Takekida's log

千里の道も一歩から

漁業版プロジェクトX -近大マグロの奇跡-

2014-01-05 00:10:52 | Books
気持ちの良い天気が続きます。今年は寒いとの予報も聞きましたが今のところは雪が積もることもなく穏やかな日が続いています。
近大マグロの奇跡: 完全養殖成功への32年 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社

 まさに漁業版のプロジェクトXと思ってしまったのがこの本。言わずと知れた回遊魚であり日本人に最も好かれるマグロを完全養殖してしまいましたという話のドキュメントです。新たなものを作り出しているという時点では偉そうなことは言えませんが最も生態系に影響を与えない形で魚を育てる手段として完全養殖(=天然の稚魚を育てるのではなく産卵から成長を人工的に管理)があります。
タイやブリ、カキなどは養殖が夢いですが今までマグロの養殖が難しかったのはそもそも成魚のクロマグロとは対照的に幼魚のヨコワが非常に酸素飽和度や海温、光といった外乱に対しデリケートな魚であることが挙げられます。

これらの問題に対する工夫として
①温度制御 11年の空白期間は黒潮蛇行時期と重なる
②衝突パニック死の抑制 明暗制御
③選抜育魚 意図的に成長の速い個体を残す 共食い抑制のためにも必要
を実施しているようです。
今は相当数を輸入に頼っており世界のマグロを食べつくす状態であったわけですが今後は生態系の保存という面からも
養殖によるマグロの育成が期待されます。

このマグロ養殖に尽力したのが熊井英水さん、本書は熊井さんの歩んできた人生の集大成の結果であり、生い立ちそして近大の助手になってからの努力が記されています。

また完全養殖では先日、ウナギも養殖に成功との話がありました。漁業もこういった技術がものをいう世界ではさらに生き残りが出来る可能性も高いと思います。特に日本は海に囲まれているだけになおさらです。

 この話を聞いて感じるのはやはり技術というのは時間がかかるということです。成功する32年の中で11年も全く成果が出なかった時期があるというのは驚きで短期的な成果だけ求めるような場所ではこういった画期的な革新というのはなかなか生まれないものと思います。(近大の研究所の場合は養殖で作った魚を売るという手があったので自前で予算獲得できたというのがありますがあきらめていたら終わりです)であるからして企業ではできない大学での基礎的な研究と人の情熱と執念といった基本的なものが非常に重要だと改めて感じました。自分は量産に最前線ということでそういった研究とは真逆なところにいるわけですが研究>開発>製品化という流れをどのようにつなげていくか視点を持つことを忘れないようにしたいと思います。

この養殖のマグロの食べられる直営店はすでに大阪にありますが去年の12月には銀座にもお店がOPENしています。
近畿大学水産研究所

ここまで書いておいてなんですが個人的にはカツオの方が好きです。もともとマグロは食べ始めたのは江戸時代のいわゆるヅケの形で流通したものが最初でトロ刺身は戦後からとのこと。カツオはその名の通り縁起の良い魚でもあるので昔から食べられていたとか。
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