、呉服屋の素人はいけません。繰り返しますが、呉服屋はお役に立ちたい。いろんな引き出しを持っているんで、活用して欲しい。商品や価格お店を見極めるのも1つですが、人で判断するのもお店選びの1つの方法ですね。信頼される関係をお互いに作ることですね。最近、この十数年マニュアルで呉服屋をやっているお店があります。小物でも何でも店頭で買ったら、礼状のはがきを出して、サービス品を提供し、親しくなったら3回目に催事に招待して、或いは何を勧めて…と、まあお店が売りたい物を客様に売っている。今はさすがにそういうお店は、なくなりましたといいたいのですが、残念ながら売り手本位の呉服屋は未だあります。サラリーマンですから売らないと首になりますからね。行き過ぎる事もありますね。それが「まきまき」ですかね。お客様もいろんなお店を回り、ドンドン質問をぶつけ、曖昧な答えしかできないお店は「勉強しなさいよ」と鍛え、お店を育てて下さい。それでもだめなら見限って。いろんなお店を見て、欲しいですね。それと地元のお店、緊急に時に役に立ちますから是非地元のお店も引き上げ、育てて下さい。
各コーナー必ず着る人委員会を代表して委員の方に参加頂いてます。このコーナーでは今年春に東京を中心に呉服店、小物のお店などを紹介した「東京きもの案内」を上梓したもフリージャーナリストの雨宮みずほさんにお願いしました。雨宮さんはご自分がきものを着るようになって、敷居の高い呉服屋さん、まして銀座の一流店には飛び込みでは入れない。着る人にとってどんなお店か分かれば、どれほど便利か…と思ったが、そんな呉服屋ガイドブックはない。であれば自分で作くってしまえと、光村推古書院の編集者をくどき、1年間に都内を中心に200軒近くの呉服屋さんを1軒1軒丁寧に取材して作ったのが、この東京きもの案内です。アンケートでもこのコーナーが、今回一番人気でした。さて、どんなお話になったかは、次回。
売る人交流は、アレコレが知る限り、生き字引のように経験、知識が豊富で、しかも引き出しが多くて、お客様に「素敵にきものを着て欲しい」と誰よりも熱い心を持つ個性的なお店を経営している最強の2人に出演を頂きました。写真左は、愛知県西尾市の「あづまやきものひろば」の店主・柴川さん。今回のUstream放送ができたのも柴川さんのお陰。「きものを着ないお店からは、買いたくない!」というお客様の一声に、頭をがっんとたたかれたような衝撃を受け、以来きものを着る毎日。着てみて初めてわかる数々に目からウロコの毎日で、あの時のお客様の言葉が、今の自分の原点と、産地や職人など現場に飛び込み、生き生きと「きものが楽しい」と猛勉強中。写真右は大田区蒲田の「ひつじや呉服店」の店主・上田さん。最盛期蒲田商店街に36軒あった呉服屋が、チェーン店はあるものの今や地元の呉服店はわずか2軒。それだけにお客様がさまざまなお店、下着はどこ、木綿はどこなど使い分けていたお店がなくなり、「ひつじやさん、何とかして」の声に、自分では趣味の店をと思いつつも、アイテムは増える一方。そういう意味では、お客様の要望に応えた品揃えのお店で、店頭の商品の数は半端じゃない数の多さ。独自のきもの美学は傾聴に値するが、初めのとっきにくさは、はっきりいって「ある」。良薬口に苦し、違うか。きものへの情熱は誰よりも猛烈で、時にはお客様に説教も。アレコレで1年間連載していた「暖簾の向こう側にメェ~が一頭」は人気のコラムで、ファンも多い。