ハニカム薔薇ノ神殿

西南戦争の現地記者の歴史漫画を描いてます。歴史、美術史、ゲーム、特撮、同人誌の話他

「水彩画では勝てないのですか?」というお話

2015年06月03日 | 文学・歴史・美術および書評
先日の学会で仕入れたネタです。

私、水彩画が好きです。あの淡い優しい色使いがとてもいい。
好きな画家も水彩画家多くて、シメオン・ソロモンもすごい上手い。
バーン・ジョーンズ、ウィリアム・ブレイク。
イラストレーターさんになると、「アンジェリーク」の由羅カイリさんも水彩ですし
あと天野喜孝さんはじめ、日本にはけっこう水彩上手い人いらっしゃる。ピーターラビットも好きです。

ところが、どうしても水彩画で淡い絵というのは、淡いゆえに地味で
「短時間で人の目につきにくい」という欠点があります。
人を「パッと引き止める」キャッチーな色というのは、やはり、蛍光ピンクや発色の良い看板の赤です。
それを誰もかれもが無計画にやっていった結果どうなるかというと、歓楽街のネオンになるのです。

かつて同人誌イベントに出ていた時、イラストボードを立てていましたが、
「好きで描いたのを選択のままに出してもダメなんだなあ」と気付いていました。
まず、イベントでの販売時間は4~5時間しかないわけです。その中でまず、最初お客さんはチェックし大手に行く。
戻ってきてちょっとまわる、それで帰ってしまう人もいて、勝負は午後1時半~2時まで、
実質1~2時間で勝負はついてしまいます。
マッタリなんで勝負しない、という手もありますが、活動資金がヤバいと「倒産」なのでそこはせめて
印刷代くらい回収しないと次はもうない、となる…ああ、出版関係って似てる。

その短時間で目立つのは、やっぱり派手なフルカラーCG。私が出ていた時はまだポスターのオンデマンド印刷は
そんなに普及していなかったせいもあって、コピックのボードというのもありました。
カラーインクというのはメリハリがあって濃い色も出せて発色もいいので、水彩よりは目立つかもしれません。

「小さく全身像をA5のボードに丁寧に描いた水彩画」と、「雑だけどキャラの顔の大アップをB2の紙にCG」
というものでは、どっちが人の目に止まるかわかると。
絵は、人目につかなければ埋もれてしまう。ならば人気を取りたけりゃ

「小さいものより大きいものが優位」
「地味より派手」
「わからないものより猿でもわかる画題」

なんかこれをガチ表したのってアンディ・ウォーホルのような…。
安易にやっちまうと芸術としての価値なんか泥沼化しちゃうって所でしょうね。

18世紀後半から、19世紀前半にかけて英国で活躍した、ポール・サンドビーという画家がおりまして
英国水彩画の父と呼ばれています。
18世紀後半に、「水彩画用の画用紙」と、透明水彩絵の具、グワッシュはもう販売されていて、
「ワットマン水彩」なんて、今も水彩を描く人は好んでスケッチブックを買ってるかと思います。

しかし、当時この「水彩」というのはまだ地位は低くて、画家がメモとしてスケッチに使用するとか
絵を趣味でたしなみたい奥さんや暇人が
、プロとしてのテクニックを学んで「いざキャンバスと戦う」をやらなくてもよい、
という「気軽」なものでもあり、気軽であるがゆえに「格下」とみなされるものでした。
まあ今でもいますわな…へヴィーを気取る人。ライトであるというのは「命がけで毎日何時間取り組んで、人生費やしてると思ってんだ」
という人らから見ると、神経逆撫でするもんらしいです。←しかも怒る人はそれ相応に行き詰って視野が狭くなっていたりする。

ロイヤルアカデミーの絵の展示において、油絵ででっかい絵をバーン!入り口、入りまして正面の壁に展示、
というのが一番目立ち、成功している画家。
まあこれ、コミケで例えるなら「外壁サークル、客は外並び」にあたります。
一方、水彩画をやっていた画家というのは別室にかためられた末見られなかったり、
どんなに上手くても隅っこ展示のため見落とされたり。
これって…コミケで言うところの「島」の通路、それも西館てヤツだわ…(;^ω^)

「頑張れ云々の前に、画材でもう優劣決まってるじゃないの」
そういう不満が当時の画家らにあったらしいです。ヒエラルキーは仕方無いよ、実力の上手い下手だけなら納得する、
けれど画材がそれだからもうアウトってのやめてくれ、というのでしょう。
今なら「フルカラーCG表紙の本は買うけど、コビー本はどうせクソしかないだろ金は出さん」ってやつですかね。

当時の英国人はどうしたかというと、1つの解決策として
「水彩画だけの団体を作って分離した」
これは…もし今、応用するとなると「コピー本、オンデマンド本のみの即売会」って事かも。
(あ、これいいかもね!低価格でたくさん買えるし)

そして、水彩画の父サンドビー先生はどうなさったかというと…

「なら油絵っぽくでっかく描けばいいじゃん! 負けないじゃん!」



ちょ… え?

でも、水彩絵の具に油絵の具は混ぜられませんから。
だから、グワッシュで描いた。←ん…まあ水彩やがね(;^ω^)

「グワッシュで描いた絵」というと、わかりやすい所では、機動戦士ガンダムの安彦良和さんのカラーですか。
透明水彩と不透明を混ぜるというと、「クリーミィーマミ」の高田明美さんとかやってた気が。
うむ、漫画家さんは多くの方が、カラーインクと水彩とコピックとポスターカラーとグワッシュと色鉛筆を
なりふりかまわず使ってたりするし。
今ではあんまりこだわらず、色々使って試したがいいかんじですけどね。
それは「紙」に描く文化が発達してから、の事になりますか。紙のおかげは大きい。
いずれにせよ書道半紙やティッシュにはムリだわな。


そうして描かれたのが「ヴィンターズの眺め」という作品だそう。1794年。
サンドビーがせっかく大きいのに描いたからここは大きく表示してやるぜ。
67.3×101.6cm 水張り大変だったろうな。




真中に描かれている建物は、あのワットマン水彩を産んだワットマンさんの製紙工場です。
サンドビーはワットマン工場で作られたヴォーヴ紙を用いて描いたそう。

この話は、まず伝える前になんとか見てもらいたいのに、そもそもその段階に行く前に選択されてしまう
というツールや媒体、美術用語で言うところの「メディウム」「ミディアム」に格差闘争がある、というので
けっこう身につまされて感じた部分がありました。
当時、「でもオレは水彩が好きなんだよ!水彩ラブなんだよ!わかんねぇならもういいよバカあああ!」ってのがいたんだな
と…実に楽しい。熱い。

アナログの水彩も久しぶりに描いてみたいなと思いました。はいはい、趣味でライトだけど。
楽しいっすよね…水彩は。ぜひグワッシュと混用併用でやってみたいですね。

描くには紙買わないと。
水彩紙作ってくれたワットマンさんに敬礼です。

+++++++++++++++
このネタは慶応義塾大学、山口美帆先生の研究から、5/23にいたただいたレジュメに基づいて書きました。
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1 コメント

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Unknown (よっさん)
2015-08-24 12:34:25
はじめまして、自分の今の苦悩そのものの記事に出会いました。
昔はイラストを、今は透明水彩をぼちぼち描いているのですが、「講師」の立場の方に言われた言葉が
「上手い、何時見ても上手い、何度でも見たくなる、でも大きな展示会で並べると目立たない、惜しい」
また別の方には
「展示物は目立ってなんぼ。ぱっと目を惹くのはデッサン歪んでても派手な油絵やガッシュ絵」
で、「もうひと皮剥けてみようや」「ガッシュ描こうや」「大きいの描こうや」
いや、私は透明水彩が好きなんです!
展示会の為に描いているのではない!
しかし、落ち込み方は半端無い今現在(笑)
目立たせる技術とういかテクが無いヘタクソなだけなんですが・・・
でもやはり好きなものを描いていきたい。
へたっていましたが立上がれました、ありがとうございます。

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