品目横断的な経営安定政策がはじまる。
まずは良かった。
これで私が長年言ってきた「機関車農家」(大綱の「担い手」のこと)を走らせる仕組みができたということ。実に15年かかった。
機関車農家は、農協などで講演すると実に受けがいいのだが、しかしこれを政策課題とすると、農協は反対にまわるケースがあった。農協が主張する、集落営農も、実は機関車農家論を取り入れれば何の問題もなかったのだ。機関車農家を明確にしてればそれで良かったのに。
そうしないと集落営農は実に怪しいものになる。
この間、農協主導で作った集落営農は、産地づくり資金の受け皿といった性格がある。この「産地づくり資金」は、地代に転化するため、所有者支持的で問題なのだ。農業振興には後ろ向きになってしまう。だからそうした性格を持つ集落営農も問題である。
それはそうと、経営安定政策について。
新聞は、業界紙歓迎、全国紙がほとんど無視。地方紙懸念表明、といったところか。
意外だったのは、農協系の業界紙が全て肯定的なこと。
そりゃそうだ。
あれだけ選挙で小泉自民党案を支持したのだから。
また自民党の「農業基本政策小委員会」でもすんなり通ったことも意外。
地域エゴや一部の利益誘導エゴがもっと出ると思ったのだが。くだんの松岡委員長は4年前とはうってかわった改革派。農林族といわれる人もいなくなった。
そのせいでもないと思うが、「日本農業新聞」は「新しい経営安定対策」という特集を組み、農協の役職員に趣旨を徹底して「担い手育成」の運動を展開しようとしている。これまでの農協からすれば180度変わった感があるが、我が国の土地利用型農業の再生には唯一この道しかないという悲壮感がある。
それだけ政策環境は変わったと言うことだろう。
しかし河北新報などの地方紙は、農業衰退につながる可能性を指摘している。
世が世なら、政策小委員会で地域エゴを主張する議員のバックアップ論調となるのだろう。ただ、論調は、「離農が加速する」(28日)とか「山里の農また荒波」などという少々見当違いの評論。
「中山間地直接支払制度」で、「山里」の支援対策は先に走っており、ある程度の実績が出ていることを、この記者は知らなかったのだろう。
さらに30日付の社説。この記者はよく勉強していると見られるが、制度設計上の問題と、農業を振興する方策とがごっちゃになっている。相変わらず、農村政策や中山間地対策が不備といっている。
蛇足だが、「離農」概念が不明確なのだ。「離農」や「就農」という概念は、機能で明確に定義しておかないと主張は情緒的になってしまう。すでに担い手が高齢化・兼業化で等でいない、つまり離農者多数となっているのが問題なのだ。
これを少数者でもやれる体制に持っていかないと、なし崩しになるという危機感が対策の基本。だから対策では、離農を加速するのではなく、就農条件を整備するのが課題。
こうした社説が出てくるのは、わからないでもないが、おそらく、政府が、政策の守備範囲を明確に主張し切れていないせいだろう。
政策は、一つの施策によって一つの課題を解決するのが基本。マルチ対策は意味不明の予算ばらまきになりがち。
経営安定対策は、土地利用型農業の国際競争力を高めるためにも、担い手を特定し、その活躍によって波及効果を得る(就農者の拡大)という一点突破型の農業振興をはかろうとするもの、それが今回の政策意図。
中山間地農業振興に関しては、直接支払や経営基盤促進法の改正が考えられている。また農村政策に関しては、資源管理型の直接支払いなど、別の政策体系によって既に振興策は動き出している。社説が言うような課題に、経営安定対策は機能しない。いわば無い物ねだりの主張となる。
課題は、社説も主張している様に、これで農地集積が進むかどうか、の一点だけ。
このスキームを粛々と進めて、生産数量の維持が可能か否かである。
担い手(機関車農家)が多くを引き受け、規模拡大を果たし、さらに彼ら担い手が増える方向に誘導、これが大綱のスキームだが、果たしてそれがそのようにいくかどうかである。
それを実現するのに、農協は役職員に内容を徹底しはじめたのだが、成功への期待感がなければ、今のままの構造が続く可能性が高い。それでは農地流動化は進まない。
懸念はこの一点だ。成功するかどうかは現場の人にかかっている。結局人次第。
それにしても農業への言及が少なくなった今日、社説まで使って評論しようとする新聞はあるだけでいい。
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