いま世界の哲学者が考えていること | |
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哲学というと堅苦しく感じるのかもしれませんが筆者の指摘のように歴史の転換点では科学技術が進み、そして社会に対する影響、人間生活に対する影響を議論する手段として哲学が大きく展開するという事実としてあります。この本はいま特に哲学が課題としている旬な議題である、「IT革命」「バイオテクノロジー革命」「資本主義の暴走」「宗教の再活性化」「地球温暖化」など、21世紀の世界に生じている重大問題を哲学ではどう捉えているかというのを特に一方的な立場に偏ることなく解説した本でありそうでなかった本だと思います。博士の学位は神学・法学・医学を除いたリベラル・アーツ系ではDoctor of Philosophyと呼ぶことになっていますがこの古典的くくりによれば自然科学と哲学というのは同じ分野に入ってくるわけで日本だと文系/理系で分断されている分野が実は密接に関係すべきなのだということがいえるのかと思います。逆に言えば自然科学の研究者も常に哲学というのを意識すべきなのでしょう。
今の哲学の潮流は18世紀:構築主義・相関主義(コペルニクス的転回)及び20世紀:言語論的転回
(分析哲学、構造主義、フランクフルト学派)、ポストモダンを経てポスト言語論的転回
①実在論的転回: 思考でなく実在するものから考える哲学
②メディア・技術論的転回 :媒体からのコミュニケーションを考える哲学
③自然主義的転回:認知科学的に心を考える哲学
③というのが起こっているというのが状況です。意識を分析するところから言語の分析になりその後ポストモダンの問題提起があった後、特に主流というのは無く多様な意見が展開されているというのが実情と言えそうです。
IT革命に関していえば技術を手にして自由の翼を手に入れたように見えて実は監視されやすい社会を作ってしまっているのかもしれません。IOTがブームにもなっていますがあまりにもすべてがPlugInされた世界というのは逆に危険だと感じているのは哲学者も基本的には同じようです。BT革命に関してはクローン技術、延命技術の発展がどこまで許されるのかというのが論点。こういった人間そのものに対する技術は否定することは自らの技術発展を否定することもにつながりかねないという点、ただどのように規制するのか明確な答えが下しがたいという点で難しい話になりそうです。
資本主義や宗教に関してはグローバル化、民主主義、国民国家とのトレードオフの関係から今後はしばらくグローバル化というのは縮小しそうな気配。また資本主義のほころびというのも見え始めていて不平等さというのはどこかではけ口を求めていそうです。ここら辺は時代の中で常に揺り戻しがある項目の一つかと思います。今はどちらかと言えば保護主義的な流れの戻りつつあるように思います。
もちろん明確な正解は無いのですが技術や社会変化に対してどのように対処すべきか、解釈すべきか一つの考えるきっかけになる本だと思います。自身としても社会に貢献する技術の在り方を考えさせられる内容でした。今の自分の関わっているものとしてはこういった倫理観まで問題のある事象は無いのですが製品の寿命の在り方、については正解は無い物に等しいものではありますが完全と言えるものが無い以上、さらに考え方を詰めていく必要があると思います。
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