外務省に設けられた研究会、「食料安全保障に関する研究会」の報告書。
報告書名は、「我が国の食料安全保障への新たな視座」というもの。
内容は、食糧安保の基準を、食糧自給率におくのではなく、、といったものだが、内容の要約は以下の通り。
1,食料安全保障の考え方
現在、日本国民の食料安全保障は概ね確保されていると言えるが多様な食料供給リスクに直面しており、いかなる時でもこれが確保される様にすることが課題である。本研究会では、食料安全保障を「平時」(日常の食料の安定供給。「有事」以外のリスク対応を含む。)と「有事」(戦争等により全面的或いは相当規模の食料供給の不足が発生した事態又はそのような事態が発生する危険が追っていると認められる事態)の2つの次元に分け、それぞれの局面における対策の在り方やコスト・ベネフィットを検討した。
2,「平時」の食料安全保障
(1)日常の安定供給確保
・平時における食料安全保障の担い手は主として民間で、政府は、できるだけ安価でかつ安定的に、多様で安全な食料の供給が確保される様、民間の自由な経済活動を支援すべきであり、輸入円滑化・安定化のための諸措置、シーレーン防衛、物流インフラの整備等、サプライ・チェーンが阻害されることのないような政策対応をすることが重要
・国内生産力及び国際競争力の強化のためには、高い農産物価格による保護政策を取るのではなく、関税を下げ、市場を自由化することで、生産者に対して正しい価格シグナルを発信し、価格シグナルを受け取った生産者の経営判断により農地の集約や大規模経営等効率化を進め、その結果、国内農業及び国際競争力が強化され、平時のみならず有事の際の食料安全保障の担保に繋がる。
・なお、貿易自由化による国内価格の下落による農家の収入減に対しては、デカップリ
ング型の直接支払いで対応することが適切である。
(2)有事への備え
・日本では不測時における食料安全保障に関する個別の法律は存在するが、真に有効、迅速な対応を行うことは難しく、有事法制の中に位置付ける必要がある。
・既存の国内農業資源を正確に把握し、有事において必要最低限の食料供給を実現し得る農業資源の確保・維持・生産転換計画の策定が求められる。
・輸入の安定供給は食料安全保障の不可欠の要素。国境措置の削減・撤廃、輸出国との関係強化、輸入源多角化、輸串規制の制限等も必要。
・備蓄については、民間在庫の量や種類、所在、流通ルートの把握など、有事における備蓄・在庫・分配の管理に関する制度を整備する必要がある。
3.「有事」の食料安全保障
・より大きな安心感を国民に与えるためには、いざという時に必要とされる最低限のリソース(農地、生産者)をその動員・活用方法をコストとともに提示することが必要である。
・輸入の安定性の確保のためには民間ベースでの繋がりが重要であるが、国内生産障害が発生した場合の備えとしては、食料輸出国との外交を通じた緊密な二国間関係及び.ビジネス環境の整備が効果の高い対策と言える。
・輸入途絶と国内生産障害が同時に発生するという最悪の場合には、備蓄が唯一の食料供給のためのツールとなる。その在り方等について、オプションを示しつつ国民に説明する必要があろう。
4.日本の食料安全保障を評価するための指標
・戦時中・終戦時の自給率はほぼ100%であったが,国内の需要が十分に満たされていたということではなく、食料安全保障の観点からは食料自給率が高ければそれでよしとするものではない。
・食料自給率はあくまでも国民の食料消費量に対する国内生産の割合を示す結果としての数値であり、それ自体が食料安全保障を担保するわけではない。
・国内農業の競争力が強化された結果として食料自給率が上昇することはあろうが、自給率自体の向上が目的化された場合は効率性が犠牲になる。
・先進国になるほど輸入を通じて食生活を多様で豊かにする傾向があり、食料自給率目標は国民生活の実態にそぐわない。
・国内生産が阻害されるリスクに備えることも必要であり、食料自給率はその意味でも変面的なもの。
・食料安全保障を包括的に評価するには、(1)国内生産、(2)輸入、及び(3)備蓄の各項目の評価指標を用いて、総合的に判断できるような指標を開発することが必要。
5,日本の食料安全保障を巡る今後の課題
(1)日本の食料安全保障の現状の評価する指標として食料自給率は適切でなく、必要最低限の食料供給に必要な農業資源の情報や農業技術を数量化し、食料の供給力を総合的に判断すべき。そのための平素からの農業資源ー技術に関する情報収集を行うことが必要。
(2)日本の農業の国際競争力強化のためには、自由貿易推進による正しい国際的な価格シグナルの発信が不可欠。EPA/FTAを推進する過程において国内農業資源の生産性を改善・強化が必要。そのためには、平時において食料安全保障の強化に資する農業政策を策定・実施することが必要。
(3)「不測時の食料安全保障マニュアル」記載されている対策を実行するための担保措置の策定が必要。また、食料安全保障を軍事やエネルギー問題と同様、総合安全保障の一環と位置付け、有事法制の中に組み込むべきであり、有事において食料の配分方法も含め、緊急時の食料生産システムを具体的かつ詳細に策定が必要。
(4)現行の備蓄制度を見直し、「有事」のための実践的な備蓄制度のメニューをコスト・ベネフィットの視点を踏まえて国民に提示し、国民的なコンセンサスに基づいて制度化を検討する必要。
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