一歩先の経済展望

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トランプトレード活発化へ、その後に待ち受ける負の波紋 日本にも必要な覚悟

2024-11-06 15:45:35 | 経済

 米大統領選は共和党のトランプ前大統領が優勢なまま開票が進み、6日の東京市場では株高・ドル高・長期金利上昇という「トランプトレード」が活発化した。この後の欧州市場や米市場では一段と株高やドル高の動きが鮮明になる可能性があり、ドル/円は155円を突破する展開もあるだろう。

 ただ、初期のトランプ勝利を織り込む動きが一巡した後は、トランプ氏が来年1月の大統領就任式以降にどのような政策から実現を図るのか、タイムスケジュールや具体的な中身をトランプ氏自身の発言から探る展開になると予想する。その際は、西側同盟国にも一律に10%の関税をかけるという政策が日本企業にどのような負担になるのかということも大きなポイントになり、それが日本株の上値を抑える可能性もある。

 さらに中期的には、トランプ氏の政策が沈静化してきた米国内のインフレを再燃させ、米長期金利を押し上げて米株価の乱高下を招くというリスクを意識させることになると筆者は指摘したい。トランプ氏の政策展開によっては、世界経済が大きな波乱に巻き込まれる懸念が増大しそうだ。

 

 <トランプ氏が勝利宣言>

 日本時間の6日午後4時過ぎの米大統領選の開票結果によると、トランプ氏の獲得した選挙人は266人となり、過半数の270人に迫ってきた。ハリス副大統領は195人にとどまっている。まだ、勝敗が確定していないウィスコンシン州、アリゾナ州ではいずれもトランプ氏がリードしており、この2州での勝敗が確定した段階で、トランプ氏の大統領選当選が確実になる。

 トランプ氏は日本時間6日夕、支持者を前に「今夜、歴史を作った」「米国でかつて見たこともなかった勝利」「これからが米国の黄金時代」と述べて、高らかに勝利宣言を行った。

 

 <東京市場は株高・円安>

 6日の東京市場では、トランプ氏優勢の情報を材料に日経平均株価が前日比1005円77銭(2.61%)高の3万9480円67銭と大幅に続伸。10年米国債利回り(長期金利)はアジア取引時間帯に一時、4.465%まで上昇した。ドル/円は154円台へと約3カ月ぶりのドル高・円安となった。

 複数の市場関係者によると、欧州市場や米市場ではトランプ氏の当選を前提としたトランプ取引がアジア取引時間帯よりも活発化する可能性が高く、米長期金利が4.5%を突破してドル/円が155円台に乗せる展開が予想されるという。

 

 <熱狂の後に来るトランプ政策の吟味>

 ただ、トランプトレードの賞味期限は意外に短いのではないか、との声も市場の一部ではささやかれている。

 というのもトランプ氏の打ち出している政策が来年1月の大統領就任式を経て政権が本格スタートして以降、どのような手順や日程で実行に移されるのか、不透明な点が多いためだ。

 例えば、原則として対中国は60%、その他の国は一律に10%の関税をかけるとされている点についても、いつから実施するのかは全く不明なままだ。欧州や日本など西側の同盟国に対しても一律に10%の関税をかけるのか、それとも新たな条件を設定し、それを飲んだ国は除外するというようなトランプ氏の好むトレードが展開されるのかも今のところは不明だ。

 法人や個人に対する減税は、通常は新年度(2025年10月-26年9月)からの実施となるが、それまでの間は何もしないのか、それともこれから決まる2024年12月20日で失効する暫定予算の後の予算措置で何らかの対応をするのかもわからない。

 大統領令を発令すれば、移民関連の規制を強化することは可能だが、その内容次第では米国内の人手不足が急速に深刻化して経済データに大きな影響を与えることもありえる。

 このため、市場は今後、トランプ氏の発言に注目し、その政策の具体的な内容や政策手順、プラスとマイナスの効果を見極めて織り込むプロセスがどこかの段階でスタートするだろう。

 マーケットのこのような「手探り」のプロセスが始まると、しばらくは上下に振れやすい値動きになるかもしれない。

 

 <対米輸出20兆円にかかる10%の関税、日本株にはマイナスに>

 東京市場への影響も同じように展開されるだろう。株高と円安はもうしばらくは継続するとみられるが、当初の熱狂が冷めてくると、日本企業に対する関税10%の実施はどうなるのか、という点に注目が集まると予想する。

 自動車やその関連産業の米国内生産は進んでいるものの、日本から米国への輸出額は年間で20兆円を超える。これに10%の関税をかけられると輸出数量の減少を伴って日本企業への影響はかなり深刻化する。

 マーケットがこの点を織り込み始めると、日本株の上値はかなり抑え込まれるのではないか。

 

 <インフレ再燃の懸念、進展すれば米国でトリプル安も>

 トランプ氏の政策が中長期的にマイナスに働く経路は大きく分けて2つあると考える。1つは、輸入関税の引き上げと移民規制の強化、米連邦準備理事会(FRB)への利下げ圧力などを受けたインフレ圧力の再燃だ。

 米長期金利の上昇が続けば、いずれ減税を好感した米株高の上値を抑えるだけでなく、大幅な下落要因になることも予想され、ドルが上昇から下落に転じれば「トリプル安」となって米国発で世界市場にショックを与えかねない事態を招くと予想する。

 

 <60%の関税、中国経済が腰折れすれば世界的な需要不足に>

 2つ目は60%の高関税実施が資産デフレに陥りかけている中国経済の低迷に拍車をかけ、それが世界の需要を下押しして世界的な需要不足を招きかねないというリスクだ。

 実際、足元で起きているドイツ経済の低迷の原因の1つは、対中輸出の不振であり、中国比率の高い日本企業の決算内容が一部で振るわないのも中国経済の減速が一因とみられている。中国経済の失速が鮮明になった場合の負のインパクトは市場の想定を超える危険性もある。

 

 日本時間の6日夕に勝利宣言したトランプ氏が、具体的に何をしようとするのか。その影響力はあまりにも大きく、詳細な発言内容が今後、最大のニュースとしてしばらく世界中から注目されることになる。


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