西村一朗の地域居住談義

住居・住環境の工夫や課題そして興味あることの談義

「原子力発電所」と地域開発(1973年2月『公害と日本の科学者』より)

2011-08-24 | 京都の思い出(助手時代)
今から38年前、32歳だったころ、私は上記のような「論文」を書いた。

長年、書いたことは覚えていたが、内容は明確には覚えていなかった。今日、資料整理で出てきたので、私が「若い」頃、「原発」を地域開発の立場からどうみていたか、記録として再録しておきたい。「原発」認識の初期のころのものだが、基本的には現在の認識と大きく違ってはいない。

<はじめに>
 現在、全国の特に過疎地の海岸部で「原子力発電所」が建設されようとしているが、その安全性や温排水などの問題を中心にしてその地域住民は疑問を持ち「反対運動」が展開されている。そのような場合、設置をしようとする側から出される主張の一つとして「原子力発電所は地域開発に役立つ」ということがある。はたして、主張は本当かどうかを理論的に、また実際に則して検討し、それに対するに地域住民はどのように考えたらよいかについても検討してみるのが本稿の課題である。

<原発が「地域開発に役立つ」という主張の内容とその批判>
 では「原発」が「地域開発に役立つ」という主張の内容はどういうものであろうか。

いくつかに分けてみると、まず第一は、「原発」そのものの存在が地域経済にプラスになるという主張である。具体的には、従業員の地元採用により雇用を増すとか、「原発」の温排水を利用して養殖漁業をしたり、また地域暖房に役立てるなどということである。しかし、雇用増といっても高度な技術を必要とする「原発」の運転・管理に、一般に「原発」が建設されようとする農村、漁村地帯の労働力は対応しえず、せいぜい守衛とか掃除夫とかの雑役に若干の人が雇用されるにすぎないだろう。(注1)
 また温排水利用の養殖漁業であるが、放射能が温排水に皆無という保障はなく、もし極微量でもあるとすれば、食物連鎖で濃縮されて人の口に達する恐れが強い。さらに、地域暖房といっても、そのような過疎地での配管には莫大な費用がかかり、都市部の例(「泉北ニュータウン」)でもそれを行っているのは都心部のみでまだ一般住宅地にはほとんど及んでいないのであり、その実現は疑わしいと言える。
 注1)「原子力発電所の関電1号では、約800人の正社員は地元採用ゼロ、増設のため臨時に40人雇っているだけ。」(『朝日』72.5.12)

 「原発」が「地域開発に役立つ」という第二は、、関連する「公共投資」が増えて過疎対策になるという主張である。その良い例が道路建設である。福井県大飯町の例では、「原発」予定地の大島半島から町の中心本郷へ橋を架けるという地域住民の年来の念願が「原発道路」の建設という形で実現しようとしている。この点について、日本科学者会議京都支部の報告書は次のように述べている。「6年前に大島半島では、道路建設期成同盟がつくられ、県への陳情を繰返してきた。それが、1971年3月原発抱き合わせに幅員5.5m延長13kmの県道(本郷ー赤礁崎線)計画が決定された。工事費25億円のうち、県の負担は3億で、県道とはいっても、関電の建て替え代行建設である。・・・関電の代行によって建設されるという事態は、住民を当惑させ、安全性と利便性を天秤にかける危険な方式である、といわねばならない。この点で、県は、公共負担で、道路事業を実施することを住民に保障しなければならない。」(『原子力発電と住民』p.73)
また、「原発」そのものや道路・港湾等「付帯的公共工事」の増加に伴っての建設労働の増加が地域住民の収入にプラスになるとする意見もある。たしかに建設工事が雇用を増加させるが、そこでは高度な技術や大きな資本を必要とするという点から、大企業やその系列下の建設会社が建設工事の中心となり、従って建設工事の一部にしか地元資本が参加しえず、また地元住民も一部の臨時的不安定雇用を期待できるにすぎない。地域開発は「町民が期待する『生活道路』や『住宅』や『体育館』などの『町づくり』に、地元をよく知っているということや住民との結びつきもあるということから積極的役割も果たしうるという、町民のために町民とともに発展していく別の展望があることを忘れてはならない。」(『同上書』p.68)

 「原発」が「地域開発に役立つ」という主張の第三は「原発」から税金が地方自治体に入りそれが地域住民の福祉に役立つといっていることである。ところで実態はどうであろうか。「美浜町では、関電美浜1号の昨年度固定資産税は、1億2千百余万円だった。しかし、その75%相当分については、国から配分される地方交付税が減額され、”実益”は約3千万円.昨年春に東京電力の福島1号が動き出した福島県大熊町でも、今年度から固定資産税が入るが、同じように”実益”は5千万円ぐらいになりそう。・・・電気事業は、公益性重視ということで優遇され、地方税法により操業後5年間は他の事業の税率の3分の1、次の5年が3分の2.それに、地方交付税は市町村の財政需要額をはじき出し、収入の足りない分を補う目的で配分されるので、収入がふえれば交付税はへらされる。」(『朝日』72.7.22) 「原発」を積極的に誘致した市町村ですら、国に対して”核燃料消費税”と”原発所在市町村特別交付税”の新設を要求しているほどである。(『日経』72.7.22) 一方、「発電所の出来る地区の学校や道路の改修。また町民全体に建設に賛成してもらわねばならず、他の地区も同じように整備する必要がある。このままでは起債がかさむ一方で、財政はピンチだ」(『朝日』72.5.12)ということになるのである。

(続く、<現状で「原発」が地域に与えるマイナス>、<住民本位の地域開発と「原発」>)

まあ、実例として若狭湾の大飯、美浜原発を主に例にだしているが、東電福島第一も「チラッ」と出てきている。




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